証拠隠滅のおそれを理由とする勾留は、被疑者・被告人が刑事事件の証拠を破壊したり、偽造・変造したり、あるいは共犯者や証人と口裏合わせをしたりするのを防ぐために行われます。これは、刑事手続における勾留の最も一般的な理由の一つです。
証拠隠滅を理由とする勾留の要件
刑事訴訟法に基づき、証拠隠滅のおそれ(法律用語では「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」)を理由に被疑者・被告人を勾留するには、以下の要件を満たす必要があります。
1. 犯罪の嫌疑の相当性
まず、被疑者が罪を犯したことを疑うのに足りる相当な理由がなければなりません。単なる疑いだけでは不十分で、客観的な証拠に基づいた合理的な嫌疑が必要です。
2. 勾留の必要性
次に、以下のいずれかの必要性が認められる必要があります。
- 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること 👈 今回のテーマ
- 逃亡すると疑うに足りる相当な理由があること
- 定まった住居がないこと
証拠隠滅のおそれは、抽象的な可能性だけでは足りず、具体的な状況から判断されます。
「罪証隠滅のおそれ」の具体的な判断基準
裁判所は、罪証隠滅の「相当な理由」があるかどうかを、様々な事情を総合的に考慮して判断します。
客観的な事情
- 事件の性質: 組織犯罪、薬物犯罪、共犯者がいる事件などは、口裏合わせの危険性が高いと判断されやすい傾向があります。
- 証拠の状況:
- 人証中心の事件: 目撃者や共犯者などの証言が重要な証拠となる事件では、働きかけによる証言の汚染を防ぐため、証拠隠滅のおそれが認められやすいです。
- 物証の確保状況: 凶器や重要な書類などの客観的証拠が十分に確保されていれば、隠滅のおそれは低いと判断されることがあります。
主観的な事情
- 被疑者の供述:
- 否認・黙秘: 罪を認めていない場合、自己に不利益な証拠を隠滅しようとする動機が強いと判断される傾向があります。
- 自白: 素直に罪を認めている場合は、隠滅のおそれは低いと評価されることがあります。ただし、自白していても共犯者を庇っているような場合は、口裏合わせの可能性が考慮されます。
- 被疑者の経歴や性格: 前科の有無や、反社会的な性格の有無なども考慮されることがあります。
- 関係者との関係: 証人や共犯者と緊密な人間関係がある場合、働きかけや口裏合わせが容易であると判断されることがあります。
簡単に言えば、裁判所は「もしこの被疑者を釈放した場合、証拠が失われてしまう具体的な危険性がどの程度あるか」を慎重に審査します。そのため、捜査の初期段階で証拠が固まっていない場合ほど、証拠隠滅のおそれを理由とした勾留は認められやすくなります。