特定責任追及の訴え(多重代表訴訟)とは、親会社の株主が、子会社の役員の経営責任を追及するために提起する訴訟のことです。これは2015年5月に施行された改正会社法で導入された制度で、会社法第847条の3に規定されています。
現代の企業経営が、単一の会社ではなく、多くのグループ会社を通じて行われる実態に対応するための制度です。特に、事業の多くを子会社に委ねる持株会社(ホールディングス)体制では、子会社の経営状態が親会社の株価に大きな影響を与えます。しかし、従来の株主代表訴訟では、親会社の株主は子会社の役員の責任を直接問うことができませんでした。
この「特定責任追及の訴え」により、一定の条件を満たす親会社の株主は、子会社の役員に対して、子会社に生じた損害の賠償を求めることが可能になりました。

制度の概要

この訴訟制度は、その仕組みから「多重代表訴訟」とも呼ばれます。主な特徴は以下の通りです。

主な要件

誰でも訴訟を起こせるわけではなく、株主側と会社側の双方に厳しい要件が定められています。

株主側の要件

訴訟を提起できるのは、以下の条件を満たす「最終完全親会社等」の株主です。
保有株式数: 総株主の議決権の1%以上、または発行済株式の1%以上を保有していること。
保有期間: 公開会社の場合、株式を6ヶ月以上継続して保有していること。

会社側の要件

対象となる子会社も限定されています。
完全子会社: 親会社が株式の100%を保有する完全子会社(孫会社も含む)であること。
子会社の規模: 子会社の株式の帳簿価額が、親会社の総資産額の5分の1以上を占めること。これは、訴訟の対象を、親会社にとって経営上の重要性が高い子会社に限定するためです。

訴訟に至るまでの手続き

手続きは、通常の株主代表訴訟と類似しています。
提訴請求: まず、株主は子会社に対し、問題となっている役員の責任を追及する訴えを提起するよう、書面で請求します。
会社の対応: 請求を受けた子会社は、60日以内に調査を行い、訴えを提起するかどうかを判断します。
株主による訴訟提起: 子会社が60日以内に訴えを提起しない場合、請求を行った株主は、自ら子会社のために「特定責任追及の訴え」を裁判所に提起することができます。
ただし、この訴えが株主自身の不正な利益を図る目的であったり、親会社や子会社に損害を与える目的である場合、また、子会社の損害が親会社に損害を生じさせていない場合には、訴えを起こすことはできません。
この制度の創設により、企業グループ全体のガバナンスが強化され、親会社の株主の権利保護がより実質的なものとなることが期待されています。

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