反致(はんち):国際私法における準拠法のねじれを解決するルール

反致とは、国際的な法律問題において、日本の法律(国際私法)によれば外国の法律(準拠法)を適用すべきとされた場合に、その外国の法律(国際私法)をみると、逆に日本の法律を適用するように指定し返してくる現象、または第三国の法律を指定する現象を指します。このような法律の「堂々巡り」や「たらい回し」状態を解決するためのルールが反致制度です。

日本では「法の適用に関する通則法」(以下、通則法)第41条で定められており、国際的な相続や身分関係の事件で重要な役割を果たします。

反致がなぜ必要か?

国によって、ある法律問題(例えば相続)について、どの国の法律を適用するかのルール(抵触規則)が異なります

  • 本国法主義:その人の国籍がある国の法律を適用する(日本、ドイツなど)。
  • 住所地法主義:その人が住所を置いている地の法律を適用する(アメリカ、イギリスなど)。
  • 常居所地法主義:その人が普段どこに住んでいるかで判断する(EUなど)。
  • 財産所在地法主義:不動産など財産の所在地で判断する。

このルールの違いから、当事国の間で互いに準拠法を譲り合う「消極的抵触」という状況が生まれることがあり、これを解決するために反致の考え方が必要となります。反致を認めることで、国際的な判決の調和を図り、当事者にとってより公平で予測可能な結論を導くことを目指します。

反致の種類

反致には、準拠法の指定がどのように動くかによっていくつかの種類があります。

1. 狭義の反致(直接反致)

日本の国際私法が指定したA国の国際私法が、逆に日本法を指定し返してくる場合です。日本の通則法第41条本則が認めているのは、この「狭義の反致」です。この場合、最終的に日本法が適用されます。

【具体例:相続】

  1. 事案:長年日本に住んでいたドイツ国籍のXさんが日本で亡くなり、相続が開始された。
  2. 日本のルール(通則法36条):相続は被相続人の本国法による。→ ドイツ法を適用すべき。
  3. ドイツのルール(EU相続規則):相続は被相続人の常居所地法による。Xさんは日本に住んでいた。→ 日本法を適用すべき。
  4. 結論:ドイツ法が日本法を指定し返してきたため、「反致」が成立。日本の裁判所は日本法(民法)に則って相続手続きを進めます。

2. 転致(てんち)

日本の国際私法が指定したA国の国際私法が、日本でもA国でもない第三国であるB国の法律を指定する場合です。日本の通則法では、原則として転致は認めていません

【具体例】

  1. 日本のルール:ある法律問題についてA国法を適用すべき。
  2. A国のルール:その問題についてはB国法を適用すべき。
  3. 結論:日本の通則法は原則、転致を認めないため、A国の実質法(国際私法を除く民法など)を適用します。ただし、手形法など個別の法律で転致を認める例外規定もあります。

3. 二重反致

少し複雑なケースで、反致を認めている国同士で発生します。日本が指定したA国法が日本法を指定し返し(反致)、さらにA国側も「日本が反致を認めるなら、それに従おう」として、結果的にA国法が適用される場合です。実務上、解釈が分かれる論点です。

日本の法律における反致のルール(通則法第41条)

日本の反致に関する基本ルールは、通則法第41条に定められています。

(反致)第四十一条 当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(…婚姻の効力…)又は第三十二条(…嫡出でない子の親子関係の成立…)の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。

この条文のポイントは以下の通りです。

  • 適用される場面:反致が成立するのは、日本の通則法が「当事者の本国法による」と定めている場合に限られます。具体的には、人の行為能力、後見、失踪宣告、氏名、そして相続などが該当します。
  • 成立要件:指定された本国(外国)の法(国際私法を含む)に従った結果、「日本法によるべき」とされることが必要です。
  • 例外:当事者の意思を尊重すべき法律関係や、子の保護を目的とするような特定の身分関係(婚姻の効力や嫡出でない子の親子関係の成立など)では、反致の適用が排除されています。これは、反致によって当事者の予測を裏切ったり、子の利益を損なったりすることを避けるためです。

反致を認めるメリットとデメリット

メリットデメリット
国際的な判決の調和:関係国間で同じ結論に至る可能性が高まる。法廷漁り(フォーラム・ショッピング)の助長:当事者が自分に有利な結論を出す国を選んで訴訟を起こす可能性。
自国法(日本法)適用の拡大:日本の裁判所にとって、馴染みのある日本法で裁判を進めることができ、迅速かつ適切な解決が期待できる。準拠法の確定が複雑化:外国の国際私法まで調査する必要があり、時間とコストがかかる。
具体的妥当性の確保:当事者の生活の本拠地である日本の法律を適用することで、より実態に即した解決が図れる場合がある。当事者の予測可能性の低下:どの法律が適用されるか、専門家でないと予測が難しい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA