〔第1問〕(配点:50)
甲国人夫A及び甲国人妻Bは、20年前に来日し、以後、日本において生活をしていた。Aは、来日後しばらくして知り合った甲国人女性との間に子Xをもうけたが、Xを認知していなかった。
Xが出生以来日本において生活をしている甲国人であるとして、以下の設問に答えなさい。
なお、甲国法は、日本の後見及び保佐に相当する制度を有するほか、次の①から③の趣旨の規定を有している。
① 子は、父の死亡を知った日から2年以内に限り、検察官を被告として認知の訴えを提起することができる。
② 認知をするには、父が被後見人であるときであっても、その後見人の同意を要しない。
③ 夫婦の一方が被後見人となったときは、他の一方はその後見人となる。
〔設 問〕
1.Aは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況に陥った。本設問1との関係では甲国の国際私法からの反致はないものとして、次の問いに答えなさい。
⑴ Bの請求により、日本の裁判所がAにつき後見開始の審判をする場合、いかなる国の法を準拠法とすべきか。
⑵ Aにつき後見開始の審判をした場合、日本の裁判所は、いかなる国の法を準拠法としてBを後見人として選任することができるか。
⑶ 日本の裁判所がAの後見人としてBを選任した場合、AによるXの任意認知につき後見人Bの同意は必要か。
2.Aは、その後、Xを認知することなく死亡し、Xは、Aの死亡を直ちに知った。Xは、Aの死亡後2年6月を経過した時に、検察官を被告として日本の裁判所に認知の訴えを提起した。甲国の国際私法P条が、「父による子の認知は、出生当時の父の本国法、認知の当時における父の本国法又は子の本国法若しくはその常居所地法による。父が認知前に死亡したときは、その死亡の当時におけるその本国法を父の本国法とする。」と規定しているとすると、この訴えは適法か。
〔第2問〕(配点:50)
Yは、甲国に主たる営業所を有する甲国の会社である。Yは、インターネット上に法人及び個人顧客向けに英語のほかに日本語表記のウェブサイト(以下「本件サイト」という。) を開設し, 本件サイトを通じて日本及びその他の国において自社製品であるG等の購入の問合せ及び購入ができるようにしている。Yは、日本の弁護士を日本における代表者として定めて外国会社としての登記をし、本件サイトを通じた継続的な取引を行っているが、日本には営業所や財産を一切有していないものとして、以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.Xは、日本に主たる営業所を有する日本の会社である。Xは、本件サイトからGの購入の問合せをし、Yの主たる営業所から日本に派遣された担当者と交渉の上、Yと東京において売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。Xは、Gを受領してYに代金を支払ったが、Gに瑕疵があったため、損害を被った。Xは、Yに対して債務不履行を理由として損害賠償を求める訴えを日本の裁判所に提起した。甲国は、国際物品売買契約に関する国際連合条約(平成20年条約第8号。以下「条約」という。) の締約国ではないとして、次の問いに答えなさい。
⑴ XとYとの間には裁判管轄に関する合意はなく、民事訴訟法第3条の3第1号に掲げる管轄原因が日本にないとした場合に、この訴えに関して日本の裁判所の国際裁判管轄権を基礎付ける事由はあるか。
⑵ 法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)によれば、本件売買契約の準拠法が日本法となるとすると、日本の裁判所は、Xの請求につき条約を適用することができるか。
2.日本に常居所を有する個人Zは、自宅のパソコンを使って私用のために本件サイトの個人顧客向けページを通じてGを購入する意図で注文を送信して代金を支払った。ところが、本件サイトでは注文の送信前に申込内容の確認を行う措置が講じられておらず、そのため、Zは、申込内容を確認できないままGと類似した別の商品Hの注文を送信してしまっていた。その結果、YからHがZ宅に送られてきた。
日本法には、事業者のウェブサイトにおいて消費者の意思表示の際にその内容を確認する措置が講じられていない限り、当該ウェブサイトを通じて締結された電子消費者契約の消費者の意思表示に民法第95条の要素の錯誤があった場合に、消費者に同条ただし書の重大な過失はないものと扱うP法Q条の強行規定がある。他方、甲国法には、日本の民法第95条と同様の内容の要素の錯誤に関する規定はあるが、上記のような電子消費者契約の特則に係る規定はない。本件サイト上には「商品の購入に関するお客様と弊社Yとの間に起きるあらゆる紛争については、甲国の国内法がこれに適用されることに同意していただいたものとします。」との表示があり、この表示に基づきZとYが甲国法を準拠法として合意していたとすると、日本の裁判所は、ZがYに支払った代金の返還をめぐる争いについてP法Q条を適用することができるか。
出題趣旨
〔第1問〕
本問は、後見開始の審判及び後見人選任の準拠法の決定並びに被後見人による認知に対する後見人の同意に適用される準拠法の決定と適用を問うものである。さらに、死後認知の準拠法の決定について、いわゆる選択的連結と反致に関する論述も求めている。
設問1の小問(1)は、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第5条の解釈・適用を問うものである。
設問1の小問(2)は、外国人を被後見人として日本の裁判所が後見開始の審判をした場合に、後見人の選任の準拠法が何かを問う問題であり、通則法第35条第2項第2号を特定しなければならない。
設問1の小問(3)は、被後見人が認知者として任意認知をする場合に、その後見人の同意の要否の問題に適用される準拠法の決定と適用を問うている。認知の問題として性質決定した上で、通則法第29条第1項前段と同条第2項前段との関係を明らかにして、準拠法を決定しなければならない。
設問2については、まず、死後認知の出訴期間が認知の準拠法によるべき問題であるとの前提の下に、通則法第29条第1項前段の規定の他に通則法第29条第3項の規定と結合して理解される同条第2項前段の規定が適用され得ることを指摘しなければならない。これらの規定に従えば選択的な関係にある連結基準がいずれも外国法を本国法として指示していることを確認した後に、当該外国の国際私法規定によると日本法が指定され得ることから、通則法第41条に従った反致の可能性について論ずることが求められている。
〔第2問〕
本問は、インターネットを利用して継続的に日本において事業を行う外国会社が書面によって締結した契約から発生した紛争について、国際裁判管轄権の有無と国際物品売買契約に関する国際連合条約(以下「条約」という。)の適用可能性を問うている。さらに、オンラインで締結されかつ消費者を一方当事者とする契約について消費者保護を目的とする強行規定の適用いかんも問うている。
設問1の小問(1)は、民事訴訟法第3条の2第3項等の規定する管轄原因が無いことを確認した上で、同法第3条の3第5号の規定の下で日本の裁判所が国際裁判管轄権を有しているか否かを問うている。
設問1の小問(2)では、通則法に従い日本法が準拠法として選択されていること等、条約が適用される条件を指摘しながら、設例との関連で条約の適用可能性に言及しなければならない。
設問2は、インターネット上で締結された消費者契約について、消費者に要素の錯誤があったことにつきその重過失の不存在を定める強行規定が消費者の常居所地法の中にあった場合に、この規定が適用されるべき条件を問うている。通則法第11条第1項又は第3項の規定を特定し、その丁寧な適用が求められている。当該規定の適用を除外する同条第6項各号に掲げられている事由のないことも確認しなければならない。