結論から言うと、誘導尋問は原則として禁止されていますが、特定の状況下では許可されます。その可否は、主に法廷における「誰が」「誰に」質問するかの場面によって厳密に区別されています。
1. 誘導尋問とは?
まず、誘導尋問とは、質問者が期待する答えを暗示・示唆するような形で質問し、相手に特定の方向の答えを言わせようとする尋問方法です。
- 悪い例(誘導尋問):
- 「あなたは、午後10時にAさんが現場から走り去るのを見ましたよね?」
- (「はい」か「いいえ」で答えることを強いるだけでなく、「Aさんが現場から走り去った」という前提を植え付けている)
- 良い例(誘導尋問ではない):
- 「あなたは、午後10時に何を見ましたか?」
- (目撃した事実を、証人自身の言葉で述べさせる)
誘導尋問は、証人が質問者に引きずられ、事実と異なる証言(供述)をしてしまう危険性があるため、その使用には厳しい制限が設けられています。
2. 誘導尋問が【原則禁止】される場面
主尋問(しゅじんもん)
主尋問とは、検察官や弁護人が、自ら申請した証人に対して尋問を行う手続きです。ここでは、証人自身の経験や記憶を、そのありのままの言葉で語らせることが目的です。
そのため、主尋問において誘導尋問を行うことは、証言の純粋性を損なうため原則として禁止されています。(刑事訴訟規則第199条の3第3項)
3. 誘導尋問が【許可】される場面
(1) 反対尋問(はんたいじんもん)
反対尋問とは、相手方が申請した証人に対して尋問を行う手続きです。ここでの目的は、主尋問でなされた証言の信頼性(信用性)を弾劾・検証することにあります。
そのため、証言の矛盾点や曖昧な点を突き、その信用性を確かめるために、反対尋問では誘導尋問が広く認められています。(刑事訴訟規則第199条の4第2項)
(2) 主尋問での例外
原則禁止である主尋問でも、以下のような特定の状況では、裁判長の裁量により例外的に誘導尋問が許可されることがあります。(刑事訴訟規則第199条の3第3項ただし書)
- 証人の身分など、基礎的な事項に関する場合
- 例:「あなたは株式会社〇〇の代表取締役ですね?」
- 証人が敵意や反感を示している場合(敵性証人)
- 証人が非協力的で、通常の質問では実質的な証言が得られないとき。
- 証人が幼い子供、高齢者、知的障がい者などで、誘導しなければうまく話せない場合
- 証言を引き出すための補助として。
- 証人が記憶をなくしており、その記憶を呼び覚ます必要がある場合
- 例:「〇〇という書類を見て、何か思い出しますか?」
- 前の証言内容が曖昧だったため、それを明確にする必要がある場合
- 争いのない明白な事実について確認する場合
4. 捜査段階での取調べ
注意が必要なのは、上記はあくまで「法廷」でのルールであるという点です。警察官や検察官が被疑者を取り調べる捜査段階では、誘導尋問を禁じる明確な法律上の規定はありません。
しかし、過度な誘導尋問によって得られた自白は、任意性がない(無理やり言わされた)と判断され、裁判で証拠として採用されない可能性があります(自白法則)。そのため、捜査段階であっても、行き過ぎた誘導は問題視されます。
まとめ
| 尋問の種類 | 誘導尋問の可否 | 目的 |
| 主尋問 | 原則禁止 | 証人自身の言葉で事実を語らせるため |
| (主尋問の例外) | 例外的に許可 | 尋問を円滑に進めるため、証人を補助するためなど |
| 反対尋問 | 原則許可 | 相手方証人の証言の信頼性を検証・弾劾するため |
| 捜査段階の取調べ | 法律上の明確な禁止規定はない | (ただし、任意性のない自白は証拠にならない) |
このように、誘導尋問の可否は、その手続きの目的と場面に応じて厳密に定められており、公正な裁判を実現するための重要なルールとなっています。