現行犯逮捕は、目の前で犯罪が行われている、または行われた直後に、警察官だけでなく一般人でも令状なしに犯人を逮捕できる制度です。しかし、誰でも無条件に逮捕できるわけではなく、法律で定められた厳格な要件を満たす必要があります。
現行犯逮捕の3つの基本要件
現行犯逮捕が適法と認められるためには、大きく分けて以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 犯罪と犯人が明白であること
- 犯罪と逮捕の接着性(時間的・場所的)
- 逮捕の必要性があること
要件1:犯罪と犯人の明白性
現行犯逮捕の最も基本的な要件は、逮捕される者が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」(現行犯人)であることが明白であることです(刑事訴訟法第212条第1項)。
現に罪を行っている: まさに犯罪の実行中である状態を指します。例えば、万引きをしている最中や、人を殴っている瞬間などがこれにあたります。
現に罪を行い終わった: 犯罪行為が終了した直後である状態を指します。例えば、万引きをして店から出た直後や、人を殴り倒してその場にいる場合などが該当します。
重要なのは、逮捕する者にとって、犯罪と犯人が明白であるという点です。「あの人が犯人かもしれない」といった憶測や推測だけでは、現行犯逮捕はできません。
要件2:犯罪と逮捕の接着性(時間的・場所的)
犯罪行為と逮捕行為が、時間的・場所的に密接に関連していることが求められます。これを「接着性」と呼びます。
時間的接着性: 犯罪が行われてから逮捕するまでの時間が短いことを意味します。明確な時間の基準はありませんが、一般的には数分以内と考えられています。時間が経過すればするほど、接着性は弱まります。
場所的接着性: 犯罪現場と逮捕場所が近いことを意味します。犯罪現場そのものである必要はありませんが、そこから連続した場所であることが求められます。
この接着性の要件があるため、例えば数日前に起きた犯罪の犯人を見つけたとしても、それは現行犯逮捕の対象とはなりません。その場合は、警察官が裁判官の発する令状に基づいて行う「通常逮捕」の手続きが必要となります。
要-件3:逮捕の必要性
現行犯逮捕は、人の身体を拘束する重大な行為であるため、「逮捕の必要性」がなければなりません。具体的には、以下の点が考慮されます。
逃亡のおそれ: 犯人がその場から逃げようとしている、または逃亡する可能性が高い場合です。
証拠隠滅のおそれ: 犯人が証拠を破壊したり、隠したりする可能性が高い場合です。
特に、30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる比較的軽微な犯罪(例:侮辱罪など)については、犯人の住居もしくは氏名が明らかでなく、又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、現行犯逮捕が許されます(刑事訴訟法第217条)。
つまり、軽微な犯罪で、犯人の身元が分かっており、逃げる様子もない場合には、現行犯逮捕は認められないということになります。
「準現行犯逮捕」という例外
刑事訴訟法には、「現行犯人」とみなして逮捕できるケースとして「準現行犯逮捕」が定められています(刑事訴訟法第212条第2項)。これは、以下のいずれかに該当する者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときに適用されます。
犯人として追呼されているとき: 「泥棒!」などと叫ばれて追いかけられている場合。
贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき: 盗品や血の付いたナイフなどを持っている場合。
身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき: 返り血を浴びている、衣服が破れているなど、犯罪があったことを示す明らかな痕跡がある場合。
誰何(すいか)されて逃走しようとするとき: 職務質問などをされて、いきなり逃げ出そうとする場合。
これらの状況は、犯人である蓋然性が極めて高いため、現行犯人と同様に扱われます。
まとめ
| 要件の種類 | 具体的な内容 | 根拠条文(刑事訴訟法) |
| 犯罪と犯人の明白性 | 「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」であることが明白であること。 | 第212条第1項 |
| 犯罪と逮捕の接着性 | 犯罪行為と逮捕が、時間的・場所的に密接していること。 | 解釈上の要件 |
| 逮捕の必要性 | 逃亡や証拠隠滅のおそれがあること。特に軽微犯罪では要件が加重される。 | 第217条、解釈上の要件 |
| 準現行犯 | 特定の状況下で、「罪を行い終わってから間がない」と明らかな場合。 | 第212条第2項 |
現行犯逮捕は、迅速な犯人確保と証拠保全のために認められた重要な制度ですが、その要件は厳格に定められています。もし、現行犯逮捕の場面に遭遇した、あるいは自身が逮捕されてしまったという場合には、これらの要件が満たされているかどうかが重要なポイントとなります。