被害再現写真と現場写真の証拠能力には明確な差異があります。
端的に言えば、現場写真は「客観的な事実」を示す力が強い一方、被害再現写真は「供述の信憑性」を補強するためのものであり、その証明力は元となる供述に大きく依存します。
現場写真と被害再現写真の定義
まず、それぞれの写真が何を指すのかを理解することが重要です。
- 現場写真 事件や事故が発生した直後の現場の状況を、人の手が加えられる前に客観的に撮影した写真です。鑑識活動などで撮影されるものがこれにあたります。
- 目的: 現場の客観的な状況(物の位置、損傷の程度、痕跡など)をありのままに記録し、証拠として保全すること。
- 被害再現写真 被害者や関係者の供述(話)に基づいて、事件や事故当時の状況を後日再現し、その様子を撮影した写真です。
- 目的: 供述だけでは分かりにくい動作や位置関係を可視化し、供述内容が合理的で矛盾がないか(供述の信用性)を検証しやすくすること。
証拠能力と証明力の差異
法律の世界では、「証拠能力」と「証明力」という2つの観点から証拠を評価します。
- 証拠能力: そもそも証拠として裁判で調べることができるかという「資格」の問題。
- 証明力: その証拠が、ある事実をどれだけ強く証明する力を持っているかという「価値」の問題。
この2つの観点から、両者の違いを見ていきましょう。
| 比較項目 | 現場写真 | 被害再現写真 |
| 証拠の種類 | 実質的証拠 | 補助証拠 |
| 客観性・原始性 | 高い (発生したままの状況を写している) | 低い (人の記憶と解釈を介している) |
| 主な証明対象 | 現場の客観的な状況 (例: 凶器がどこにあったか) | 供述の信用性 (例:「このように刺された」という供述に無理がないか) |
| 裁判所の評価 | 客観的な事実認定の基礎として非常に重視される。 | 元となる供述の信用性とセットで評価される。再現の正確性や、再現時に捜査官による誘導がなかったかなどが厳しく問われる。 |
なぜ証明力に差が出るのか?
最大の理由は客観性です。
現場写真は、人の記憶や解釈が介在しない、その瞬間の「ありのまま」を切り取ったものです。そのため、写っている内容は客観的な事実として扱われやすく、高い証明力を持ちます。例えば、「A地点に血痕があった」ことを直接証明できます。
一方で被害再現写真は、あくまで「被害者はこうだったと話している」という供述をビジュアル化したものに過ぎません。その写真が直接的に「事件がそのように起きた」ことを証明するわけではありません。もし元となる供述が嘘や記憶違いであれば、再現写真もまた事実とは異なるものになります。
そのため、裁判所は被害再現写真を見る際、
- 元となる供述は信用できるか?
- 再現は供述通りに正確に行われたか?
- 再現時に捜査官が特定の動きを強要したり、誘導したりしていないか?
といった点を厳しくチェックします。供述自体の信用性が揺らげば、それを元にした再現写真の証明力も失われます。
まとめ
- 現場写真:
- 役割: 現場の客観的状況を証明する。
- 証拠としての価値: 高い客観性を持ち、事実認定の根幹となりうる実質的証拠。
- 被害再現写真:
- 役割: 供述の内容を分かりやすくし、その信用性を補強する。
- 証拠としての価値: 元となる供述の信用性に依存する補助的証拠。それ単体で事実を証明する力は弱い。
このように、両者はどちらも裁判の証拠として提出され得ますが、その法的な位置づけと、裁判官が判断する際の「重み」には大きな違いがあるのです。