否認している被告人の弁護において、共犯者が行った弁償事実に関する証拠の取調べを請求する際には、いくつかの弁護士倫理上の問題点が生じる可能性があります。弁護士は、依頼者の利益を最大限に図りつつも、高い倫理基準を維持する必要があります。
依頼者との信頼関係と守秘義務
弁護士倫理の最も基本的な原則の一つは、依頼者との信頼関係の構築と維持です。依頼者は、自身の権利が適切に守られることを期待して弁護士に依頼します。
- 守秘義務の重要性: 弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務があります。これは弁護士の最も中核的な権利・義務であるとされています。共犯者の弁償事実が、否認している被告人の弁護方針と直接的または間接的に関連する場合、その情報の取り扱いには細心の注意が必要です。共犯者の弁償事実が被告人にとって不利益となる可能性がある場合、その証拠請求は、たとえ共犯者自身の同意があったとしても、被告人の信頼を損なう可能性があります。
- 依頼者への誠実な説明: 弁護士は常に依頼者の最善の利益を考慮し、正確で公正な情報を提供することが求められます。共犯者の弁償事実に関する証拠を取調べ請求する際は、その目的、被告人に与える影響(有利・不利な側面)、そして潜在的なリスクについて、被告人に十分に説明し、理解を得る必要があります。不明瞭な点や、被告人の意に反する行動は避けるべきです。
利益相反の可能性
共犯者の弁償事実を証拠として取り調べることは、共犯者と依頼者(被告人)の間に利益相反が生じる可能性があります。
- 共同弁護とその難しさ: 複数の者が関与する事件で、各々の被告人の利害関係が必ずしも一致しない場合があります。特に共犯関係にある場合、一方が弁償を行った事実が、他方の責任を相対化したり、逆に強調したりする可能性があり、各々の弁護方針が衝突することが考えられます。
- 弁護人の役割: 弁護人は、依頼人の訴訟における権利擁護を最大の目的とします。共犯者の弁償事実が、被告人の否認方針と矛盾する場合、弁護人はどちらの利益を優先すべきかというジレンマに直面する可能性があります。この場合、被告人の利益を損なわないよう、慎重な検討が必要です。
事実取調べ請求と証拠能力
証拠の取調べ請求は、裁判所に対して特定の事実を証明するための証拠を提出し、裁判所にこれを調べてもらう手続きです。
- 証拠の関連性: 弁償事実が被告人の「犯人性」を否認する弁護にどのように関連するのか、その関連性を明確にする必要があります。直接的な関連性がない場合、裁判所が証拠取調べ請求を却下する可能性もあります。
- 証拠の取得方法: 共犯者に関する情報は、多くの場合、捜査を通じて得られます。任意の取調べや供述調書の内容は、違法な取調べによるものでないか、任意性が確保されているかなど、その証拠能力が問われることがあります。取得過程に問題がある証拠は、弁護活動に利用することでかえって不利になる可能性も考慮する必要があります。
弁護士は、これらの倫理的な問題点と法的な側面を総合的に考慮し、依頼者である被告人の最善の利益を追求しつつ、適切な弁護活動を行う責務があります。