建設会社Aは、B県C市内に所在するA所有地(以下「本件土地」という。)において、鉄筋コンクリート造、地上9階、地下2階で、住戸100戸のほか、135台収容の地下駐車場を備えるマンション(以下「本件建築物」という。)の建築を計画した。本件建築物は、高さ30メートル、敷地面積5988平方メートル、建築面積3321平方メートル、延べ面積2万1643平方メートルである。
本件土地は、都市計画法上の第二種中高層住居専用地域に位置している。Aは、平成20年7月23日、本件土地の周辺住民からの申出に基づき、本件建築物の建築計画に関する説明会を開催した。本件土地の周辺住民で構成する「D地域の生活環境を守る会」は、B県建築主事E(C市には建築主事が置かれていない。)に対し、同年9月26日付け申入書をもって、周辺住民とAとの協議が整うまで、Aに対し、本件建築物に係る建築計画について建築基準法第6条第1項に基づく確認をしないこと、また、同計画については、建築基準法等に違反している疑いがあり、周辺住民の反対も強いので、公聴会を開催することを求める申入れをした。
その後、Aと周辺住民の間で何度か協議が行われたが、話合いはまとまらなかった。同年12月12日、Aは、Eに対し、建築基準法第6条第1項により建築確認の申請を行った。Eは、公聴会を開催することなく、Aに対し、平成21年1月8日付けで建築確認(以下「本件確認」という。)をした。
本件土地の周辺住民であるF、G、H、Iの4名(以下「Fら」という。)は、同年1月22日、B県建築審査会に対し、本件確認の取消しを求める審査請求をしたが、同年4月8日、B県建築審査会は、これを棄却する裁決を行った。
そこで、Fらは、訴訟の提起を決意し、同年4月14日、弁護士Jの事務所を訪問して、同事務所に所属する弁護士Kと面談した。これを受けて、同月下旬、本件に関し、弁護士Jと弁護士Kが会議を行った。
【資料1 法律事務所の会議録】を読んだ上で、弁護士Kの立場に立って、弁護士Jの指示に応じ、設問に答えなさい。
なお、本件土地等の位置関係は【資料2 説明図】に示してあり、また、建築基準法、B県建築安全条例、B県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(以下「本件紛争予防条例」という。)の抜粋は、【資料3 関係法令】に掲げてあるので、適宜参照しなさい。
〔設 問〕
1.Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)を挙げた上で、それを用いる場合の行政事件訴訟法上の問題点を中心に論じなさい。
2.考え得る本件確認の違法事由について詳細に検討し、当該違法事由の主張が認められ得るかを論じなさい。また、原告Fがいかなる違法事由を主張できるかを論じなさい。
【資料1 法律事務所の会議録】
弁護士J:本日はFらの案件について基本的な処理方針を議論したいと思います。Fらは、本件建築物が違法であると主張しているようですが、その理由はどのようなものですか。
弁護士K:本件土地は、幅員6メートルの道路(以下「本件道路」という。)に約30メートルにわたって接しているのですが、Fらは、本件建築物のような大きなマンションを建築する場合、この程度の道路では道路幅が不十分だと主張しています。また、本件道路が公道に接する部分にゲート施設として遮断機が設置されているため、遮断機が下りた状態では車の通行が不可能であり、遮断機を上げた状態でも実際に車が通行できる道路幅は3メートル弱しかないそうです。さらに、Aの説明では、遮断機の横にインターホンが設置されており、非常時には遮断機の設置者であるL神社の事務所に連絡して遮断機を上げることができるそうですが、Fらは、常に連絡が取れて遮断機を上げることができるか心配であると話しています。つまり、火災時などに消防車等が進入することが困難で、防災上問題があると述べております。
弁護士J:どうして、道路に遮断機が設置されているのですか。
弁護士K:本件道路は、L神社の参道なのですが、B県知事から幅員6メートルの道路として位置指定を受けており、いわゆる位置指定道路に当たるそうです。L神社では、参道への違法駐車が後を絶たないことから、本件道路が公道に接する部分に遮断機を設置しているとのことです。
弁護士J:なるほど、位置指定道路ですか。宅地造成等の際に、新たに開発される敷地予定地が接道義務を満たすようにするため、位置の指定を受けた私道を建築基準法上の道路として扱う制度ですね(建築基準法第42条第1項第5号)。まず、本件土地については、幅員がどれだけの道路に、どれだけの長さが接していなければならないか調べてください。その上で、本件道路との関係で、本件建築物の建築に違法な点がないかを検討してください。
弁護士K:分かりました。このほか、本件建築物の地下駐車場出入口から約10メートルのところに、市立図書館(以下「本件図書館」という。)に設置されている児童室(以下「本件児童室」という。)の専用出入口があります。Fらは、地下駐車場の収容台数が135台とかなり大規模なものなので、本件児童室を利用する子供の安全性に問題がある、と主張しています。
