国際私法(渉外的な法律問題)を解決する過程では、どの国の法律を適用するか(準拠法)を決定するために、いくつかの特有の問題が生じます。ここでは、その中でも特に重要な法性決定、先決問題、適応問題という3つの概念と、それぞれの解決策について解説します。
法性決定 (Legal Characterization)
法性決定とは、具体的な事実関係を法的に分類し、どの国際私法のルール(抵触規定)を適用するかを決定する最初のステップです。簡単に言えば、「この争いは、法律的に見てどのカテゴリーの問題なのか?」を判断する作業です。
例えば、「夫の暴力が原因で離婚し、妻が慰謝料を請求する」という国際的な事案があったとします。この「慰謝料請求」をどう捉えるかによって、適用される準拠法が変わってきます。
- 「離婚に伴う効果」の問題と捉えるか? → その場合、離婚の準拠法を定めるルールが適用されます。
- 「不法行為」の問題と捉えるか? → その場合、不法行為の準拠法を定めるルールが適用されます。
このように、法的な性質づけ(=法性決定)が、その後の準拠法選択の分かれ道となります。
解決策
法性決定は、原則として法廷地法(フォーラム法)に従って行われます。つまり、日本の裁判所で裁判が行われるのであれば、日本の法律の考え方や概念を用いて、その問題がどの法分野に属するのかを判断します。これを法廷地法説と呼び、通説・判例となっています。これは、裁判所が自国の国際私法を適切に適用するための前提作業だからです。
先決問題 (Preliminary Question)
先決問題とは、主要な法律問題(本問題)を解決するために、前提としてまず解決しなければならない別の法律問題を指します。
典型的な例は、国際相続の事案です。
- 本問題:亡くなった外国人Aの遺産を、妻であるBが相続できるか。
- 先決問題:そもそも、AとBの婚姻は有効に成立しているか。
Bが相続人たる「配偶者」であると認められるためには、その前提として二人の婚姻が有効でなければなりません。この婚姻の有効性という「先決問題」を判断するにあたり、どの国の国際私法を用いて準拠法を決定すべきかが論点となります。
解決策
先決問題の解決策については、学説上の議論がありますが、日本の通説・判例は法廷地法説(法廷地の国際私法によって判断する説)を採用しています。
これは、本問題と同様に、先決問題についても裁判が行われている国(法廷地)の国際私法ルールを適用して、準拠法を決定するという考え方です。上記の例で言えば、日本の裁判所で相続が争われている場合、婚姻の有効性(先決問題)についても、日本の国際私法(法の適用に関する通則法)に従って準拠法(例:婚姻挙行地法など)を決定し、その有効性を判断します。
これにより、法廷地における法秩序の統一性が保たれ、判断の予測可能性も高まるとされています。
適応問題 (Adaptation)
適応問題とは、ある一つの事案に複数の国の法律(準拠法)が適用された結果、それぞれの法律がうまく噛み合わず、全体として不公平または不合理な結論が生じてしまう問題を指します。これは、各国の法制度が異なることを前提に作られているために発生します。
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
- ある国の法律(A国法)では、「妻は夫の遺産の半分を相続する権利(相続権)を持つが、婚姻中の扶養は義務ではない」と定められています。
- 別の国の法律(B国法)では、「妻は夫から手厚い扶養を受ける権利がある代わりに、相続権は認められていない」と定められています。
ここで、夫婦の婚姻中の扶養についてはB国法が、相続についてはA国法が準拠法に指定されたとします。すると、「生前はB国法によって扶養を受けられず、死後はA国法によって相続も受けられない」という、どちらの国の法制度も予定していなかった極めて不公平な結果(すき間・欠缺)が生じる可能性があります。逆に、両方の制度の「良いとこ取り」となり、不当に有利な結果(重複・競合)が生じることもあります。
解決策
適応問題を解決するための明確なルールはなく、事案に応じて実質的な正義や公平を実現するために、裁判官による調整的な解釈が必要とされます。主な解決アプローチには、以下のようなものがあります。
- 抵触規定レベルでの調整: 国際私法のルール(抵触規定)の解釈を柔軟に行う方法です。例えば、本来は別々のルールが適用される複数の法律関係を、一つのものとして捉え直すことで、単一の準拠法を適用し、矛盾が生じるのを避けます。
- 実質法レベルでの調整: 指定された各国の準拠法を適用する際に、その内容を少し修正したり、一方の準拠法を他方に合わせて解釈したりする方法です。上記の例で言えば、A国法の相続規定とB国法の扶養規定の趣旨を考慮し、公平な結果となるように相続分を認めたり、調整したりすることが考えられます。
これらの問題は、国際的な人の移動や取引が活発になるにつれて、ますます重要になっています。いずれも、渉外的な事案において公平で妥当な解決を導くための、国際私法における重要な理論的支柱です。