確定判決がもつ、後の裁判でそれに矛盾する主張や判断を許さない効力を「既判力(きはんりょく)」といいます。この既判力は、誰に対して及ぶのか(主観的範囲)が法律で定められています。
では、訴訟の係属中に訴訟の目的である権利や義務を譲り受けた者、すなわち「口頭弁論終結前の承継人」に既判力が及ぶのか、原則と例外、背景にある考え方は何か。


1. 既判力の原則:誰に及ぶのか?

民事訴訟法第115条1項1号では、既判力は原則として「当事者」にのみ及ぶと定められています。訴訟で手続上の権利を保障され、審理に関与した当事者だけが判決の効力を受ける、というのが基本原則です。
そして、この原則は拡張され、「口頭弁論の終結後に承継(譲り受け)をした者」にも既判力が及ぶとされています(同条1項3号)。これは、敗訴した当事者が判決の効力を免れるために、訴訟物を第三者に譲渡してしまうといった「判決効の潜脱(せんだつ)」を防ぎ、紛争解決の実効性を確保するための重要な規定です。

既判力が及ぶ者根拠条文趣旨
当事者民事訴訟法115条1項1号手続保障を受けた者への自己責任
口頭弁論終結後の承継人民事訴訟法115条1項3号判決効の潜脱防止、紛争解決の実効性確保

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2. 本題:口頭弁論終結「前」の承継人への既判力

それでは、事実審の口頭弁論が終結する「前」に訴訟物を譲り受けた承継人には、既判力は及ぶのでしょうか。

原則:既判力は及ばない

結論から言えば、原則として、口頭弁論終結前の承継人には、民事訴訟法115条1項3号が直接適用されることはなく、既判力は及びません。
なぜなら、この規定はあくまで「口頭弁論終結後」の承継人を対象としているからです。

実質的な効力の拡張:なぜ効力が及ぶのか?

しかし、訴訟の途中で訴訟物が譲渡された場合に、常に譲受人に対して新たに訴訟を提起し直さなければならないとすると、紛争の蒸し返しとなり、訴訟経済に反し、また判決の効力を潜脱する目的での譲渡も容易になってしまいます。
そこで、民事訴訟法は「当事者恒定(とうじしゃこうてい)の原則」という考え方を採用しています。

当事者恒定の原則とは?

訴訟が開始された後(訴訟係属中)に、訴訟の目的である権利関係を第三者に譲渡しても、訴訟を追行する当事者としての地位(当事者適格)はなくならない、という原則です。

この原則により、次のような流れで、実質的に口頭弁論終結前の承継人にも判決の効力が及ぶことになります。
訴訟の継続: AがBに対して土地の所有権に基づく明渡しを求めて提訴。訴訟の途中でBがCにその土地を売却(承継)しても、Bは当事者としての地位を失いません。AとBの間で訴訟はそのまま継続されます。
判決の確定: その後、口頭弁論が終結し、Aの請求を認める判決(Aの勝訴)が確定します。
承継人への効力: この判決の効力は、Bから土地を譲り受けたCにも及びます。この場合、Cは形式的には「口頭弁論終結前の承継人」ですが、判決が確定した時点から見れば、Bの地位を承継した者として扱われ、判決の効力を受けることになります。
この判決効が承継人に及ぶ法的構成については、学説上、以下のような見解があります。
115条1項3号類推適用説: 口頭弁論終結「前」の承継であっても、判決効の潜脱防止という趣旨は妥当するため、同条を類推して適用すべきとする考え方。
訴訟法上の地位承継説: 承継人は、譲渡人(前主)の訴訟上の地位を包括的に承継するため、前主が受けた判決の効力にも拘束されるとする考え方。
いずれの考え方にせよ、紛争の終局的解決という要請から、口頭弁論終結前の承継人も判決の効力から免れることはできない、という点で結論は共通しています。

    承継人のための手続保障

    一方で、承継人は自らの権利を守るため、黙って判決を待つだけではありません。承継人には、その訴訟に参加して自らの言い分を主張する権利が保障されています。
    訴訟参加(民事訴訟法47条): 自らの権利を守るために、利害関係人として訴訟に参加することができます。
    承継による訴訟の引受け(民事訴訟法50条): 相手方の同意を得て、当事者である譲渡人に代わって訴訟を引き受けることができます。


    3. まとめ

    承継の時期既判力の適用結論
    口頭弁論終結後民事訴訟法115条1項3号が直接適用される既判力が及ぶ
    口頭弁論終結前民事訴訟法115条1項3号の直接適用はない当事者恒定の原則により、前主が受けた判決の効力が実質的に及ぶ

    このように、口頭弁論終結前の承継人に対しては、民事訴訟法115条1項3号が直接適用されるわけではありませんが、「当事者恒定の原則」という仕組みを通じて、前主が受けた判決の効力が実質的に及ぶことになります。これは、紛争の蒸し返しを防ぎ、判決の実効性を確保するという訴訟制度の目的と、承継人の手続保障のバランスを図った結果といえるでしょう。

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