本問は、株式会社Aが建築しようとしているスーパー銭湯(以下「本件スーパー銭湯」という。)及びこれに附属する自動車車庫(以下「本件自動車車庫」という。)の建築を阻止しようとする周辺住民のX1ら及びX2らが、特定行政庁Y1市長がした本件自動車車庫の建築に係る建築基準法第48条第1項ただし書に基づく許可(以下「本件例外許可」という。)の取消しを求める訴訟及び指定確認検査機関Y2がした本件スーパー銭湯及び本件自動車車庫の建築に係る建築確認(以下「本件確認」という。)の取消しを求める訴訟における法的問題について論じさせるものである。論じさせる問題は、本件例外許可の取消訴訟におけるX1ら及びX2らの原告適格の有無(〔設問1〕)、本件例外許可の適法性(〔設問2〕)、本件確認の取消訴訟において本件例外許可の違法事由を主張することの可否(いわゆる違法性の承継の問題、〔設問3〕)、本件建築確認の適法性(〔設問4〕)である。問題文と資料から基本的な事実関係を把握し、建築基準法及び関係法令の関係規定の趣旨を読み解いた上で、取消訴訟の原告適格、違法性の承継及び本案の違法事由について論じる力を試すものである。
〔設問1〕については、行政処分の名宛人以外の第三者の原告適格が問題となる。行政事件訴訟法第9条第2項と最高裁判所の判例を踏まえて判断枠組みを提示した上で、行政処分の根拠法規の処分要件及び趣旨・目的に着目し、関係法令の趣旨・目的を参酌し、被侵害利益の内容・性質を勘案し、当該根拠法規がXらの主張する被侵害利益を個別的利益として保護する趣旨を含むか、どの範囲の者が原告適格を有するのかについて論じることが求められる。本件では、Xらの主張する「良好な住居の環境下で生活する利益」について、建築基準法が一般に想定していると解される建築物の倒壊、火災、日照被害等による直接的な被害や、都市計画法に基づく用途地域の指定等によって、地域地区に居住する住民が享受する反射的利益と比較して、「法律上保護された利益」といえるかについて検討することが求められる。その上で、X1ら及びX2らが主張する利益の内容・性質に即して、原告適格を肯定することができるかについて論じることが求められる。特に、X2らについては、本件要綱において、一定の範囲の者に公聴会に参加する機会が付与されていることとの関係についても検討することが期待される。
〔設問2〕は、本件例外許可の違法事由として、第1に、建築審査会の同意に係る議決の手続上の瑕疵が問題となる。まず、建築審査会の同意には処分性が認められず、本件例外許可の取消訴訟の中で同意の違法性を争うことになることを前提とし、建築審査会制度の趣旨や除斥事由が定められた趣旨を踏まえた上で、除斥事由がある者1名の票を除外しても建築審査会の議決の結論が変わらない場合においても、なお、本件例外許可は違法といえるかについて論じる必要がある。第2に、Y1市長による本件例外許可についての裁量権の範囲の逸脱、濫用の有無が問題となる。本件要綱の法的性質について、例外許可は裁量処分であり、本件要綱は裁量基準(行政手続法上の審査基準)に当たることを示した上、例外許可については裁量処分とはいえ、公聴会制度を設けてその判断の適正が担保されていること、本件要綱で挙げられた事情が考慮されていないことを踏まえて、裁量権の範囲の逸脱、濫用があると主張することができないかを論じることが求められる。
〔設問3〕は、いわゆる違法性の承継の問題であるが、取消訴訟の排他的管轄と出訴期間制限の趣旨を重視すれば、違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上で、まず、違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。その上で、最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠組みによる場合には、違法性の承継が認められるための考慮要素として、実体法的観点(先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか)、手続法的観点(先行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から、本件の具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。
〔設問4〕は、本件建築確認の違法事由として、第1に、本件スーパー銭湯が建築基準法別表第二(い)項第7号の「公衆浴場」に該当するかが問題となる。条文の文言解釈、公衆浴場が第一種低層住居専用地域に建築できる建築物とされた趣旨、「一般公衆浴場」とスーパー銭湯との異同を踏まえて検討することが求められる。第2に、本件スーパー銭湯の飲食店部分について、建築基準法別表第二(い)項第7号の「公衆浴場」に該当するかが問題となる。第一種低層住居専用地域に建築できる飲食店は兼用住宅に限られ、かつ、面積の制限があること(建築基準法別表第二(い)項第2号、建築基準法施行令第130条の3第2号)などに照らして、本件スーパー銭湯の飲食コーナー及び厨房施設の規模等を踏まえて、「公衆浴場」に該当するかを検討することが求められる。