類型証拠開示請求の要件詳説
類型証拠開示請求は、日本の刑事裁判、特に公判前整理手続に付された事件において、被告人・弁護人が検察官に対し、法律で定められた一定の類型の証拠を開示するよう求める重要な権利です。これにより、検察官が裁判で提出する予定の証拠(検察官請求証拠)の証明力を判断し、被告人が適切な防御活動を行うことを目的としています。
その要件は、刑事訴訟法第316条の15に定められており、手続き的要件と実質的要件に大別できます。
1. 手続的要件(請求の前提)
類型証拠開示請求を行うには、まず以下の前提条件を満たしている必要があります。
- 公判前整理手続または期日間整理手続に付されていること: 類型証拠開示は、主に複雑な事件や裁判員裁判対象事件などで行われる公判前整理手続、または公判中に争点整理が必要となった場合の期日間整理手続の中で行われる手続きです。通常の公判手続のみの事件では、この請求権は認められていません。
- 検察官による証拠の取調べ請求後であること: 手続の順序として、まず検察官が証明予定事実を明らかにし、その事実を立証するための証拠の取調べを裁判所に請求します。この検察官請求証拠が開示された後でなければ、弁護側は類型証拠開示請求を行うことはできません。
2. 請求時に明示すべき事項(弁護側の義務)
弁護人が類型証拠開示請求を行う際には、請求書において以下の事項を具体的に明らかにする必要があります。
- 開示を求める証拠の類型: 刑事訴訟法第316条の15第1項各号に定められた、どの類型の証拠を求めるのかを特定します(詳細は後述)。
- 証拠を識別するに足りる事項: 例えば、「被害者Aの警察官面前調書」「被疑者(被告人)の逮捕時の実況見分調書」など、検察官がどの証拠を指しているか特定できる程度に具体的に表示する必要があります。
- 開示の必要性: 開示を求める証拠が、「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要である」ことを具体的に説明する必要があります。単に「防御のために必要」というだけでは不十分で、どの検察官請求証拠の、どのような点の証明力(信用性など)を判断するために、なぜその証拠が必要不可欠なのかを論理的に示すことが求められます。
3. 開示対象となる証拠の類型(刑事訴訟法第316条の15第1項各号)
法律で定められた開示対象の証拠は、以下の通りです。これらに該当し、かつ上記の必要性が認められる場合に、検察官は開示義務を負います。
| 号 | 証拠の類型 | 具体例 |
| 1号 | 証拠物 | 凶器、遺留品、犯行に使われた車両など |
| 2号 | 裁判所・裁判官の検証調書 | 令状に基づいて行われた検証の結果を記載した書面 |
| 3号 | 身体検査・実況見分調書 | 被疑者・被害者の身体検査の結果、事件現場の状況を記録した書面 |
| 4号 | 鑑定書 | DNA鑑定、精神鑑定、筆跡鑑定などの結果を記した書面 |
| 5号 | 供述調書等 | 検察官が証人尋問を請求する予定の者の、未開示の供述調書など |
| 6号 | 被告人以外の者の供述書等 | 検察官請求証拠によって直接証明しようとする事実に関する供述を含む書面 |
| 7号 | 被告人の供述調書等 | 被告人自身の、未開示の供述調書や弁解録取書 |
| 8号 | 取調べ状況の記録 | 身体拘束下の取調べの日時、場所、担当者などを記録した書面 |
| 9号 | 証拠物の押収手続記録書面 | 証拠物をいつ、どこで、誰が押収したかを記録した書面 |
4. 実質的要件(裁判所の判断基準)
弁護側から適法な請求があった場合でも、検察官は常に無条件で開示するわけではありません。検察官が開示を相当でないと判断した場合、最終的には裁判所が以下の点を考慮して開示命令を出すか否かを裁定します。
- 証拠の重要性: 請求された証拠が、検察官請求証拠の証明力を判断するためにどれほど重要か。
- 開示の必要性: 被告人の防御準備のために、その証拠を開示する必要性がどの程度あるか。
- 開示による弊害: 証拠を開示することによって生じるおそれのある弊害(証拠隠滅、証人威迫、関係者のプライバシー侵害など)の内容と程度。
裁判所は、これらの要素を総合的に比較衡量し、「開示することが相当」と認めた場合に、検察官に対して開示を命じます。
5. 検察官が請求を拒否した場合
弁護側の類型証拠開示請求に対し、検察官が「必要性がない」「弊害が大きい」などの理由で開示を拒否することがあります。この場合、弁護側は諦める必要はなく、裁判所に対して「証拠開示に関する裁定の請求」を申し立てることができます。
この申立てを受け、裁判所は双方の主張を聞いた上で、開示の可否について中立的な立場から判断を下します。裁判所が開示を命じる決定(裁定)を出せば、検察官はそれに従う義務を負います。
このように、類型証拠開示請求は、被告人の防御権を実質的に保障するための重要な制度であり、その要件を正確に理解し、適切に行使することが公正な裁判の実現に不可欠です。