第1問
 Aは、Bに対し、平成21年11月2日、返済期日を平成22年3月31日とする約定で200万円を貸し渡した。このような消費賃借契約(以下「本件契約」という。)が成立したことについてはAとBとの間で争いがなかったが、Bがその返済期日にAに本件契約上の債務を弁済したかどうかが争いとなった。
 そこで、Bは、同年4月30日、Aを被告として、本件契約に基づくBのAに対する債務が存在しないことを確認するとの判決を求める訴えを提起した。
 この事例について、以下の問いに答えよ。なお、各問いは、独立した問いである。
1 Bの訴えに係る訴状の送達を受けたAは、同年5月20日、Bの訴えとは別の裁判所に、別訴として、Bを被告として、本件契約に基づいて200万円の支払を請求する訴えを提起した。この場合の
Bの訴えとAの訴えのそれぞれの適法性について論ぜよ。
2 Bの訴えに係る訴状の送達を受けたAは、同年5月20日、Bの訴えに対する反訴として、Bを反訴被告として、本件契約に基づいて200万円の支払を請求する訴えを提起した。
(1) この場合のBの訴えとAの反訴のそれぞれの適法性について論ぜよ。
(2) 同年6月1日の第1回口頭弁論期日において、Bは、Aの請求に対して、BはAに本件契約上の債務を全額弁済したのでAの請求を棄却するとの判決を求めると述べるとともに、Bの訴えを取り下げる旨述べ、これに対し、Aは、Bの訴えの取下げに同意すると述べた。その後の同年7月15日の第2回口頭弁論期日において、Aは、反訴を取り下げる旨述べたが、Bは、Aの反訴の取下げに異議を述べた。この場合のAの反訴の取下げの効力について論ぜよ。

出題趣旨

 1と2(1)は、債務不存在確認の訴えの係属中に同一の債務に係る給付の訴えが提起された場合に、訴えの利益や重複起訴の禁止との関係で、それぞれの訴えの適法性をどのように考えるべきかを、別訴の場合と反訴の場合とについて問う問題である。2(1)では、反訴の適法性についても触れる必要がある。また、2(2)においては、債務不存在確認の本訴に対して同一の債務に係る給付を求める反訴が係属している場合に、民事訴訟法第261条第2項ただし書の規定を文言どおりに適用してよいかどうかを検討する必要がある。

答案作成手順


第2問
 Xは、Yに対し、ある名画を代金100万円で売却して引き渡したが、Yは、約束の期限が過ぎても代金を支払わない。この事例について、以下の問いに答えよ。なお、各問いは、独立した問いである。
1 Xは、Yを被告として、売買代金100万円の支払を求める訴えを提起し、第一審で請求の全部を認容する判決を得たが、代金支払期限後の遅延損害金の請求を追加するため、この判決に対して控訴を提起した。この控訴は適法か。
2 Yが、Xから買い受けた絵画は贋作であり、売買契約は錯誤によって無効であると主張して、代金の支払を拒否したため、Xは、Yを被告として、売買代金100万円の支払請求を主位的請求、絵画の返還請求を予備的請求とする訴えを提起した。
(1) 第一審でXの主位的請求の全部を認容する判決がされ、この判決に対してYが控訴を提起したところ、控訴裁判所は、XY間の売買契約は無効で、XのYに対する売買代金債権は認められないとの結論に達した。この場合、控訴裁判所は、どのような判決をすべきか。
(2) 第一審で主位的請求を全部棄却し、予備的請求を全部認容する判決がされ、この判決に対してYのみが控訴を提起したところ、控訴裁判所は、XY間の売買契約は有効で、XのYに対する100万円の売買代金債権が認められるとの結論に達した。この場合、控訴裁判所は、どのような判決をすべきか。

出題趣旨

 控訴と予備的併合に関する問題である。1では、控訴の利益の必要性と判断基準について論じた上、代金請求と遅延損害金請求が別個の訴訟物を構成することを踏まえつつ判断基準への当てはめを行うべきである。2では、予備的併合の意義と予備的請求部分も移審していることを踏まえた上で、(1)では、当該部分が控訴審での審判対象となる理由、審級の利益を論ずべきである。(2)では、控訴審の審判対象が不服の限度に限られることや不利益変更禁止の原則との関係でどのような判決をすべきか、これらの原則を形式的に適用して差し支えないかを論ずべきである。

答案作成手順

第1 設問1
1 控訴の利益
(1)Xは、請求の全部認容判決を得ているため、控訴する利益があるのかが問題となる。
(2)控訴に求められる利益は、第一審の申立てと判決主文を比較し、後者が前者に不足する部分がある場合に、不足する部分について控訴の利益が認められる(形式的不服説)。
(3)Xは、全部認容判決を得ているので、申立て内容と判決主文の内容は同一で不足は認められないため、Xの控訴に訴えの利益はない。
2 以上により、Xの控訴には訴えの利益が無いので、控訴は不適法になる。

第2 設問2
1 小問(1)について
(1)確定判決の既判力は、判決主文中の判断に限定される(114条1項)のが原則である。よって、Xの請求が棄却されれば、甲債権の不存在に既判力が認められる。甲債権と相殺した乙債権についても相殺額に既判力が及ぶ(114条2項)が、これは判決理由中の判断にも例外的に既判力を認める規定であるため、既判力の及ぶ範囲が問題となる。
(2)114条2項の役割は、相殺された債権での争いの蒸し返しを防ぐことにあるが、その後の訴訟追行自由が必要以上に制限されるおそれもあるため、同項の既判力を相殺額のみに限定して調和を図るべきである。

第2 設問2
1 裁判所がすべき判決
 自働債権が弁済により存在していないことから相殺は認められず、存在している甲債権の返還請求について、裁判所は認容判決をすべきである。
2 既判力
(1)114条1項により、甲債権200万の支払い請求権の存在に既判力が及ぶ。
(2)乙債権300万については、弁済により不存在であると認定しているので、114条2項により乙債権が不存在であることの理由中の判断に既判力が及ぶ。
第3 設問3
1 裁判所がすべき判決
 Yの甲乙債権の相殺主張に対し、Xが乙丙債権の相殺で両債権とも不存在である旨の主張をしている。裁判所は、甲債権が存在すること及び乙丙両債権が訴訟前の相殺で不存在であることの心証を得た。よって、裁判所は請求認容の判決をすべきである。
2 既判力
(1)114条1項により、甲債権による200万の支払請求権の存在に規範力が及ぶ。
(2)訴訟上の相殺となる乙債権300万の不存在については、114条2項に基づき既判力が及ぶ。
(3)訴訟外の相殺となる丙債権についても同項の適用があるか。114条2項が、相殺を主張した債権を使って後訴で不当な蒸し返しを防止することを目的としているので、丙債権の不存在に既判力を与えなくても後訴での蒸し返しは信義則で充分防止できると解する。
以上

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