標題の行為は、殺人罪(または殺人未遂罪)の構成要件に該当しますが、その違法性が正当防衛または過剰防衛の観点からどのように評価されるかが最大の争点となります。

結論から言うと、過剰防衛が成立し、刑が減軽または免除される可能性が非常に高いと考えられます。

以下に、その法的評価を段階的に解説します。


1. 原則的な成立犯罪:殺人罪(または殺人未遂罪)

まず、防衛の意思を一旦考慮せず、行為の外形と殺意に注目します。

  • 実行行為: ナイフで人の腹部を刺す行為は、人の生命を奪うに足る極めて危険な行為です。
  • 殺意: 「殺意をもって」と明記されている通り、相手を殺害する意思(未必の殺意を含む)があります。
  • 結果: 相手が死亡すれば殺人罪(刑法199条)、死亡しなければ殺人未遂罪(刑法203条)が成立します。

これが、この行為が原則として問われる罪です。


2. 例外①:正当防衛の成否(刑法36条1項)

次に、この行為が正当防衛として無罪になる(違法性がなくなる)かを検討します。正当防衛が成立するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

要件本件での検討
① 急迫不正の侵害があったか相手がナイフで襲い掛かってきたのであれば、生命・身体に対する「急迫不正の侵害」は明らかに存在します
② 防衛のためであったか(防衛の意思)「防衛意思」があったと明記されているため、この要件は満たされます攻撃的な意思(殺意)が併存していても、主たる動機が自己の権利を防衛することにあれば、防衛の意思は否定されません。
③ やむを得ずにした行為か(必要性・相当性)この要件を満たさない可能性が高いです。 ここが最大のポイントです。
・「相手から奪い取ったナイフで」という事実が決定的に重要です。
・ナイフを奪い取った時点で、相手は武装解除されています。その瞬間、相手からの「急迫不正の侵害」は、一旦終了したか、著しく程度が低くなったと評価される可能性が高いです。
・武器を失った相手に対して、なおも殺意をもって腹部を刺すという行為は、自己の防衛に必要な範囲を超えた「やりすぎ」な行為と判断されるのが通常です。

結論: ③の要件(行為の必要性・相当性)を満たさないため、正当防衛の成立は困難です。


3. 例外②:過剰防衛の成否(刑法36条2項)

正当防衛が成立しなくても、防衛の程度を超えた場合は過剰防衛となり、刑が減軽または免除される可能性があります。

刑法第36条第2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

過剰防衛は、上記の正当防衛の要件のうち、③の「やむを得ずにした行為」の要件だけを満たさない場合に成立します。

本件の行為は、

  • 急迫不正の侵害という状況下で(①)
  • 防衛の意思をもって行われたが(②)
  • その手段が防衛の程度を超えている(③を満たさない)

という、まさに過剰防衛の典型例に当てはまります。ナイフを奪った恐怖や興奮から、必要以上の反撃に出てしまったという状況です。


総合的な結論

ご提示の行為は、法的に以下のように評価される可能性が極めて高いです。

  1. 形式的には殺人罪(未遂含む)に該当する。
  2. しかし、相手の急迫不正の侵害に対して行われたものであるため、過剰防衛(刑法36条2項)が成立する。
  3. その結果、裁判所の判断により、刑が減軽または免除される

実際に科される刑は、侵害の程度、防衛行為の具体的態様、結果の重大性など、あらゆる事情を考慮して決定されます。

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