〔第1問〕
(配点:50)
日本人男Yと米国人女Xは日本で婚姻して共同生活を始め、Xは子を懐胎した。しかし、その後両者は不和となり、Xはその出身地である米国のA州に帰り、その地において子Zを出生した。Zの出生を知ったYは、Zに会うために米国に赴き、A州のホテルに宿泊した。Xは、YがZに対して支払うべき扶養料を確保するため、A州の送達吏とともに同ホテルに赴き、送達吏は、Zへの扶養料の支払をYに求める訴えの訴状をYに手交した。Yはこの訴状をその場で破り捨てて日本に帰国したが、A州の裁判所は、Y欠席のまま、Yに対してZへの月額1000合衆国ドルの支払を命ずる判決を下した。なお、Zは、日本と米国の国籍を有し、A州に居住している。
以上の事実を前提として以下の設問に答えよ。
〔設 問〕
1. A州の裁判所の判決の効力が日本において問題となる場合に、その効力が日本で承認されるための要件である管轄権はA州に認められるか。なお、A州の法律によると、以下のいずれかの場合にA州の裁判所は A州に居住しない者 以下 本人 という を被告とする扶養関係、(「」。事件につき管轄権を有するとされている。
① 本人がA州において訴状の交付送達を受けたとき
② 本人が応訴したとき
③ 本人がA州に子とともに居住したことがあるとき
④ 本人がA州に居住したことがあり、かつ、子の出産前に要した費用又は扶養料を支払っていたとき
⑤ 本人の行為又は指示の結果として子がA州に居住しているとき
⑥ 本人が性交渉をA州において持ち、その結果として子が懐胎された可能性があるとき
2. Xは、その後、離婚とXのための離婚後の扶養料の支払をYに求めてA州の裁判所に訴えを提起した。A州の裁判所は、A州の法律を適用し、XとYの離婚を認め、同じくA州の法律により、Xのために離婚後の扶養料として月額2000合衆国ドルを支払うようYに命ずる判決を下した。Yは、この判決に従い、1年間、日本から同金額を送金したが、自己の経済状況が悪化したため、日本の裁判所に扶養料を月額1000合衆国ドルに減額する申立てをした。A州の前記判決が日本における承認の要件を満たしていると仮定した場合、この扶養料減額請求に日本の裁判所が適用すべき準拠法は何か。
3. A州の裁判所の離婚判決の効力が日本において承認されないことが判明したため、Xは日本の裁判所に離婚の申立てをした。この場合に、Zの親権者の指定について日本の裁判所が適用すべき準拠法は何か。

(配点:50)
〔第2問〕
日本の商社であるX会社は、甲国の有名な醸造所であるY会社との間で、Yが特定年に特定の一級畑で収穫されたぶどうの果実のみを使って醸造した特定の銘柄の瓶詰ワイン(一連番号の付されたもの)で、Yの特定の倉庫に保管中のもの全部(以下「本件物品」という )を「F.O.B.甲国の港 インコタームズ2000 の貿易条件で買い受け 代金は日本の銀行の発行する信用状で決済する契約を締結した。この契約の条項中には、準拠法を日本法とする旨の条項があるが、紛争の解決方法に関する条項はない。Xは、日本の海上運送業者に甲国の港から日本の港までの運送を依頼した。
以上の事実を前提として以下の設問に答えよ。なお、各問は独立した問いである。
〔設 問〕
1. Xが、日本に到着した本件物品を転売したが、予想外に品質が劣っていたため予定した価格で販売できなかったことを理由に、Yに損害賠償を請求している。Xは、Yの損害賠償義務は日本において履行されるべきであるとして、日本の裁判所に訴えを提起した。日本の裁判所はこの訴えについて国際裁判管轄権を有するか。なお、Yは日本に事務所、営業所等の活動の拠点や販売代理店などは有していないものとする。
2. Xは、本件物品の日本における転売時期との関係で、陸揚げから1年後に本件物品の検査をしたところ、その劣化の原因がYの倉庫での保管状態にあることが判明した。XのYに対する損害賠償請求について日本の裁判所が国際裁判管轄権を有することを前提とした場合に、XのYに対する請求は認められるか。
3. Yは、甲国の港でXに本件物品を引き渡したが、XY間の契約締結以前に、甲国のZ会社が本件物品をYから買い受け、本件物品をYに預けたままにしていたことが判明した。Xが日本の港で陸揚げされた本件物品の引渡しを受けた後、Zは、Xに対し、所有権に基づいて本件物品の引渡しを求める訴えを日本の裁判所に提起した。Xは本件物品について自己の所有権を主張している。XZ間の本件物品の所有権に関する争いは、いかなる国の法律によって判断されるか。また、Zの請求は認められるか。なお、甲国法では、①動産の所有権の移転は契約の効果によって生ずる、②動産について売主が所有権を移転した場合には、売主は権利を喪失し、その者からそれ以後に当該動産を買い受けた者は当該動産の所有権を取得することはない、③ただし、動産の売主が商人であり、買主が売買契約後も当該動産を売主に預けていた場合は、その売主からそれ以後に当該動産を買い受けた者は所有権を取得するものとされている。

