本問は、暴力団構成員である乙が、上位の地位にある甲から、V方に押し入って現金を奪うこと(以下「本件強盗」という。)を指示され、甲から資金提供を受けて開錠道具や果物ナイフ(以下「ナイフ」という。)等必要な道具を購入した後、甲から本件強盗を中止するように言われたものの、これに従わずに前記開錠道具を用いてV方に侵入し、Vに暴行・脅迫を加えたところ、乙が強盗するのを手伝うために丙がV方にやって来たことから、丙と共に現金を奪って逃げた事例と、乙らの逃走後、V方に侵入した丁が、Vのキャッシュカードをポケットに入れた後に血を流して倒れているVを見付け、同人から同カードの暗証番号を聞き出して逃走し、同カードを用いて現金を引き出すために近くの銀行支店に行き、同支店内において、前記聞き出した暗証番号を使って現金自動預払機(以下「ATM」という。)から現金を引き出したという事例(なお、丁の逃走後、Vは乙から顔面を蹴られたことによる脳内出血が原因で死亡した。)について、甲乙丙丁それぞれの罪責を検討させることにより、刑事実体法及びその解釈論の知識と理解を問うとともに、具体的な事実関係を分析してそれに法規範を適用する能力及び論理的な思考力や論述力を試すものである。
以下では、V方における強盗の実行犯である乙、V方において乙に加担した丙、乙に本件強盗を指示した甲、その後V方に侵入した丁の罪責について順に述べることとする。
⑴ 乙の罪責
暴力団組織である某組の構成員である乙は、某年9月1日、同組で組長に次ぐ地位にある甲から、組長からまとまった金を作れと言われているので、V方金庫内にある数百万円の現金を、V方に押し入って、Vをナイフで脅して奪って来いと指示された上、奪った現金の3割を分け前として与える旨言われた。乙は、当初、逡巡したものの、某組内で上位の地位にある甲からの命令であることや、分け前欲しさから、その命令を受け入れ、その後、甲から渡された現金3万円でV方に侵入する際に使う開錠道具、Vを脅すために使うナイフ、現金を入れるかばんを購入した上、某組で自身の弟分の地位にある丙に協力を求めたがこれを断られたので、一人でV方へ侵入することにした。同月12日未明、乙は、V方へ侵入する直前に甲から、本件強盗を中止すると言われたものの、これに従わずに本件強盗を実行し、用意していた開錠道具を用いてV方へ入り込んだ上、用意していたナイフを示し、Vの顔面を蹴り、Vの右足のふくらはぎ(以下「右ふくらはぎ」という。)をナイフで刺すなどしてVから金庫の場所等を聞き出し、その後、乙が強盗するのを手伝うためにV方にやって来た丙と共に金庫内から現金500万円を取り出して用意していたかばんに入れてV方から持ち出し、その後、同現金のうち150万円を丙に分け前として渡し、残り350万円を自身のものとした。
まず、乙は、Vから現金を奪う目的で、事前に用意した開錠道具を用いてV方へ入り込んでいることから、住居侵入罪が成立することを簡潔に指摘する必要がある。
次に、乙がV方金庫内にあった現金を手に入れた行為について、いかなる構成要件に該当するかを確定する必要がある。すなわち、乙は、Vに対してナイフを顔面に突き付け、「金庫はどこにある。開け方も教えろ。怪我をしたくなければ本当のことを言え。」などと申し向け、それでも金庫の場所等を言わないVから、その場所等を聞き出すためにその顔面を蹴り付け、右ふくらはぎをナイフで刺すなどの有形力を行使していることから、これら乙の行為が強盗罪の暴行・脅迫に該当することにつき、その判断基準や判断要素に関して判例等を意識した上で論じる必要がある。
また、その後Vは死亡しているが、その原因は乙から顔面を蹴られたことによる脳内出血であることから、死亡結果と因果関係のある乙の行為を的確に指摘し、強盗致死罪の成立を論じる必要がある。
そして、罪数についても論じる必要がある。
なお、後に問題となるように、甲について共犯関係の解消を認めると、甲には強盗予備罪が成立することになる。このような結論を採った場合には、乙につき、強盗予備罪の成否、これと強盗致死罪との関係、予備罪の共犯の成否等に関しても的確に論じる必要がある。
⑵ 丙の罪責
丙は、某組では乙の弟分の地位にあり、前述のとおり、乙から本件強盗への協力を頼まれたものの、これを実行する日に別の用事があったためにその依頼を断った。しかし、乙が本件強盗を実行する当日である某年9月12日、前記用事が予定よりも早く終わったことから、乙が強盗するのを手伝おうと考え、また、分け前も欲しかったことからV方へ向かい、開いていた玄関からV方内へ入り込んだ。そうしたところ、乙は、V方寝室内の床にVが右ふくらはぎから血を流して横たわっているのを見付け、その後、V方6畳間にいた乙から、乙がVの右ふくらはぎを刺したこと、Vは身動きがとれないので簡単に現金を奪うことができること、分け前をもらえることなどを聞くと、分け前欲しさから、乙を手伝って現金を手に入れることに決めた。その上で丙は、乙と共にV方金庫内から現金500万円を取り出し、これを乙が用意していたかばんの中に入れ、その後、そのかばんを持ってV方から出て、分け前として前記500万円のうち150万円を受け取った。
