民事訴訟において、「文書の成立の真正」や「代理権の授与」は、契約の有効性や法律行為の効果帰属を判断する上で極めて重要な争点となります。準備書面でこれらの事実を主張または反論する際には、要点を押さえた的確な記載が求められます。

以下に、それぞれの争点について準備書面に記載すべき主要な事項を解説します。


第1部:文書の成立の真正に関して記載すべき事項

文書の成立の真正とは、その文書が、作成者として表示されている人物の意思に基づいて作成されたことを意味します(民事訴訟法第228条1項)。特に、契約書や借用書などの「処分証書」については、成立の真正が認められれば、特段の事情がない限り、その文書に記載された内容の法律行為があったものと事実上推定されます。

1. 主張の核心

まず、文書の成立の真正を肯定する側か、否定する側か、立場を明確にした上で主張を組み立てます。

  • 肯定する側(文書の作成名義人本人またはその承継人が作成したと主張する場合)
    • いつ、どこで、誰が、どのようにしてその文書を作成したのかを具体的に主張します。
  • 否定する側(偽造・変造などを主張する場合)
    • 文書が作成名義人の意思に基づかずに作成されたものであることを具体的に主張します。

2. 記載すべき具体的な事項

記載項目肯定する側の主張内容否定する側の主張内容(反論)
作成者文書に署名・押印したのが作成名義人本人であること。署名が本人の筆跡と異なること。押印された印影が本人の印章のものではないこと(印影の偽造、冒用など)。
作成日時・場所文書が作成された具体的な日時と場所。主張された日時・場所において、作成名義人は別の場所にいた等のアリバイ。
作成経緯・目的文書を作成するに至った具体的な経緯や目的(例:金銭消費貸借契約を締結するため、など)。文書を作成する動機や必要性が存在しないこと。
署名・押印の真正【署名】 作成名義人本人が自署したこと。
【押印】 作成名義人本人の意思に基づき、本人の印章を用いて押印されたこと(二段の推定※)。
【署名】 筆跡が異なることを具体的に指摘する(筆跡鑑定の申出も検討)。
【押印】 印影が本人の印鑑のものではないこと、または本人の意思に反して無断で使用されたこと(印鑑の盗用など)を具体的に主張する。
文書の形式・内容文書の内容が、当事者間の合意内容と一致していること。文書の内容が不自然・不合理であること。作成名義人の通常の意思に反する内容であること。

二段の推定文書中の押印が本人の印章によるものであることが立証されれば、その押印は本人の意思に基づいて行われたものと事実上推定され、結果として文書全体の成立の真正が推定されます(最判昭和39年5月12日)。この推定を覆すためには、相手方が「本人の意思に反して押印された」ことなどを具体的に主張・立証する必要があります。

3. 証拠との関連付け

主張を裏付けるため、どのような証拠(書証、人証など)によって立証するのかを明記します。

  • 書証:印鑑証明書、筆跡が比較できる他の文書(日記、手紙など)、文書作成に関わるメールのやり取りなど。
  • 人証:文書作成の場に立ち会った第三者の証言、作成名義人本人の尋問。
  • 鑑定:筆跡鑑定、印影鑑定。

第2部:代理権の授与に関して記載すべき事項

代理権の授与とは、本人が代理人に対して法律行為を行う権限を与えることを指します。代理人が本人に代わって行った法律行為の効果が本人に帰属するためには、有効な代理権の授与があったことが前提となります。

1. 主張の核心

代理権の存在を肯定する側か、否定する側か、立場を明確にします。

  • 肯定する側
    • 誰が(本人)、誰に(代理人)、いつ、どのような内容の代理権を与えたのかを具体的に主張します。
  • 否定する側
    • 代理権を授与した事実がないこと、または代理人がその権限の範囲を超えて行為したこと(権限踰越)を主張します。

2. 記載すべき具体的な事項

記載項目肯定する側の主張内容否定する側の主張内容(反論)
代理権授与の基礎となる法律関係代理権授与の原因となった契約や法律関係(例:委任契約、雇用契約、法定代理など)。そのような基礎となる法律関係が存在しないこと。
授与の事実代理権を授与した具体的な日時、場所、方法(口頭、委任状の交付など)。代理権を授与した事実自体が存在しないこと。
代理権の範囲授与された代理権の具体的な内容と範囲(例:不動産売買契約締結に関する一切の権限)。本件行為が授与された代理権の範囲外であること(無権代理)。
表見代理の主張(相手方が主張する場合)相手方が無権代理を主張してきた場合に備え、予備的に表見代理(民法第109条、110条、112条)の成立を主張することがあります。その場合は、その要件(代理権授与の表示、権限外の行為、代理権消滅後の行為)を具体的に主張します。表見代理の成立要件(特に相手方の「善意無過失」)を欠くことを具体的に主張します。

3. 証拠との関連付け

代理権の存在を基礎づける証拠を明示します。

  • 書証:委任状、契約書、代理権授与に関する覚書、メールやSNSでのやり取り、商業登記簿謄本(支配人など)。
  • 人証:本人、代理人、または代理権授与の事実を知る第三者の証言。
  • 客観的状況:過去の取引において、同様の代理行為が繰り返し行われ、本人がそれを了知・容認していた事実など。

準備書面作成上の共通の注意点

  • 要点の明確化争点は何か、それに対して何を主張するのかを明確かつ簡潔に記載します。
  • 証拠の引用:主張する事実ごとに、それを裏付ける証拠(書証であれば甲第○号証など)を正確に引用します。
  • 法的根拠の明示:主張を根拠づける法律の条文(民法、民事訴訟法など)や重要な判例があれば、それらを指摘します。
  • 時系列に沿った説明:事実関係は、できる限り時系列に沿って具体的に説明し、裁判官が事案を正確に理解できるように配慮します。
  • 相手方の主張への反論:相手方の準備書面でなされた主張に対し、どの部分が事実と異なるのか、なぜそう言えるのかを具体的に指摘し、反論します。

これらの事項は、訴訟の進行において極めて重要な役割を果たします。準備書面の作成にあたっては、主張と証拠を整理し、論理的で説得力のある内容とすることが不可欠です。

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