犯人性の推認とは

「犯人性の推認(はんにんせいのすいにん)」とは、刑事裁判において、ある人物が特定の犯罪の犯人である(犯人性)という事実を、直接的な証拠がない場合に、様々な間接証拠(状況証拠)を論理的に積み重ねて認定(推認)することを指します。

刑事裁判では、自白や犯行を直接目撃した証言のような「直接証拠」が常に存在するとは限りません。そのような場合に、個々の証拠は断片的であっても、それらを総合的に評価することで、被告人が犯人であることを合理的に導き出すのが犯人性の推認です。


推認に用いられる間接証拠(状況証拠)の具体例

犯人性を推認するためには、以下のような様々な間接証拠が用いられます。

種類具体例
犯行との結びつきを示す証拠・犯行現場に残された指紋、DNA、足跡などが被告人のものと一致する。
・被害者の衣服に付着していた微物(繊維など)が、被告人の衣服のものと一致する。
機会に関する証拠・被告人が犯行時刻頃に犯行現場の近くにいたことが防犯カメラなどで確認できる。
・被告人にアリバイがない。
能力・手段に関する証拠・犯行に使われた凶器と同種のものを被告人が所有・購入していた。
・特殊な技術や知識が必要な犯行の場合、被告人がその技術・知識を有している。
動機に関する証拠・被告人が被害者に対して強い恨みを抱いていた。
・金銭目的の犯行の場合、被告人が多額の借金を抱えていた。
犯行後の状況に関する証拠・盗まれた品物を被告人が所持・売却していた。
・犯行後、被告人が急に羽振りが良くなった。
・捜査機関しか知り得ない「秘密の暴露」を、被告人が供述した。
被告人の言動・捜査段階で虚偽の供述をするなど、不合理な弁解をしている。

これらの証拠が一つだけでは犯人だと断定できなくても、複数の証拠が矛盾なく被告人と犯行を結びつける場合に、犯人性の推認が強固になります。


裁判における犯人性の認定基準

裁判所が犯人性の推認によって有罪判決を下すためには、検察官による証明が「合理的な疑いを差し挟む余地がない」程度に達している必要があります。これは刑事裁判における鉄則です。

単に「被告人が怪しい」というだけでは全く不十分であり、間接証拠を総合的に評価した結果、

  • 被告人が犯人であると考えれば、全ての状況が矛盾なく説明できる。
  • 逆に、被告人が犯人でないと仮定すると、多くの状況が不合理で説明困難になる。

という状態に至って、初めて犯人性が認定されます。もし、被告人以外の人物が犯人である可能性が合理的に説明できる場合は、証拠不十分として無罪判決が下されることになります。

このように、犯人性の推認は、直接証拠がない事件の解決に不可欠な手法である一方、その評価を誤れば冤罪を生む危険性もはらんでいるため、極めて慎重な判断が求められます。

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