まず、丙は、乙の強盗行為を手伝う目的で玄関からV方に入り込んでいることから、住居侵入罪が成立することを簡潔に指摘する必要がある。なお、丙の住居侵入罪に関しては、乙との共謀が成立する前のものであり、単独犯となることも端的に指摘する必要がある。
また、丙は、その後、乙と共にV方金庫内にあった現金をV方外へ持ち出しているが、これが容易に可能となったのは、Vが、乙から右ふくらはぎをナイフで刺されて血を流して動けない状態となっていたためであった。既に検討しているように、乙がVの右ふくらはぎをナイフで刺した行為は強盗罪の暴行に該当することから、さらに、丙がVのそのような状況を利用して乙と共に現金を手に入れた行為につき、丙にいかなる犯罪が成立するかを検討する必要がある。
その検討に当たっては、いわゆる承継的共犯の成否を論じる必要があるところ、その際には問題の所在を意識した論述を行う必要がある。すなわち、丙と乙との間の共謀はV方内で成立した現場共謀であることを指摘しつつ、丙が関与する前(共謀成立前)の乙の行為に関して責任を負うことがあり得るのかについて、共犯の処罰根拠を含めて、承継的共犯の問題につき説得的に規範定立を行い、その上で、定立した自説の規範に、具体的な事実を指摘して的確な当てはめを行うことが求められる。
具体的には、承継的共犯について、いわゆる中間説(限定的肯定説)の立場を採った場合には、丙が乙の先行行為によって生じた状況を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したか否かを論じる必要がある。この点に関しては、丙が分け前をもらえると考えていたことや、丙はVが身動きできないので簡単に現金を奪うことができると考えていたことなどの各事実を的確に指摘して結論を導き出すことが求められ、その上で、Vの傷害・死亡結果について丙もその責任を負うかにつき、丙が何を利用したのかなどを意識し、理由付けも含め的確に論じることが求められる。
また、承継的共犯について、いわゆる全面的否定説の立場を採った場合には、丙に窃盗罪が成立することになると考えられる。その結論を導くに当たっては、Vは丙が関与する前に既に乙の行為によって反抗を抑圧されており、丙はVに一切の暴行・脅迫を加えておらず、かつ、Vも丙の存在を認識していないことなどの各事実を的確に指摘して説得的に論じることが求められ、さらに、乙とはいかなる範囲で共同正犯が成立するのかをも含め的確に指摘する必要がある。
なお、丙の罪責に関しては、前述以外にも、乙と丙は強盗罪の実行行為の一部を共同しているとして強盗罪の範囲で共同正犯が成立するとする見解や、丙には窃盗罪の他に強盗罪の幇助犯が成立するとする見解などが存する。
このように種々の見解が存することから、承継的共犯の規範定立に当たっては、自説のみを論じるのではなく反対説を意識して論述するのが望ましいものといえ、また、承継的共犯に関しては近時の判例(最二決平成24年11月6日刑集66巻11号1281頁)もあることから、その点も意識した論述ができることがより望ましいものといえる。
そして、罪数についても論じる必要がある。
⑶ 甲の罪責
甲は、暴力団組織である某組の組長に次ぐ地位にあり、同組組長からまとまった現金を工面するように指示を受けていたところ、Vが自宅において、数百万円の現金を金庫に入れて保管していることを知り、この現金を手に入れようと計画した上、配下組員の乙に対して、V方へ押し入り、ナイフで脅してその現金を奪ってくるように指示し、ナイフなど必要な物を購入するための資金として現金3万円を交付した。その後、甲は、乙からナイフなど、同現金で購入した物について報告を受けた後、某年9月12日未明、乙からこれからV方に押し入る旨を告げられた際、乙に対して、組長からの命令として本件強盗を中止するように言った。しかしながら、乙は、これに従わず、準備していたナイフなどを用いて本件強盗を実行し、その後V方にやってきた丙と共にV方から現金500万円を持ち出して手に入れた。
まず、甲は、乙に対して本件強盗の実行を持ち掛け、乙はこれを了承しているところ、甲と乙との間に共謀が成立していることを論じる必要がある。その際には、甲が乙に対してVが金庫内に多額の現金を保管している旨の情報を提供したこと、甲が乙に対してVから現金を奪う際にはナイフを用いるように指示したこと、甲が乙に対してナイフなど必要な道具を購入するための資金として現金3万円を提供したこと、乙は分け前欲しさもあり甲の指示を了承したこと、乙は甲の配下組員であること、甲はVから手に入れた金員の7割を手にすることにしていたこと、甲は組長からの指示で現金を手に入れる必要があったことなどの各事実を指摘した上、これらの事実を用いて共謀共同正犯が成立することをその要件を踏まえて論じることが求められる。
