殺人目的で事情を知らない看護師に毒入り薬品を注射させた場合、行為者の罪責は大きく「間接正犯」と「教唆犯」のどちらに当たるかで議論が分かれます。
間接正犯の可能性
間接正犯とは、他人を道具のように利用して犯罪を実行する形態を指します。医師が看護師に毒薬入りの注射器を渡し、それを指示して患者を殺害させようとした場合、医師が看護師を「道具」として利用したとみなされ、間接正犯が成立すると考える見解があります。ここでは、医師が自ら手を下さなくても、人を道具として利用して犯罪を実行しているため、正犯として扱われます。看護師が仮に過失によって毒薬と知らずに注射を行ったとしても、医師は看護師の過失を利用して殺人を企てたことになるため、医師に殺人罪の間接正犯が成立する可能性があります。
教唆犯の可能性
一方、教唆犯とは、他人をそそのかして犯罪を実行させる行為を指します。医師が看護師に毒薬入り注射を指示し、看護師がその指示に従って注射を行った場合、医師が看護師に殺人を教唆したとみなされる見解も存在します。この場合、看護師が殺人罪の刑責を負うのは当然ですが、医師は殺人罪の教唆の刑責を負うことになります。
看護師が毒薬であることを知覚した場合
もし看護師が注射前にそれが毒薬であることを知覚しながらも、患者に注射して殺害した場合は、看護師は殺人罪の刑責を負います。このような場合でも、医師の行為が間接正犯にあたるか、教唆犯にあたるかについては見解が分かれています。看護師が途中で毒薬と知って殺害行為に及んだとしても、医師の看護師に対する誘致行為は実行行為に当たると解釈され、医師も殺人罪の刑責を負うという見解もあります。
関連する判例と事象
過去には、病院内で医療従事者による患者殺害事件が発生しており、その罪責が問われています。例えば、2016年に横浜市の旧大口病院で、看護師が入院患者の点滴バッグに消毒液を混入し殺害した事件では、元看護師が殺人罪で起訴されました。この事件では、被告の責任能力や量刑が争点となり、無期懲役の判決が下されています。このように、医療現場における過失や意図的な行為が、重い刑事責任に問われることがあります。