本問は、未成年者Cの親権者であるAが、自らの遊興により生じた借金を返済するためにCの所有する甲土地及び乙土地をCに無断でEに売却した後、Dと婚姻したCが死亡してCをAとDが相続し、その後更にEが乙土地をFに売却した事例(設問1)、Eが自己の事業の借金の返済に充てる資金をGの主宰する賭博で得るために、仕入先のH及び知人Kとの間で、Eの叔父Lの連帯保証付きで借金をする契約書を作成した後、貸金をEに交付したHがその貸金債権をMに売却し、貸金をEに交付しなかったKが、契約書の存在を奇貨としてLに連帯保証債務の履行を請求し金銭を支払わせた事例(設問2)を素材として、民法上の問題についての基礎的な理解とともに、その応用力を問う問題である。
当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力、その前提として、様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し、それに即して論旨を展開する能力などが試される。
設問1は、親権者とその子との間の利益相反行為の成否、親権者による代理権濫用の成否とその効果という事項に対する理解を問うとともに、それを前提として、子について共同相続があった場合の法律関係、親権者の行為の相手方と取引をした第三者の保護について検討させることにより、民法の基本的知識及びそれに基づく論理構成力を問うものである。
小問⑴では、Eは、A及びDに対して、甲土地の所有権移転登記手続を請求しており、その根拠は売買契約に基づく債権的請求又は所有権に基づく物権的請求であることを指摘した上で、その請求の当否について検討することが求められる。いずれの請求の場合にも、AがCの代理人としてEとの間で甲土地の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結したこと、A及びDがCを共同で相続した結果、Cの所有権移転登記手続義務を包括承継したこと(なお、最判昭和36年12月15日民集15巻11号2865頁は、売主の共同相続人の登記義務は民法第430条の不可分債務である旨判示している。)により、Eは、A及びDに対し甲土地の所有権移転登記手続を請求することが可能となる。
まず、これに対するA及びDの反論として考えられるのは、本件売買契約が民法第826条の利益相反行為に該当するという主張である。もっとも、利益相反行為に該当するか否かの判断基準に関して判例(最判昭和42年4月18日民集21巻3号671頁)の外形説を採用する場合には、本件売買契約は利益相反行為に該当しないことになり、それを踏まえた上で、親権者の代理権濫用について論ずることが求められる。この場合、AがC所有の甲土地を売却した行為が判例(最判平成4年12月10日民集46巻9号2727頁)のいう「子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情」があるとして代理権濫用に該当するか否かについて、本問に示された事実関係に即して適切な当てはめをすることが求められる。
代理権濫用の効果については、平成4年の判例のように、親権者の行為の相手方が代理権濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法第93条ただし書の類推適用により親権者の行為の効果は子には及ばないという構成が考えられる。それによれば、EはAの代理権濫用の事実について悪意であるから、Aの行った本件売買契約の効果はCに及ばないことになる。ただし、代理権濫用を無権代理とする構成(無権代理説)や、代理権濫用について相手方に悪意又は(重)過失が認められる場合にはその相手方は代理による効果帰属を信義則上主張できないとする構成(信義則説)もあり得るところであり、適切な理由付けによって判例と異なる論じ方をすることは排除されていない。また、民法第826条の利益相反行為について外形説に依拠して検討することが必須ではなく、判例と異なる実質説を採って利益相反行為に該当するとした場合でも、適切な理由付けの下に説得力のある検討が行われていれば、それに相応した評価が与えられる。
次に、CをA及びDが共同相続したことにより、上記で論じた法律関係がどのような影響を受けるのか、いわゆる「無権代理と相続」の論点における無権代理人共同相続型の判例(最判平成5年1月21日民集47巻1号265頁)との関係が問題となる。利益相反行為につき実質説を採った場合や、無権代理説による場合は、この判例がそのまま妥当する。平成5年の判例は、追認権はその性質上相続人全員に不可分に帰属するから、共同相続人全員が共同して行使しない限り無権代理行為が有効となるものではないとしており、本問では共同相続人の1人であるDが追認を拒絶しているので、Eは甲土地の所有権を取得できない。また、民法第93条ただし書類推適用説による場合には、平成5年の判例がそのまま妥当するわけではないが、民法第116条に基づく追認の可否を問題とした上で、平成5年の判例と同様に追認権の行使について論ずるか、あるいはAの代理権濫用についてEに悪意があることを理由としてEが甲土地の所有権を取得することはないと論ずることが考えられる。もっとも、相続人の追認権については、相続分に応じて可分に帰属するという考え方もあり、判例の立場で論ずることは必須ではなく、適切な理由付けの下に厚みのある検討が行われ、整合的な結論が示されていれば、それに相応した評価が与えられる。