そして、甲は、その後、乙に対して中止するように言ったにもかかわらず乙が本件強盗を実行していることから、甲が乙の実行した本件強盗に関してその責任を負うのか、共犯関係からの離脱が問題となる。これを論じる際には、共犯の処罰根拠を意識した問題の所在の摘示及び規範の定立が求められる。
その上で、甲の離脱を認めるか否かに関しては、甲と乙のやりとり(中止指示と乙の了承を前提に、甲が道具の回収指示をしていないこと)、甲から渡された現金3万円で乙が用意したナイフや開錠用具、かばんといった道具の重要性、甲が首謀者であること、甲から乙への中止指示が犯行直前であり、かつ、その指示方法も、組長から中止指示を受けて直ちに告げたわけではなく、乙が電話をかけてきた際に告げたものであることなどの各事実を踏まえ、定立した規範にこれら事実を的確に当てはめて結論を導き出す必要がある。その結論としては、心理的因果性は除去されていたとしても物理的因果性が除去されていないとして離脱を認めないとするもの、心理的因果性が除去されていることに重点を置き離脱を認めるものなどがあり得るが、離脱を認める場合には、物理的因果性が残っているにもかかわらず離脱を認めると考えた理由につき事案に即してより説得的に論じることが求められる。
甲の離脱を認めないとの結論を採った場合には、Vが乙の行為により死亡している点に関しても甲がその責任を負うのかを、理由を含めて簡潔に論じる必要がある。さらに、甲と丙との間に共謀が成立するのかについても、いわゆる順次共謀の考え方(判例として最大判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁等がある。)に従って論述することが求められる。なお、この場合において、丙につき承継的共犯を否定して窃盗罪の成立を認めたときには、甲に関して共犯間の錯誤も問題となり得るところである。
これに対し、甲の離脱を認めるとの結論を採った場合、甲には強盗予備罪が成立するとの結論が導き出される。その場合には、乙との間で強盗予備罪の共同正犯が成立するかを端的に論じる必要がある。さらに、甲に予備罪の中止等も問題となり得るところである。
そして、罪数についても論じる必要がある。
⑷ 丁の罪責
丁(甲、乙及び丙とは面識がなかった。)は、窃盗に入る先を探して徘徊中、V方前を通った際に、V方の玄関扉が少し開いていることに気付いた。そこで丁は、V方から金品を盗もうと考えてV方に入り込み、その後、V方6畳間にあった扉の開いた金庫内からX銀行のV名義のキャッシュカード(以下「カード」という。)を取り出して自身のズボンのポケットに入れ、更に物色するためV方寝室に行ったところ、そこで右ふくらはぎから血を流して床に横たわっているVを発見した。丁は、Vからカードの暗証番号を聞き出そうと考え、「暗証番号を教えろ」などと強い口調で言ってこれを聞き出し、その後、V方から逃げ出して、同カードを用いて現金を引き出すために、近くの24時間稼動しているATMが設置されているX銀行Y支店に出入口ドアから入り、同ATMに同カードを挿入した上、暗証番号を入力して現金1万円を引き出した。
まず、丁は、V方から金品を盗み出す目的で、開いていた玄関扉からV方へ入り込んでいることから、住居侵入罪が成立することを簡潔に指摘する必要がある。
次に、丁がVのカードをズボンのポケットに入れた点に関しては、その財物性、窃盗罪の既遂時期などについて端的に論じることが求められる。
さらに、丁は、その後、右ふくらはぎを刺されて横たわっているVに対し、強い口調で迫ってVのカードの暗証番号を聞き出しているところ、この行為がいかなる構成要件に該当するかを確定する必要がある。この点に関しては、Vのカードの暗証番号が刑法上保護されるべき財産上の利益に該当するか否かに加え(カードとその暗証番号を併せ持つことは財産上の利益に該当するとした裁判例として東京高判平成21年11月16日判例時報2103号158頁がある。)、丁がVに申し向けた文言が強盗罪の実行行為としての脅迫に該当するか否かが問題となるところである。その結論としては、暗証番号の利益性を肯定すれば2項強盗罪あるいは2項恐喝罪が、これを否定すれば強要罪等が成立するが、いずれの結論を採ったとしても、問題点を意識した上で、理論的に矛盾なく論じられていることが求められる。
また、丁が、Vのカードを用いて現金を引き出すためにX銀行Y支店の出入口ドアから店内に入り、同カードを使ってATMから現金を引き出した点については、建造物侵入罪及び窃盗罪の各成否に関して、簡潔に論ずる必要がある。
そして、罪数についても論じる必要がある。