開示請求の仕組みと実情

刑事裁判において、弁護人は被告人の正当な権利を守るため、検察官が持つ証券の開示を請求することができます。これは、被告人に有利な証券を発見し、反論や独自の主張を組み立てるために不可欠な手続きです。この証拠開示は、主に「主張関連証拠開示」と「類型証拠開示」という二つの制度によって支えられています。


証拠開示の二本柱:主張関連証拠と類型証拠

弁護人が検察官に証拠の開示を求める方法は、主に2種類あります。これらは、裁判の進行段階や弁護活動の戦略に応じて使い分けられます。

主張関連証拠開示

これは、弁護人が「被告人にはアリバイがある」といった具体的な主張(予定主張)を明示した上で、その主張に関連する証拠の開示を求める制度です。

  • 請求のタイミング: 主に、争点がある程度絞られてくる公判前整理手続の後半や期日間整理手続で行われます。
  • 請求できる証拠: 弁護人の主張に直接関連し、その立証に必要不可欠と考えられる証拠が対象となります。例えば、アリバイを主張するならば、その時間帯の監視カメラ映像や、被告人と一緒にいたとされる人物の供述調書などが該当します。
  • 目的: 自らの主張を直接的に裏付ける証拠を入手し、裁判官に提示することを目的とします。

類型証拠開示

こちらは、弁護人が具体的な主張を明示する前に、法律で定められた一定のカテゴリー(類型)に該当する証拠の開示を求めることができる制度です。

  • 請求のタイミング: 主に、起訴後、公判前整理手続の初期段階で行われます。
  • 請求できる証拠: 法律で定められた類型には、以下のようなものが含まれます。
    • 物証: 凶器、指紋、DNA鑑定資料など
    • 鑑定書: 精神鑑定、筆跡鑑定などの結果
    • 供述調書: 被告人や特定の証人の供述を記録した書面
  • 目的: 検察官がどのような証拠を手持ちにしているかを早期に把握し、防御方針を立てるための広範な情報を得ることが目的です。

戦略的な使い分け: 実務では、まず網羅的に情報を収集するために類型証拠開示を先行させ、そこで得られた証拠を分析して弁護方針を固めます。その上で、特定の主張を裏付けるために、より的を絞った主張関連証拠開示を行うのが一般的な戦略です。


開示請求の手続きと流れ

証拠開示の請求から開示に至るまでには、定められた法的な手続きが存在します。

  1. 弁護人による請求: 弁護人は、開示を求める証拠を特定し、その必要性を記載した書面を検察官に提出します。
  2. 検察官の応答: 検察官は請求内容を検討し、開示すべきか判断します。開示義務があると判断すれば、証拠を弁護人に開示します。
  3. 開示拒否と不服申し立て: 検察官が開示を拒否した場合、弁護人は裁判所に対して「開示命令を出すように」と裁定請求(さいていせいきゅう)を行うことができます。

開示が拒否される場合とその対抗策

検察官は、常にすべての証拠開示請求に応じるわけではありません。正当な理由がある場合には、開示を拒否することが可能です。

検察官による開示拒否の主な理由

  • 証拠隠滅・証人威迫の恐れ: 証拠を開示することで、関係者が口裏を合わせたり、証人が脅迫されたりする具体的な危険性があると判断される場合。
  • プライバシーの重大な侵害: 証拠に含まれる情報が、事件関係者のプライバシーを著しく侵害するおそれがある場合。
  • 関連性の欠如: 請求された証拠が、弁護人の主張と無関係であると判断される場合。

裁判所の判断(裁定請求)

弁護人から裁定請求が出されると、裁判所は中立的な立場で、証拠開示の必要性と、開示によって生じる弊害を比較衡量します。

裁判所は、「その証拠がなければ被告人の防御に著しい不利益が生じるか」という開示の必要性と、「開示することによる証拠隠滅やプライバシー侵害のリスク」という弊害の大きさを天秤にかけ、最終的に開示の可否を命令します。


弁護活動における現実的な課題

制度上は弁護人の証拠開示請求権が保障されていますが、実際の弁護活動にはいくつかの困難が伴います。

最大の課題は弁護人側は、検察官がどのような証拠を全て持っているのかを完全に知る立場にないことです。そのため、弁護人は限られた情報から「検察官がこのような証拠を持っているはずだ」と推測し、的を絞って請求せざるを得ません。この「手探り」の状態が、被告人に有利な証拠を見つけ出す上での大きな障壁となっています。

このため、弁護士会などからは、より網羅的な証拠リストの開示を義務付けるなど、刑事司法の透明性をさらに高めるための法改正を求める声が上がっています。

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