小問⑵では、DのFに対する乙土地の所有権移転登記抹消登記手続等の請求について、民法第252条ただし書の保存行為、あるいは共有持分権に基づく物権的請求権が根拠となることを指摘した上で、無権利者Eと取引をした第三者Fの保護について論ずることが求められる。第三者Fの保護の点に関しては複数の考え方があり得る。
まず、乙土地はAとDの共有物であるのにE名義の登記がされていたことを理由に、民法第94条第2項を類推適用してFを保護する考え方である。これによれば、Cやその地位を包括承継したA及びDが虚偽の外観を作出し、あるいはあえて虚偽の外観を放置したと評価される場合に、Fは乙土地の所有権を取得する可能性がある。本問に示された事実関係からすれば、CやD自身の行為に着目してその帰責性を認めることには困難が伴うが、Cの帰責性を評価する際には、AがCの親権者であるという事情も関係し得る。一般的には、Aは法定代理人であり、Cの意思に基づいてAに代理権が授与されたわけではないから、この事情はCの帰責性を否定する方向に働く。しかし、Cの親権者であるAの包括的な代理権によって私的自治が補充されCが継続的に利益を受けているとして、代理権濫用の危険はCが負担すべきであるとする考え方もあり得る。
また、Fについて民法第94条第2項が類推適用されるとしつつも、その根拠を上記のような虚偽の外観の放置ではなく、代理権濫用について民法第93条ただし書が類推適用されることに求める考え方もあり得る。最判昭和44年11月14日民集23巻11号2023頁は、手形保証についてこのような立場を採っている。もっとも、心裡留保における表意者には虚偽の外観を作出したのと同等の帰責性が認められるが、代理権濫用における本人の帰責性をこれと同視することはできず、また、上記判決は手形保証に関する判断であるから、その射程については慎重な検討を要する。
さらに、代理権濫用について信義則説を採った上で、本人Cを相続したA及びDは、第三者Fとの関係では、第三者Fが信義則に反する者でない限り(Aの代理権濫用について悪意又は〔重〕過失が認められない限り)、代理行為の効果帰属を拒むことができない、という考え方もあり得る。
このように、第三者Fの保護の在り方については複数の考え方があり得るが、理由を明示した上で一定の立場を採り、それを本問に当てはめて整合的な結論を導いているものについては、その法的構成力・推論力に照らし、相応の評価が与えられる。
設問2は、賭博目的の消費貸借契約に基づく貸金債権が譲渡された事例と、存在しない貸金債務を主債務とする連帯保証債務が履行された事例を素材として、貸金債権の関係者をめぐる諸々の法律関係を、民法第90条や同法第708条、同法第459条等の正確な理解に基づき分析した上で、事案に即した妥当な解決を導くことができるか否かを問うものである。
小問⑴では、まず、賭博目的の消費貸借契約による債権の成否について的確に検討することができるかどうかが試されている。賭博目的の消費貸借契約は、それ自体が不法なものではなく、不法な動機が一方当事者であるEの心裡にあるにすぎないが、Hは賭博目的を知っているので、EH間の消費貸借契約は公序良俗に違反し無効となり(民法第90条)、その結果、HのEに対する消費貸借契約上の債権は発生しないことになる。
次に、この存在しない債権がHからMに譲渡され、その債権譲渡につき債務者Eが民法第468条第1項の異議をとどめない承諾をしていることから、その債権の不存在をEがMに対抗しうるか否かが問題となる。この点に関しては、賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合において、その債権の債務者が異議をとどめずに承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、その債権の譲受人に対して債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるとした判例(最判平成9年11月11日民集51巻10号4077頁)が存在するが、本問の事案は、当該判例の事案とは異なり、賭博の負け金債務ではなく、賭博目的の貸金債権が譲渡されたものであるから、そのことを意識した上で、MがEに対し契約上の債権を行使することができるかについて、事実を的確に分析した上でその請求の当否を検討することが求められる。
