出題趣旨

〔第1問〕
本問は、単位法律関係ごとに準拠法を決定するという国際私法の大原則について、二つの最高裁判所の判決を手掛かりに、その基本的な理解と応用力を問うことを中心にしたものである。
〔設問1〕は、相続問題を解決するための前提として親子関係の成否を判断するという先決問題といわれる問題である。その問題構造を明確にするため、設問中で「本件遺産分割を行う前提としてのDC間の親子関係の成否」を論じよとした。先決問題という用語を用いる必要はないが、先ずは主たる問題である相続問題を解決する準拠法を決定し、そしてそれを適用した結果、被相続人Dに子がいるか否かが問題となることを明らかにしなければならない。極端に言えば、相続の準拠法上子が相続人でなければ、親子関係の成否は問題とならないからである。
この構造を明らかにした上で、それが相続とは異なる単位法律関係であることを示し、その準拠法を改めて決定する必要があることを説明しなければならない。その点において、新たな準拠法決定をしないという本問題準拠法説を仮に主張するのであれば、それ相当の説明が必要となる。

新たな準拠法決定については、法廷地国際私法説や準拠法所属国国際私法説、さらに、その折衷説があるが、法廷地国際私法説を傍論ながら明確に採用した最高裁判決(最判平成12年1月27日民集51巻1号1頁)の存在には言及すべきである。
新たな準拠法決定においていずれの説に立つにせよ、本問では、出生によらない、すなわち再婚による親子関係の成否が問われているところ、法廷地の国際私法にも本問題準拠法所属国(本問では甲国)の国際私法にも、それに関して直接規律する条文は存在しない。法廷地の国際私法、すなわち法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)に則して言えば、嫡出性に関する準拠法は通則法第28条と通則法第30条が規定しているが、前者は出生を前提に、後者は準正要件の完成を前提にしている。これら以外に嫡出性に関する条文はない。このため、いずれかの条文を類推適用して準拠法を決定することになる。「その他の親族関係等」に関する準拠法を定める通則法第33条を適用する考え方もあり得る。いずれにしろ、自らの論拠を示し、既存の条文を適用ないし類推適用する形で準拠法決定をしなければならない。その上で決定された準拠法を正しく適用し、結論を導き出すことが求められる。本問題準拠法所属国の国際私法による場合も、基本的には、同様の構造になる。
ちなみに、前記最高裁判決は、法廷地国際私法説に立つことを明言した上で、出生以外の事由により嫡出性を取得する場合の嫡出親子関係の成立については、通則法第28条の前身規定である平成元年改正前法例第17条を類推適用して、これを判断している。
〔設問2〕は、時際法の問題である。法の抵触には、①地域的な法の抵触、②人的な法の抵触、更に③時間的な法の抵触がある。①を解決する法規が国際私法であり、②を解決する法規が人際法であり、③を解決する法規が時際法である。
設例では、相続の準拠法として指定された甲国法につき法律改正が行われ、AとDが再婚した当時にはその再婚によりDC間に親子関係が成立するとする法律が存在していたのに対して、Dが死亡した時にはその条文が廃止されていた。しかも、当該条文でそれまで成立していた親子関係がこの改正により遡って廃止されるという経過措置が、甲国内でとられていた。このような場合、日本の裁判所は、新法と旧法のいずれを適用すべきか。これが問われている点である。通説的な理解によれば、時間的な法の抵触を解決する時際法は、場所的な法の抵触を解決する国際私法とは性質を異にし、それは実質私法秩序内の、すなわち準拠法国内の問題であるとされる。本問に即していえば、新法と旧法のいずれを適用するかは甲国の国内法上の問題と考え、改正時の甲国の経過規定によって決せられることになる。これに対して、国際私法と時際法の抵触法としての共通性を強調して、準拠法所属国の時際法によることを原則としつつも、例外的に法廷地時際法の適用を認める少数説が存在している。通説、少数説いずれの立
場に立つにせよ、こうした法適用の構造を明らかにし、自らの結論を述べることが求められる。
〔設問3〕は、法律関係性質決定の問題である。ここでは、相続人が他の共同相続人の同意を得ることなくその持ち分を売却した行為の有効性が問われている。そこで、この問題を判断する準拠法を決定する必要があり、それは、この問題をいかなる単位法律関係の問題と考えるかによって決定されることになる。この設例も、最高裁判決(最判平成6年3月8日民集第48巻3号835頁)に基づいて作られている。ここでも判例の存在への言及が求められる。この最高裁判決は、この問題を相続の問題と法性決定しながら、「取引の安全」という考え方を持ち出して、結局、日本法を適用してその有効性を認めている。同判決の存在に加えて、その考え方等についても説明をしていれば、更に評価されよう。
ここでは、この問題を相続の問題と性質決定して、法の適用に関する通則法第36条により導き出される準拠法により解決する立場、この問題を物権変動の問題として通則法第13条第2項による準拠法により解決する立場、さらに、これら2つの準拠法をいずれも適用する立場(その中でも、これらを累積的に適用する立場と配分的に適用する立場に分かれる)等に分かれる。いずれの見解に立つにしろ、自説を適切に述べるとともに、他説との違いを明らかにし、結論を明示する必要がある。