出題趣旨


〔第1問〕
本問は、渉外的な離婚に伴う夫婦間及び親子間の扶養義務並びに親権に関する国際私法上の諸問題について問うものである。
設問1は、扶養料の支払いを命ずる外国判決について、我が国におけるその承認要件の一つである間接裁判管轄の有無について問うものである。我が国の国際民事訴訟法による間接裁判管轄の有無を判断する基準を示した上で、扶養料請求事件における扶養権利者の住所地に管轄を認めるべき事情等に配慮した論述が求められる。
設問2は、我が国で承認される扶養料の支払いを命ずる外国判決がある場合の扶養料減額請求の準拠法を問うものである。扶養義務の準拠法に関する法律第4条第1項の「離婚について適用された法律」についての正確な理解が求められる。
設問3は、離婚に伴う子の親権に関する準拠法を問うものである。この点は、子を基準とする法例第21条の親子関係の準拠法によるとする見解が多数説であり その論拠を示した上で二重国籍を有する子の本国法を同法第28条第1項ただし書によって特定し(日本法 、同法第21条の同一本国法を決定する処理を行う必要がある。
〔第2問〕
本問は、企業間における国際的な動産売買の目的物(特定物であるワイン)に瑕疵があった場合の国際私法上の諸問題及び動産に関する物権の得喪の準拠法について問うものである。
設問1は、瑕疵担保責任としての損害賠償請求の国際裁判管轄について問うものである。財産関係事件の国際裁判管轄の有無の判断基準を示した上、我が国に義務履行地国(民事訴訟法第5条第1号)としての管轄が認められるか否かを検討する必要がある。本件の契約準拠法である日本法によれば、金銭債務の履行地は債権者の住所地である日本ということになるが(民法第484条、商法第516条第1項 、本来の債務であるワインの引渡しの履行地としては甲国が合意されており(FOB 、国際民事訴訟法の観点から、本来の引渡債務が損害賠償債務に転化した場合の義務履行地をどのように解するかを示す必要がある。
設問2は 買主がワインの瑕疵を陸揚げから1年後に発見した場合の処理を問うものである契約準拠法である日本法を前提とし、瑕疵担保責任の除斥期間を定める商法第526条につき、その要件該当性(当事者の商人性、同条第2項前段が適用されるのか、後段が適用されるのかなど)を論ずる必要がある。
設問3は、ワインの所有権の帰属(得喪)の準拠法及びその適用結果を問うものである。法例第10条第1項及び第2項のそれぞれの適用範囲の理解を前提に単位法律関係を示し、同条第2項の 原因タル事実ノ完成シタル当時ニ於ケル目的物の所在地法 を特定 甲国法 して甲国法の本件への当てはめを丁寧に行う必要がある。

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