〔第1問〕(配点:50)
甲国人女Wは、甲国人男によって懐胎した嫡出でない甲国人子Cを甲国において出生した。Wは、その2年後、甲国において日本人男Hと知り合い、甲国において同国民法の定める方式に従い婚姻した。法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)(以下「通則法」という。)第41条の適用はなく、日本法からみてHとWの婚姻は有効に成立していることを前提として、以下の設問に答えなさい。
なお、甲国民法は、日本民法の定める普通養子縁組に相当する制度を有しているほか、次の①から⑦の趣旨の規定を有している。
① 年齢18歳をもって、成年とする。
② 夫婦が未成年者を養子とする場合であっても、共同で縁組をする必要はない。
③ 縁組は、甲国の戸籍管掌者に届け出ることによって、その効力を生ずる。
④ 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
⑤ 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
⑥ 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。
⑦ 父母と子は、互いに扶養をする義務がある。
〔設 問〕
1.Wは、Hとの婚姻直後にCと来日し、Hと共に平穏な生活を日本で営んできた。Cも日本の小学校に通学し、日本での生活に慣れ親しんでいる。Hは、WとCが来日して5年が経過した時に、Cと養子縁組をすることを決意するに至った。通則法第31条第1項後段が定める甲国法の要件は、全て満たされているものとして、次の問いに答えなさい。
⑴ Hは、Wと共同して、Cを養子としなければならないか。
⑵ HとWが共同してCを養子とする場合、この縁組は、日本の戸籍管掌者への届出によって、方式上有効に成立するか。
2.HとWが共同してCを養子とする縁組が成立した後、Cについて帰化が許可され、現在Cは日本国籍だけを有している。
⑴ Cは嫡出子か。
⑵ Cにつき親権を行使する者は誰か。
⑶ HはCの扶養義務者か。
〔第2問〕(配点:50)
Xは甲国人であり、Yは甲国法に基づき設立されて甲国に主たる営業所を有する会社である。Xは、Yとの間で勤務期間の定めのない雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。その後、Xは、Yの命令に従い甲国内にあるYの複数の支店において勤務した後、日本と乙国における営業を統括する東京支店への配置転換を命じられた。
設問1と設問2は、各々独立したものとして答えなさい。
〔設 問〕
1.Xは、東京支店において継続して勤務していたが、来日後6年が経過した時に、Yから理由を告げられることなく突然解雇された。そこで、Xは、Yによる解雇は日本の労働契約法(平成19年法律第128号)第16条の定める「権利を濫用したもの」であって無効であると主張して、Yに対して本件雇用契約上の地位確認と賃金の支払を求める訴えを、日本の裁判所に提起した。
XとYは、本件雇用契約を締結した際、「本契約から発生する一切の紛争については甲国の裁判所が専属的な管轄権を有し、かつ、本契約は甲国法により規律され解釈される」旨の書面による合意をしていた。
なお、甲国法は解雇・退職の自由を原則とし、甲国法上、使用者は勤務期間の定めのない雇用契約をいつでも何らの理由もなしに解約することができ、また、それに対して権利濫用を含む特段の法的規制もない。
⑴ Yは、甲国裁判所が専属的管轄権を有する旨の合意がある以上、日本の裁判所はXの訴えについて国際裁判管轄権を有していないと主張している。この主張の当否について論じなさい。
⑵ 国際裁判管轄権に関する合意がなく、かつ、Yの応訴がないとした場合に、民事訴訟法第3条の3に列挙されている管轄原因を除いて、日本の裁判所の国際裁判管轄権を基礎付ける原因は存在するか。
⑶ 本件雇用契約の準拠法が甲国法であるとした場合に、日本の労働契約法第16条の規定は適用され得るか。
2.Xは、Yの東京支店に配置転換後、日本と乙国の顧客に対する営業の責任者として好成績を上げていたが、来日後6年が経過した時にYを任意に退職した。Yは、Xが退職後に顧客を奪取することを懸念し、Xとの間で次の①から③の合意を含む競業避止特約(以下「特約」という。)を締結し、YはXに競業避止の代償として特別退職金を支払った。①「Xは、2年間、日本と乙国における同業他社には就職しない」、②「Xは、特約に違反した場合には、特別退職金を返還する」及び③「特約から発生する一切の紛争については、甲国又は日本の裁判所が管轄権を有する」。しかし、Xは、退職の約半年後、乙国に主たる営業所を有し、Yと競業関係にある会社Aの勧誘に応じて、Aと雇用契約を締結するに至った。Xは、Aの乙国営業所に勤務するため、乙国に住所を有している。
Yが、特約に基づき、Xに対して特別退職金の返還を求める訴えを日本の裁判所に提起した場合、日本の裁判所は国際裁判管轄権を有するか。前記③の管轄権に関する合意がなかった場合と対比して論じなさい。