〔第2問〕
本問は動産の消費者売買とその動産の物権変動をめぐる事案を素材として、国際私法と国際民事手続法に関する基本的理解とその応用力を問う出題である。
〔設問1〕は、消費者契約に関する訴えの国際裁判管轄権とその準拠法の決定について問うものである。
小問1は前記訴えに関する国際裁判管轄権についての問題である。
まず、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)第3条の2による管轄権の有無について触れることが求められる。これは最も原則的な管轄原因を定める規定だからである。同第1項に定める被告の住所は日本にはないので同条による管轄権はない。
次に、民訴法第3条の4第1項の適用が問題となる。同条の趣旨について説明した上、Xの「消費者」該当性とYの「事業者」該当性について検討すべきである。いずれも肯定されるので同条同項に該当することが肯定される。
さらに、民訴法第3条の9について検討することが求められる。問題文でYの日本との関係の薄さを特に詳しく記しているのは、そのような意味を含んでいる。本条は極めて限定的に適用すべきであるとの説もあり、そのような立場を採ることも当然認められるが、その場合でも、本条に全く触れないのでは解答者が本条についてどのような立場を採るのかがわからない。まず、民訴法第3条の9の趣旨について、又は、これを限定的に運用すべきか否か(一般的に論じても、特に民訴法第3条の4第1項の場合について論じてもよい。)について論じることが望ましい。次に本件における「応訴による被告の負担」と「証拠の所在地」について具体的に検討した上で結論を出すことが求められる。
小問2は、本件売買契約の準拠法の決定について判断を求めている。
まず、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第7条による指定があるかどうかについて触れなければならない。明示の合意はなく、また、「特定の国の法の条文への言及もなく、特定の国の法に特有な法律用語も使われて」おらず、その他黙示の意思を推定させる事情もないので、黙示の合意も存在しないと解されよう。
次に通則法第11条の適用が問題となる。まず、同条の趣旨を説明した上、本件売買契約の「消費者契約」該当性について記述すべきである。それは肯定されるので、次に同条第6項第1号本文又は同項第2号本文の適用が問題となる。同項全体又は同項第1号本文若しくは同項第2号本文の趣旨について説明した上、同項第1号本文又は同項第2号本文への当てはめを行うことが求められる。
同項第1号本文又は同項第2号本文に該当するので、通則法第11条は適用されず、原則に戻って通則法第8条によることとなる。同条第2項の趣旨について述べた上で同項への当てはめを行うことを要する。そして、同項が同条第1項の最密接関係地法の推定規定であることを説明すること、または、本件では推定は覆されないことの指摘が求められる。
〔設問2〕は、当事者間における物権の得喪に関する準拠法の指定とその当てはめを問うものである。
まず、Yは、本件売買契約を成立させながら、本件絵画について所有権が移転していないことを主張しているから、Yがなお本件絵画の所有権の帰属主体であるのか、あるいはその所有権はいずれかの準拠法の規定によりXに移転済みであるのかが問題となる。
通説的な理解に従えば、物権の得喪に関する通則法第13条第2項の適用によって、本件絵画の所有権の移転に関する準拠法の有無を明らかにした上で、その適用により本件絵画の所有権はXに移転済みであるのか否かを判断しなければならない。
通則法第13条第2項は、同条第1項と異なり、単純に目的物の所在地法を準拠法とするのではなく、物権の得喪に関する準拠法を「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」として、ある特定の時点のものとしている(不変更主義)から、その適用に当たっては、この点を考慮することが求められる。すなわち、Yは、口頭弁論終結時(現時点)における本件絵画の所有権の帰属主体であることを主張しているが、そうであるからといって直ちに目的物(本件絵画)の現時点の所在地法がいずれの法であるかを探求するのではなく、問題とされる物権の得喪の「原因となる事実」に着目し、それが「完成した当時」がいつであるのかを検討する必要がある。Yは、本件絵画の引渡しがなされていないことを理由として、本件絵画の所有権確認の訴えを提起しているから、まずはYの主張の前提である甲国法が通則法第13条第2項により本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるのか否かが問われることになる。