小問⑵では、EH間の消費貸借契約が公序良俗違反により無効であることを前提とした上で、HがEに交付した500万円について、HのEに対する「法定債権」である不当利得返還請求権をMが行使することが考えられる。ここでは、HのEに対する不当利得返還請求権の成否について、不法原因給付に関する民法第708条が適用されるか否かを吟味しつつ論ずるとともに、HのEに対する不当利得返還請求権をMが行使するための法律構成を論ずることが期待されている。後者の点については、複数の法律構成が考えられる。
まず、MがHのEに対する不当利得返還請求権を行使するための法的根拠としては、HがMに対し「平成26年4月1日付消費貸借契約に関する債権」を譲渡していることから、その契約の解釈として、貸金債権だけでなく、不当利得返還請求権もHからMに譲渡されたものと認めることが考えられる。このような契約の解釈に当たっては、不当利得返還請求権も譲渡された場合とそうでない場合とを対比して、M及びHやHの一般債権者の利害状況を分析することが求められている。
また、HのEに対する不当利得返還請求権はMに譲渡されていないことを前提とした上で、債権者代位権によって、Mが、HのEに対する不当利得返還請求権を行使することも考えられる。この場合、債権者代位権の要件として、MのHに対する被保全債権の存在及びHの無資力が充足されることと、請求の範囲は被保全債権の額が上限となることを指摘することが期待されている。
小問⑶では、委託を受けた保証人が連帯保証債務の履行として金銭を支払ったものの、主たる債務が存在しなかった場合における主債務者と保証人との間の法律関係についての分析とともに、保証人の主債務者に対する債権が成立するかどうかが問われている。保証債務の付従性自体は基礎的な知識に属するが、ここで示されている問題自体については、判例や学説において必ずしも明確に議論されているわけではない。ここでは結論の妥当性も視野に入れて適切に論ずることが期待されており、応用的な能力を問う問題である。
そもそも、LはEの保証委託を受けた結果としてKに対して584万円を支払っており、その支払の際にEに事前の通知をしているのだから、Kの無資力の危険をLが負うとするのは不合理である。単に付従性のみを論ずるのではなく、そうした結論の妥当性も視野に入れた上で、Lを保護する法律構成を見いだすことが、本問では期待されている。
まず、主債務者と保証人との間に保証委託契約が存在することから、委任の特則である民法第459条に基づき、LがEに対して求償権を有するという構成が考えられる。その場合、民法第459条の求償権の成立要件として、(i)主たる債務の存在、(ii)主たる債務に関する債権者と保証人との間の保証契約、(iii)保証人が債権者に対して保証債務の履行をしたこと、(iv)保証人と主たる債務者との間の保証委託契約を挙げた上で((v)保証人の無過失を要件として挙げる学説もある。)、それらに該当する事実の有無を判断することが求められる。
本問では、KはEに金銭を交付していないため、KのEに対する貸金債権は成立していないので、(i)の要件は充足されない。しかし、Lが主債務の存在を前提としてKに584万円を支払った原因は、LがEに事前の通知をしたにもかかわらず、EがLに主債務の不存在を説明しなかったからである。民法第463条第1項が準用する民法第443条第1項により、保証人が事前の通知をせずに弁済をした場合、主債務者が債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その事由をもって保証人に対抗することができるとされていることを踏まえると、保証人が事前の通知をしたが、主債務者が債権者に対抗することができる事由(主債務の不存在)を有している旨の返答をしなかった場合には、主債務者はその事由をもって保証人に対抗できないとの考え方があり得よう。これを本問に示された事実関係に当てはめた場合、EはLからの民法第459条に基づく求償を、主債務の不成立を理由に拒むことはできないことになる。
このほか、Lの請求の根拠としては、民法第650条第1項の費用償還請求権に基づくものも考えられる。この場合には、LのKに対する出捐が、同項の「委任事務を処理するのに必要と認められる費用」、すなわち、事務処理の際に受任者が善良な管理者の注意をもって必要と判断して支出した費用に当たるか否かを確認することが求められる。
また、主債務が存在しない場合に連帯保証債務の履行として金銭を支払うことは保証委託の範囲外であるなどの理由により、Lの出捐は費用ではなく損害であると解釈するならば、LはEに対し民法第650条第3項や同法第415条に基づく損害賠償請求権を行使するという考え方を採る余地もある。
いずれの法律構成を採る場合においても、Lによる事前の通知に対しEが適切に対応しなかったことが的確に評価されていれば、民法第459条に基づく求償権を認める答案と同等の評価が与えられる。