暴力団関係者であることを隠蔽する目的で、旧氏名(婚姻前の氏など)と認印を用いて賃貸借契約書を交わす行為は、複数の法的な問題を引き起こす可能性があり、契約の無効や、場合によっては刑事罰に問われるリスクを伴います。

契約の有効性と取消しの可能性

まず、契約書に旧氏名や認印が使用されたこと自体が、直ちに契約を無効にするわけではありません。日本の法律では、契約は当事者間の意思の合致によって成立するため、署名や押印は、その意思を証明するための一つの手段とされています。たとえ旧氏名であっても、契約者本人が特定され、その人物が契約の意思を持って署名・押印したことが明らかであれば、契約自体は有効に成立します。

しかし、問題の核心は「暴力団関係者であることを隠す」という目的にあります。現在の不動産賃貸借契約では、多くの場合、「反社会的勢力排除条項(暴排条項)」が盛り込まれています。これは、契約者や入居者が暴力団関係者ではないことを確約させ、もし虚偽の申告が発覚した場合には、貸主が催告なしに契約を解除できるとするものです。

暴力団関係者がこの条項の存在を知りながら、意図的に旧氏名を使って身分を偽り契約を締結した場合、これは貸主に対する「詐欺」にあたる可能性があります。民法第96条は、詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができると定めており、貸主は契約の取消しを主張することができます。

詐欺罪に問われる可能性

さらに、単なる契約取消しに留まらず、刑事上の責任を問われる可能性もあります。相手を欺いて財産上不法の利益を得る行為は、刑法第246条の詐欺罪に該当します。

この場合、暴力団関係者であることを告知すれば到底入居を承諾しなかったであろう貸主を、旧氏名を用いるという手段で欺きアパートの部屋という財産的価値のあるものを利用する権利を得た、と評価されれば、詐欺罪が成立する可能性があります。実際に、暴力団員が身分を隠して住宅ローンを組んだり、銀行口座を開設したりしたケースで、詐欺罪が適用され有罪となった判例は多数存在します。

貸主・管理会社の対応

万が一、入居後に暴力団関係者であることが発覚した場合、貸主や不動産管理会社は、前述の暴排条項に基づき、直ちに契約を解除し、物件の明け渡しを求めることが一般的です。

また、警察への通報や、各都道府県の暴力団排除条例に基づいた対応が取られることも考えられます。これらの条例は、事業者が暴力団に利益を供与することを禁止しており、賃貸契約もこれに該当する可能性があるためです。

まとめ

暴力団関係者が旧氏名と認印を使って賃貸借契約を結ぶ行為は、単なる「身分を偽る」というレベルの問題ではなく、民事上の契約解除事由となり、さらには詐欺罪という刑事罰の対象にもなりうる重大な違法行為です。不動産取引の透明性と安全性を確保するため、社会全体で反社会的勢力を排除する動きが強化されており、このような行為は極めて高いリスクを伴うと言えるでしょう。

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