しかし、本件絵画は、甲国法により所有権の移転に必要とされている引渡しが未了であるから、甲国法によっては、本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」はまだ完成していないことになる。すなわち、甲国法によると、本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実が完成した当時」は未到来であるから、甲国法は、通則法第13条第2項の要件を充たさず、よって本件絵画の所有権の移転に関する準拠法とはならない。このように、通則法第13条第2項は、ある法が物権の得喪に関する準拠法になるか否かを決定するために、その法によって物権の得喪の原因となる事実が完成したといえるかどうかについての検討を求めるという構造を有している。したがって、甲国法を準拠法とした上で本件絵画の所有権がXからYに移転していないという帰結を導くのではなく、通則法第13条第2項のこのような構造を理解した上で、甲国法がそもそも本件絵画の所有権の移転に関する準拠法にはならないという結論に至る論理過程を示すことが期待されている。
次に、本件絵画の所有権の移転に関する準拠法は他に存在しないか否かを検討することが求められる。しかるところ、本件絵画は、所有権確認の訴えの口頭弁論終結時において、公海上を航行中の船舶に積載されているから、その目的物所在地には法が存在しない。そこで、このような移動中の物についていかなる取扱いをするかが問われることになる。移動中の物については、その仕向地法を目的物所在地法とする理解が一般的であるが、〔設問2〕においては、その根拠を説明した上で、通則法第13条第2項に基づき、仕向地法である日本法(民法第176条)によって本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実が完成した当時」がいつなのかを検討し、それによって日本法がその「当時の目的物所在地法」として本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるのか否かについて判断することが求められる。
そして、民法第176条が適用されるのは、早くても本件絵画が移動中の物になってからであり、X及びYは、それ以後、同条の定める所有権の移転に関する意思表示をしていないと考えると、本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」は存在しないから、日本法は、通則法第13条第2項の要件を充たさず、したがって本件絵画の所有権の移転に関する準拠法にはならないことになる。そうすると、本件絵画についてYからXへの所有権の移転を認める準拠法は存在しないことになり、Yの請求は認容されるという帰結が導かれる。
他方、民法第176条は、物権の移転に関する当事者の意思表示がどの時点でされたかを問題にしていないと考えると、本件売買契約は、本件絵画が甲国に所在する時点で有効に成立していたから、本件絵画が移動中の物となったか、又は遅くとも積載された船舶が甲国の領海から公海上に達し、仕向地法である日本法が適用されるようになった時点で、本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」は完成したと評価することも可能である。そうすると、日本法は、通則法第13条第2項にいう「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」として本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるから、民法第176条が適用され、本件絵画の所有権はYからXに移転済みであるとしてYの請求は棄却されるという帰結が導かれる。
これらの考え方は、民法第176条の解釈とも関係し得るが、解答者は、自らの見解を説得的に論述した上で、いずれかの結論に至ることが期待されている(以上は物権の準拠実質法によるとの立場を前提としたものであるが、その他、これは国際私法の解釈問題であるとの立場もあり、その立場によってもよい。)。
以上の通説的な理解とは異なり、国際私法上債権行為と物権行為を区別する必要はないとして、法律行為の当事者間では、物権の得喪の問題も通則法第7条以下の法律行為の準拠法によるべきであるとする説もある。この説に立つ場合、上記の通則法第13条第2項により準拠法を指定する説からの考えられる批判に配慮しながら自説の根拠を示した上で、通則法第7条以下の適用により準拠法を指定することになる。XY間の本件売買契約は有効に成立しているから、X及びYが本件売買契約に関して準拠法を選択したか否か、準拠法の選択がないとするならば、通則法第8条以下で最密接関連地法を指定することになるが、〔設問2〕では甲国に常居所を有しているYが特徴的な給付を行うこととされていることを的確に示すことが求められよう。その上で、甲国法を準拠法として当てはめを行うと、本件絵画については所有権がYからXに移転していないということになり、Yの請求は認容されるという帰結が導かれる。
以上のとおり、〔設問2〕では、問題文の条件を踏まえて、物権の得喪に関する通則法第13条第2項の構造を理解していることを示し、あるいは物権の得喪の問題であっても通則法第7条以下が適用されることを説得的に示した上で、Yの請求の成否を明確に論じることを要する。

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