甲は、友人乙、丙に対して、Aが旅行に出かけて不在なので、A方に侵入し、金品を盗んでくるように唆した。乙、丙は、A方に侵入したところ、予期に反しAが在宅しているのに気付き、台所にあった包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと相談し、Aに包丁を突き付けた。ところが、Aが激しく抵抗するので、乙は、現金を奪うためにAを殺害しようと考え、その旨丙にもちかけた。丙は、少なくとも家人を殺したくないと思っていたことから、意外な展開に驚き、「殺すのはやめろ。」と言いながら乙の腕を引っ張ったが、乙は、丙の制止を振り切って包丁でAの腹部を刺し、現金を奪いその場から逃走した。
 丙は、Aの命だけは助けようと考え、乙の逃走後、直ちに電話で救急車を呼んだが、Aを介抱することなくその場に放置してA方を立ち去った。結局Aは、救急隊員の到着が早く、一命を取り留めた。
 甲、乙及び丙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。

答案骨子

甲乙の罪責を分析するに当たっては、甲乙それぞれの行為や侵害された法益等に着目した上で、どのような犯罪の成否が問題となるのかを判断し、各犯罪の構成要件要素を一つ一つ吟味し、これに問題文に現れている事実を丁寧に拾い出して当てはめ、犯罪の成否を検討する(平成25年採点実感等)

〔検討すべき構成要件事実〕
甲は、友人乙、丙に対して、Aが旅行に出かけて不在なので、A方に侵入し、金品を盗んでくるように唆した窃盗罪の教唆犯
乙、丙は、A方に侵入した
住居侵入罪
予期に反しAが在宅しているのに気付き、台所にあった包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと相談し、Aに包丁を突き付けた
強盗罪の共同正犯
Aが激しく抵抗するので、乙は、現金を奪うためにAを殺害しようと考え、その旨丙にもちかけた
強盗殺人罪の共同正犯?
「殺すのはやめろ。」と言いながら乙の腕を引っ張ったが、乙は、丙の制止を振り切って包丁でAの腹部を刺し、現金を奪いその場から逃走した強盗殺人未遂罪の共同正犯
乙の逃走後、直ちに電話で救急車を呼んだが、Aを介抱することなくその場に放置してA方を立ち去った中止犯

答案作成手順

第1 乙の罪責 
1 住居侵入罪(130条前段)
 乙は、窃盗目的でA方に侵入しているので、管理者の意思に反してその住居に立ち入ったと評価できる。よって、住居侵入罪が成立する。

2 強盗殺人未遂罪(243条、240条、236条1項)
(1)乙は、包丁でAの腹部を刺し現金を奪いその場から逃走しているので、腹部を刺すという「暴行」でAの反抗を制圧し、「財物」である現金を奪っているので「強取」が認められる。よって、強盗罪が成立する。

(2)殺人の故意と強盗罪
 ア.乙は、現金を奪うためにAを殺害しようと考えていたため、殺人と強盗の故意をどう評価すべきがが問題になる。
イ.強盗罪の結果的加重犯を規定した240条は、強盗が傷害や殺人の結果になり易いことから規定されたものであり、殺人の故意があっても法定刑に差がないため、傷害や殺人の故意を包含したものと解される。よって、殺意が認定される場合には、強盗致死罪ではなく、強盗殺人罪が成立する。
(3)強盗殺人未遂罪は成立するか
 243条で240条の未遂は罰すると規定されており、Aが一命を取り留めているので、乙は強盗殺人罪の未遂となる。
(4)以上により、乙は、住居侵入罪と強盗殺人未遂罪の罪責を負い、両罪は牽連犯となる。
 

第2 丙の罪責
1 住居侵入罪
 丙は、乙と共に住居侵入罪の共同正犯が成立する。
2 強盗致傷罪
(1)丙に乙と共に強盗致傷罪の共同正犯が成立しないか。
(2)丙は乙と包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと相談し、この共謀によりAに包丁を突き付けているので、強盗罪の実行の着手が認められる。
(3)その後、乙が包丁でAの腹部を刺し、現金を奪いその場から逃走していることから、丙にも乙と共に強盗殺人未遂罪の共同正犯が成立する可能性がある
3 実行の着手後、乙からのA殺害の提案を丙が拒否していることから、丙に共同正犯からの離脱が認められるか。
(1)実行着手後の共犯からの離脱には、実行行為から生じる結果の現実的危険性を主観的にも客観的にも除去する必要がある。具体的には、①共犯者からの離脱承認、②共犯者全員の実行行為無効化である。
(2)丙は「殺すのはやめろ。」と言いながら乙の腕を引っ張り、Aの殺害行為を阻止しようとしているが、実行行為を阻止できていない。したがって、丙に共犯からの離脱は認められない。
(3)丙には殺人の故意がないため、強盗致傷罪の罪責を負う。
4 Aが傷害を負った後も、丙はAの命を助ける行為をしているため、中止罪(43条但書)は成立しないか。
 中止犯は未遂罪にしか適用できないので、強盗致傷罪である既遂罪に中止犯は成立しない。
5 以上により、丙は住居侵入罪と強盗致傷罪の罪責を負い、両罪は牽連犯となる。

第3 甲の罪責
1 住居侵入罪及び窃盗罪(235条)の教唆犯(61条)
(1)甲は、友人乙丙に、A方に侵入し、金品を盗んでくるように唆しているので、住居侵入罪と窃盗罪の教唆犯が認められそうだが、乙丙が教唆された窃盗罪ではなく強盗行為を実行しているため、窃盗罪の教唆犯が成立するか。
(2)教唆は特定の犯罪を唆す行為であるため、故意責任は問えず、強盗罪の教唆犯は成立しないとも解されるが、被教唆者が同一類型の規範に直面し、反対動機を形成できるにもかかわらずあえて犯罪を行ったと評価できるのであれば、故意を認めることができると解する。
(3)窃盗罪と強盗罪は共に財物に対する不法領得の法益侵害であり、実行行為である構成要件が重なり合う範囲で反対動機の形成は可能であるから、甲には、窃盗罪の教唆犯が成立する。
2 以上により、甲は住居侵入罪及び窃盗罪の教唆犯の罪責を負う。 

以上

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