因果関係の判断
刑法において、ある行為が犯罪の結果を引き起こしたといえるには、「行為と結果との間に因果関係がある」と認められる必要があります。
- 条件関係(あれなければこれなし):まず、その行為がなければその結果は発生しなかったであろうか、という「あれなければこれなし」の関係(条件関係)があるかどうかが考慮されます。この場合、致死量に満たない毒を服用させた行為が、特殊な心臓疾患を持つ被害者の死亡に影響を与えたかどうかが問われます。
- 相当因果関係:条件関係が認められたとしても、その行為が一般的にその結果を引き起こす蓋然性(相当性)があるかどうかが判断されます。特殊な心臓疾患という予見できない事情が介在しているため、相当因果関係が否定される可能性があります。
判例の考え方
- 因果関係の断絶:甲が毒を飲ませたが、その効果が出る前に乙によって拳銃で撃たれて死亡した場合など、無関係の行為によって結果が生じた場合には、因果関係が否定されます。今回のケースでは、毒が致死量に満たないにもかかわらず、特殊な心臓疾患によって死亡した点が、これに近い状況と判断される可能性があります。
- 重畳的因果関係・択一的因果関係:複数の行為が重なって結果を招いた場合や、個々の行為でも結果が生じた場合でも因果関係が認められるケースもありますが、これは致死量の毒を複数人が与えた場合などに適用されるもので、今回のケースとは異なります。
致死量に満たない毒で、特殊な心臓疾患が原因で死亡したという本件の場合、一般的には毒物投与と死亡との間に相当因果関係が認められず、殺人既遂罪は成立しにくいと考えられます。これは、予見し得ない特殊事情によって結果が発生しており、行為の危険性が直接的に結果につながったとは判断されにくいからです。この場合、殺人未遂罪が検討されることになります。