出題趣旨

〔第1問〕
本問は、養子縁組の成立と効力並びに養子縁組後における親子間の法律関係及び扶養につき、準拠法の決定と適用を問うものである。
設問1の小問(1)は、養子縁組の成立につき、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第31条第1項前段の解釈・適用とこの規定により指定される養親となるべき者の本国法である日本法中の民法第795条の適用を問うている。さらに、この実質規定を適用する過程において通則法第4条第1項を特定し、この規定が指定する甲国法の下で養子となるべき者が未成年者であることに言及することも求めている。
設問1の小問(2)は、養子縁組の方式につき、通則法第34条の解釈・適用と各準拠法の適用を問うている。同条第2項の「行為地法に適合する方式」に言及しつつ、夫婦が同一の者を養子とする場合、同条第1項の「法律行為の成立」には、養父と養子との養子縁組及び養母と養子との養子縁組という二つの養子縁組の成立が包摂されることを認識していなければならない。
設問2の小問(1)は、養子縁組の成立により子が嫡出子としての身分を取得するか否かを決定する準拠法を特定し、その適用を問う問題である。養子縁組の直接的効力の問題として通則法第31条第1項前段を特定し、この規定により指定される養父と養母の各本国法により子の嫡出性を決定しなければならない。
設問2の小問(2)は、養子縁組成立後における子の親権につき、その準拠法の決定と適用を問うものである。通則法第32条に従い、連結基準の時間的変更の可能性を指摘しながら準拠法を特定し、適用しなければならない。
設問2の小問(3)は、養父が子の扶養義務者か否かを決定する準拠法の特定と適用を問うものである。通則法第43条に言及した後に扶養義務の準拠法に関する法律第2条を特定し、常居所地という連結素の意味に留意しながら、この規定の指定する準拠法を適用しなければならない。
〔第2問〕
本問は、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)第3条の4第2項にいわゆる個別労働関係民事紛争につき、労働者からの事業主に対する訴え及び事業主からの労働者に対する訴えについて、日本の裁判所が国際裁判管轄権を有するか否かを問うている。また、労働契約について労働者保護を目的とする強行規定の適用いかんも問うている。
設問1の小問(1)は、労働者からの事業主に対する訴えについて、外国の裁判所に専属的国際裁判管轄権を付与する契約締結時の合意は、民訴法第3条の7第1項及び第2項の要件を充足するものであっても、同条第6項の特則に従えば有効か否かを問うものである。
設問1の小問(2)は、労働者からの事業主に対する訴えについて、民訴法第3条の2第3項の定める管轄原因が日本にない場合であっても、同法第3条の4第2項が掲げる労務提供地が日本にあることを理由に、日本の裁判所は国際裁判管轄権を有するか否かを問うものである。
設問1の小問(3)は、外国法を契約準拠法とする通則法第7条の規定に従った合意があっても、同法第12条第1項及び第2項の規定に従い日本の労働契約法中の強行規定が適用されるか否かを問うている。
設問2は、事業主からの労働者に対する訴えにつき、労働契約終了の時に労務提供地であった日本の裁判所に管轄権を付与する旨を当事者が当該時点で合意していた場合とそれ以外の場合とを対比し、それぞれの場合につき、日本の裁判所が国際裁判管轄権を有するか否かを問うている。前者の場合には民訴法第3条の7第6項の解釈・適用が、後者の場合には同法第3条の4第3項の解釈・適用が示されなければならない。

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