考えられる罪責のまとめ
| 罪名 | 成立の可能性 | 主なポイント |
| 1. 証拠隠滅等罪 | △(低い) | 自分自身の犯罪の証拠を隠滅する行為は、原則としてこの罪に問われない。 |
| 2. 廃棄物処理法違反 | ◎(非常に高い) | 廃棄物を不法に焼却(野焼き)する行為。証拠物も魚網も「廃棄物」と見なされる。 |
| 3. 建造物等以外放火罪 | ○(状況による) | 火を放って「公共の危険」を生じさせた場合に成立。周囲に釣り人がいた状況が重視される。 |
| 4. 器物損壊罪 | △(状況による) | 火によって防波堤自体に損傷(変色・変質など)を与えた場合に成立。魚網は所有権放棄の可能性。 |
| 5. (前提犯罪)各種税法違反 | 行為の動機となった「脱税」そのものに対する罪。 |
各罪責の詳細な解説
1. 証拠隠滅等罪(刑法第104条)
証拠隠滅等罪は、「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者」を罰するものです。
- 成立のポイント: この罪が成立するためには、隠滅した証拠が「他人の刑事事件」に関するものである必要があります。
- 本件への当てはめ:
- もし、燃やした脱税の証拠が自分自身の脱税に関するものであれば、自己の刑事事件の証拠を隠滅したに過ぎず、期待可能性がない(自分の罪の証拠を隠すのはある意味自然なことで、国家がそれを罰することに謙抑的であるべきという考え)ため、証拠隠滅等罪は成立しません。
- もし、知人や雇用主など、他人の脱税に関する証拠を頼まれて燃やしたのであれば、本罪が成立する可能性があります。
したがって、行為者自身の脱税証拠であった場合、この罪に問われる可能性は極めて低いです。
2. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)違反
一般的に「不法投棄」や「不法焼却(野焼き)」を取り締まる法律です。
- 成立のポイント: 廃棄物処理法第16条の2では、一部の例外を除き、何人も廃棄物を焼却してはならないと定められています。屋外での焼却(野焼き)は原則として禁止されています。
- 本件への当てはめ:
- 燃やした「脱税の証拠物(書類など)」や「捨てられた魚網」は、法律上の「廃棄物」に該当します。
- 防波堤という管理された場所で、適切な焼却設備を用いずに火をつけた行為は、この「焼却禁止」規定に明確に違反します。
- 本件において最も成立する可能性が高い犯罪です。罰則も「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこの併科」と非常に重くなっています。
3. 建造物等以外放火罪(刑法第110条)
人の住居や建造物など(刑法108条、109条)以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた場合に成立する犯罪です。
- 成立のポイント: 「公共の危険」を生じさせたかどうかが最大の争点です。これは、不特定または多数人の生命、身体、財産に対する危険を意味します。
- 本件への当てはめ:
- 燃やした証拠物や魚網は「建造物以外の物」に該当します。
- 「釣り人がいる」という状況が重要になります。 もし火の勢いが強く、釣り人に燃え移る危険があったり、有毒な煙が発生して健康を害する恐れがあったり、近くに駐車している車や船舶などに延焼する具体的な危険があったと判断されれば、「公共の危険」が生じたと見なされ、本罪が成立する可能性があります。
- 単に紙や網を少し燃やした程度で、すぐに鎮火し、周囲への延焼の危険が全くないと判断される場合は、公共の危険がないとして成立しない可能性もあります。
4. 器物損壊罪(刑法第261条)
他人の物を損壊し、または傷害した場合に成立します。
- 成立のポイント: 「他人の物」を「損壊」したかどうかです。「損壊」には物理的な破壊だけでなく、その物の効用を害する一切の行為が含まれます。
- 本件への当てはめ:
- 防波堤: 防波堤は国や地方公共団体が所有・管理する「他人の物(公共物)」です。火によってコンクリートが著しく変色したり、熱でひび割れが生じたりした場合、その効用を害したとして器物損壊罪が成立する可能性があります。
- 魚網: 「捨てられた魚網」とあるため、所有者が所有権を放棄した「無主物」である可能性が高いです。もし無主物であれば、誰の所有物でもないため「他人の物」には当たらず、魚網自体を燃やした行為について器物損壊罪は成立しません。
5. (前提となる犯罪)所得税法違反など
言うまでもありませんが、今回の行為の動機となった「脱税」そのものは、所得税法や法人税法などに違反する重大な犯罪行為であり、別途刑事責任を問われることになります。
結論
釣り人がいる防波堤で脱税の証拠と魚網を燃やした行為は、以下の罪に問われる可能性が考えられます。
- 最も可能性が高いのは「廃棄物処理法違反」です。 証拠物や魚網を屋外で燃やした時点で、ほぼ確実に成立します。
- 火の規模や周囲の状況によっては、「建造物等以外放火罪」が成立する可能性があります。 これは人の安全に関わるため、警察も重大な関心を持つでしょう。
- 火によって防波堤自体に損傷を与えていれば、「器物損壊罪」も成立し得ます。
- 燃やした証拠が他人の脱税に関するものであれば、「証拠隠滅等罪」が成立しますが、自己のものであれば成立しません。
実際の事件では、捜査機関がこれらの状況を総合的に捜査し、検察官がどの罪で起訴するかを判断することになります。特に、人のいる場所で火を放つ行為は極めて危険であり、厳しい処罰の対象となる可能性が高いと言えます。