産業廃棄物処理施設設置許可取消訟の当事者適格
産業廃棄物処理施設の設置許可が行政から下された場合、その決定に不服があるからといって、誰でもが裁判で許可の取消しを求められるわけではありません。裁判所に対して取消訴訟を提起するには、「当事者適格(特に原告適格)」という法的な資格が必要となります。
この原告適格は、施設の設置によって自己の権利や法律上保護された利益を侵害される、または必然的に侵害されるおそれのある者に限定されます。ここでは、どのような立場の人が「原告適格」を有すると認められるのかを、法律の規定と最高裁判所の判例をもとに解説します。
1. 「法律上の利益を有する者」とは?
行政事件訴訟法第9条第1項は、取消訴訟を提起できる者(原告適格)を、「当該処分…の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」と定めています。
この「法律上の利益」とは、単なる事実上の利益(例えば「施設の存在が気分的に不快だ」といった主観的なもの)や、地域全体の公益を指すものではありません。問題となっている行政処分(ここでは設置許可)の根拠となる法律が、個々の国民の具体的な利益を保護することを目的としている場合に、その利益を「法律上の利益」として認めます。
つまり、産業廃棄物処理施設の設置許可取消訴訟では、廃棄物処理法が、施設の周辺住民などの個々人の利益を保護していると解釈できるかが最大の争点となります。
2. 最高裁判所の判断基準:周辺住民の原告適格
かつて、周辺住民が原告適格を持つかどうかの判断は、裁判所によって分かれることがありました。しかし、2014年7月29日の最高裁判所判決(都城市の事案)が、その後の判断基準となる重要な考え方を示しました。
この判例以降、裁判所は主に以下の点を考慮して原告適格を判断しています。
重要な判断要素:生活環境影響調査の対象区域
廃棄物処理法第15条第2項は、施設の設置許可にあたり、申請者に「生活環境影響調査」の実施を義務付けています。これは、施設の設置が周辺地域の生活環境にどのような影響を及ぼすかを事前に調査し、その結果を申請書に添付させるものです。
最高裁判所は、この規定に着目し、「生活環境影響調査の対象となる区域内に居住する住民」については、その生活環境に著しい影響が及ぶ可能性があるとして、原則として原告適格を認める傾向にあります。
その理由は、廃棄物処理法が生活環境影響調査を義務付けているのは、単に一般的な公益を守るだけでなく、施設の設置によって有害物質の飛散、騒音、悪臭、水質汚濁などにより「直接的かつ重大な被害を受けると想定される範囲の住民」の生活環境という個別的な利益を保護する趣旨が含まれている、と解釈されるためです。
原告適格が認められる可能性が高い者
上記の判例に基づき、以下の者は原告適格が認められる可能性が高いと言えます。
- 生活環境影響調査の対象区域内に居住する住民
- 同区域内で事業を営み、事業活動に直接的な影響(例:地下水汚染による農業被害など)を受けるおそれのある者
3. 当事者適格が認められないケース
一方で、以下のような場合は「法律上の利益」が認められず、原告適格が否定される可能性が高くなります。
- 施設から地理的に遠く離れている者: 施設の設置による具体的な被害が想定されにくい地域に居住または事業所を持つ場合。
- 精神的な嫌悪感や土地の資産価値の低下のみを主張する者: これらは一般的に「事実上の損害」と見なされ、廃棄物処理法が直接保護する利益とは解釈されにくいためです。ただし、資産価値の低下が生活環境の悪化と密接不可分であると主張・立証できる場合は、考慮される余地も残されています。
- 全国的な環境保護を目的とする市民団体など: 個別の利益侵害ではなく、一般的な公益の実現を目的とする場合、団体の構成員自身が上記の「法律上の利益を有する者」に該当しない限り、団体としての原告適格は認められにくいのが現状です。
まとめ
産業廃棄物処理施設の設置許可に対する取消訴訟では、「廃棄物処理法によって保護されている個別の利益が、施設の設置により侵害されるおそれがあるか」という観点から当事者適格が判断されます。特に、生活環境影響調査の対象区域内に居住しているかどうかが、裁判所が原告適格を認める上で極めて重要な基準となっています。
訴訟を検討する際は、まず自身がこの「法律上の利益」を持つ立場にあるかを、専門家である弁護士に相談することが不可欠です。