1. 写真撮影行為の性質
捜索差押許可状の執行現場で行われる写真撮影は、それ自体が独立した強制処分(個人の意思に反して権利を制約する処分)なのか、それとも捜索・差押えに付随する任意処分(強制力を用いない活動)なのかが問題となります。
結論から言うと、判例(後述)は、この写真撮影を「捜索・差押えの執行に付随して行われる、証拠保全のための一活動」と位置づけています。
具体的には、以下のように整理されます。
「差押え」そのものではない: 差押えとは、物の占有を強制的に取得する処分です。写真撮影は、物の状態や存在場所を記録する行為であり、物の占有を取得するものではないため、「差押え」にはあたりません。独立した「検証」でもない: 物の状態を五官の作用(視覚など)で認識する「検証」という強制処分もありますが、これには別途「検証許可状」が必要です。捜索差押現場での写真撮影は、捜索差押許可状の効力に基づいて行われるため、独立した検証とは区別されます。
捜索・差押えに付随する「必要な処分」: 刑事訴訟法第222条第1項が準用する第118条第1項には、「差押状の執行については、必要な処分をすることができる」と規定されています。判例は、現場での写真撮影を、この「必要な処分」の一環と解釈しています。つまり、捜索・差押えという主たる目的を達成するために認められる、付随的な活動という性質を持っています。
2. 写真撮影の適法性(許容されるための要件)
写真撮影は上記のように捜索・差押えに付随する行為として許容されますが、無制限に認められるわけではありません。個人のプライバシー権などへの配慮から、その適法性が認められるためには厳格な要件を満たす必要があります。
この点に関するリーディングケースとして、最高裁判所大法廷判決(昭和61年2月14日)があります。この判例は、現場における写真撮影が適法となるための要件を明確に示しました。
その要件は、以下の3つに大別されます。
(1) 必要性
その写真を撮影することが、捜査の目的を達成するために客観的に見て必要であることが求められます。典型的な例:
差押え対象物の存在状況の記録: 押収した物が「どこに、どのような状態で」置かれていたかを明確にするため。(例:タンスの引き出しの奥に隠されていた拳銃)
差押えが困難または不可能なものの記録: 物理的に差し押さえることができない物の証拠価値を保全するため。(例:壁に残された血痕、大型機械の製造番号)
現場全体の状況の記録: 犯行現場の全体像や、各証拠物の位置関係を明らかにし、後の公判での立証を容易にするため。
(2) 相当性
撮影の方法や態様が、社会通念に照らして相当と認められる範囲内である必要があります。これは、被処分者(捜索を受ける人)のプライバシー権などへの配慮を求めるものです。
考慮される要素:
撮影対象の限定: 捜査対象となっている犯罪事実と関連性のある場所に限定し、無関係なもの(例:家族の写真、個人的な手紙類など)をみだりに撮影しないこと。
撮影方法の妥当性: 被処分者の人格を辱めるような方法や、必要以上に広範囲を撮影するような方法は許されません。
(3) 許可状の効力の範囲内であること
当然ながら、写真撮影は、その根拠となっている捜索差押許可状が許容する範囲内で行われなければなりません。
許可状記載事項との関連性: 許可状に記載された「捜索すべき場所」「差し押さえるべき物」「被疑事実(罪名)」と関連する範囲に限られます。全く別の犯罪(別件)に関する証拠を保全する目的で写真撮影を行うことは、令状の範囲を逸脱しており違法です。
まとめ
捜索差押許可状の執行現場における写真撮影行為は、「捜索・差押えの執行に付随する証拠保全活動」という性質を持ちます。
その適法性が認められるためには、
撮影の「必要性」
方法・態様の「相当性」
許可状の効力の範囲内であること
という3つの要件をすべて満たす必要があります。これらの要件のいずれかを欠く写真撮影は、違法な捜査活動と評価され、それによって得られた写真の証拠能力が否定される可能性があります。