手形に署名(正確には記名捺印)を他人が代行する手形行為は、本人の授権があれば有効です。しかし、権限なく行われた場合は原則として無効(偽造)となります。
ただし、無権限の代行であっても、名義人(本人)に責任が生じる例外的なケースがあるため注意が必要です。
権限がある場合の代行(有効)
手形行為は、代理人によって行うことが認められています。本人の意思に基づき、代理の権限を授与された人(例えば、会社の経理担当者や家族など)が、本人に代わって記名し、本人の印章を捺印する行為は有効な手形行為として成立します。
これは、本人がその手形から生じる債務を引き受ける意思があることを前提としています。
代行(機関方式): 手形面には本人の名前だけが記載され、あたかも本人が自ら記名捺印したかのような形式をとります。
例:「(振出人)株式会社〇〇商事 代表取締役 △△ △△ (印)」
代理(代理方式): 手形面に本人と代理人の両方の名前が記載されます。
例:「(本人)株式会社〇〇商事 代表取締役 △△ △△ 代理人 □□ □□ (印)」
実務上、多く見られるのは「代行(機関方式)」です。
権限がない場合の代行(原則無効)
本人から何ら権限を与えられていない者が、勝手に本人の名前で手形に記名捺印した場合、その手形行為は「偽造」となり、原則として無効です。
偽造された名義人(本人)は、手形上の責任を負う必要はありません。
この場合、手形を偽造した者が、手形法上の責任(無権代理人の責任)を負うことはありませんが、民法上の不法行為責任(損害賠償責任)や、有価証券偽造罪などの刑事責任を問われる可能性があります。
【重要】例外的に本人が責任を負う場合
権限のない代行(偽造)であっても、以下のようなケースでは、名義人(本人)が手形上の責任を負わなければならない場合があります。
表見代理の類推適用
本人に責任があるような「外観」が存在し、その外観を信用した相手方が保護されるべき場合に、例外的に本人が責任を負うという考え方です。これは民法の「表見代理」の規定を類推して適用するものです。
具体的には、以下の3つの要件を満たす場合に成立する可能性があります。
本人の帰責性: 本人が、他人に手形署名を代行する権限があるかのような外観を作り出すことに関与していること。
(例) 白紙の手形用紙や届出印を他人に預けていた。
(例) 以前からその人に手形代行を任せていた事実がある。
外観の存在: 権限があるかのような客観的な外観が存在すること。
相手方の善意・無重過失: 手形を取得した相手方が、代行者に権限がないことを知らず、知らないことについて重大な過失もなかったこと。
使用者責任
会社の従業員が、その事業の執行に関して(例えば、取引の決済のためなど)手形を偽造した場合、会社が使用者責任(民法715条)に基づき、損害賠償責任を負うことがあります。
これは、従業員の行為によって利益を得ている会社は、そのリスクも負担すべきだという考え方に基づいています。
まとめ
| 代行の状況 | 手形行為の有効性 | 名義人(本人)の責任 |
| 権限がある | 有効 | 全面的に負う |
| 権限がない | 無効(偽造) | 原則、負わない |
| 権限はないが、表見代理が成立 | 無効 | 例外的に負う |
| 従業員による偽造で使用者責任が成立 | 無効 | 例外的に負う(損害賠償責任) |