甲が、その所有の不動産を乙に売り渡し、乙の代理人丙を介して白紙委任状、名宛人白地の売渡証書など登記関係書類を交付したところ、右不動産の所有権を取得した乙から、これを丁所有の不動産と交換することを委任されて右各書類の交付を受けた丙が、これを濫用し、甲の代理人名義で丁との間で交換契約を締結したときは、丁において丙に代理権があると信じたことに正当の理由があるかぎり、甲は、丁に対し民法109条1、110条2によつて右契約につき責に任ずべきである。
概要
代理権濫用とは、代理人が自己または第三者の利益を図る目的で、代理権の範囲内の行為をすることです。表見代理とは、代理権がないにもかかわらず、あたかも代理権があるかのように見える外観が存在する場合に、本人に責任を負わせる制度です。
民法93条但し書きとの関連
判例は、代理人が自己または第三者の利益を図るため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法93条3但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当であるとしています。
重畳適用が認められる要件4
効果
表見代理の重畳適用が認められる場合、本人は代理行為について責任を負います。相手方は、本人に対して契約の履行を請求したり、損害賠償を請求したりすることができます。
具体例
Aが、自分の所有する家に抵当権を設定しようと思い、白紙委任状や印鑑など必要な書類一式を代理人Bに託しました。その後、気が変わってAは抵当権の設定をとりやめ、その旨をBにも伝えましたが、委任状などはBに預けたままでした。Bは、Aから預かったままの一式の書類や印鑑を用いて、Aの代理人であるかのようにふるまって、Aの家を第三者Cに売り渡してしまいました。
この事例では、Bは抵当権設定の代理権を与えられていたものの、家の売却という権限外の行為をしています。この場合、以下の点が問題となります。
「白紙委任状などの書類を預ける」という「代理権授与の表示」はなされているものの、無権代理人Bは代理権の範囲「外」の行為をしたので、109条は成立しません。
無権代理人Bは「家を売り渡す」という表示された代理権の範囲「外」の行為をしたが、基本代理権がないので、110条は成立しません。
判例では、代理権がないにもかかわらずされた代理権授与の表示には109条を、権限外の代理行為については110条をそれぞれ重畳的に適用して、表見代理の成立を認める余地があるとしています。