弁護士J:本件児童室は一体どのようなものですか。
弁護士K:本件図書館内にあって、児童関係の図書を一箇所に集め、一般の利用者とは別に閲覧場所等を設けたもので、児童用の座席が10人分程度用意されています。本件児童室には、本件図書館の出入口とは別に、先ほど触れた専用出入口が設けられ、専用出入口は午後5時に閉鎖されますが、本件図書館の他の部分とは内部の出入口でつながっており、本件図書館の利用者はだれでも自由に行き来できるようです。本件児童室内には、児童用のサンダルが置かれたトイレがあり、また、幼児の遊び場コーナーがあるなど、児童の利用しやすい設備が整っています。本件図書館は、総床面積3440平方メートル、地下1階、地上4階ですが、本件児童室は、1階部分のうち約100平方メートルを占めています。
弁護士J:なるほど。本件児童室との関係で、本件建築物の建築に違法な点がないかを検討してください。確認ですが、本件建築物は、容積率、高さ、建ぺい率の点では法令に合致しているのですね。
弁護士K:はい、そのようです。
弁護士J:Fらの主張はそれだけですか。
弁護士K:Aは、本件建築物の建築について一応説明会を開催したのですが、情報の開示が不十分で、住民に質問の機会を与えず、一方的に終了を宣言するなど、形ばかりのものだったそうです。
弁護士J:そもそもAには説明会の開催義務があるのですか。
弁護士K:本件紛争予防条例には、説明会の開催についての規定があり、Fらは、Aの行為は条例違反に当たると主張しております。
弁護士J:そうですか。本件において当該条例違反が認められるか、仮に認められるとして、それが本件確認との関係でどのような意味を持つのか、それぞれについて検討してください。
弁護士K:分かりました。最後になりますが、Fらは、本件確認を行う際には、公聴会を開催する必要があったにもかかわらず、建築主事Eはこれを行っていない、という点も強調しておりました。
弁護士J:なるほど。それでは、以上のFらの主張について、その当否も含めて検討しておいてください。
弁護士K:はい、分かりました。
弁護士J:次に、訴訟手段についてですが、本件建築物の建築を阻止するためには、どのような方法が考えられるか検討してください。建築基準法第9条第1項に基づく措置命令をめぐる行政訴訟も考えられますが、これについては後日議論することとして、今回は検討の対象から外してください。また、検査済証の交付を争っても建築の阻止には役立ちませんから、これも除外してください。
弁護士K:了解しました。それでは、本件確認を争う手段を検討してみます。
弁護士J:本件確認が処分に当たることは疑いありませんし、審査請求も既に行われています。出訴期間も現時点では問題ないようですね。訴訟を提起するとして、Fらは本件建築物とどのような関係にあるのですか。
弁護士K:Fは、本件土地から10メートルの地点にあるマンションの一室に居住しています。Gは、Fの居住するマンションの所有者ですが、そこには住んでおりません。したがって、FとGは、本件建築物から至近距離に居住するか、建築物を所有しているといえます。
弁護士J:HとIはどうですか。
弁護士K:Hは、小学2年生で、本件児童室に毎週通っており、Iはその父親です。二人は、本件土地から500メートル離れたマンションに住んでいます。
弁護士J:そうですか。全員が訴訟を提起する資格があるのか、ここは今回の案件で特に重要だと思いますので、個別具体的に丁寧に検討してください。
弁護士K:はい、分かりました。
弁護士J:訴訟を適法に提起できるとして、自らの法律上の利益との関係で、本案においていかなる違法事由を主張できるのでしょうか。まず、Fについて検討してみてください。
弁護士K:分かりました。
弁護士J:建築工事の進ちょく状況はどうですか。
弁護士K:急ピッチで進められており、この調子でいくと、余り遠くない時期に完成に至りそうです。
弁護士J:Fらが望んでいるのは建築を阻止することですし、本件建築物が完成してしまうと訴訟手続上不利になる可能性もありますね。本件建築物が完成した場合、どのような法的問題が生じるかを整理した上で、訴訟係属中の工事の進行を止めるための法的手段について、それが認容される見込みがあるかどうかも含めて検討してください。
弁護士K:そうですね。よく調べてみます。

【資料3 関係法令】
○ 建築基準法(昭和25年5月24日法律第201号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(用語の定義)
第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一~九 (略)
九の二 耐火建築物 次に掲げる基準に適合する建築物をいう。
イ その主要構造部が(1)又は(2)のいずれかに該当すること。
(1) 耐火構造であること。
(2) 次に掲げる性能(外壁以外の主要構造部にあつては、(ⅰ)に掲げる性能に限る。)に関して政令で定める技術的基準に適合するものであること。
(ⅰ) 当該建築物の構造、建築設備及び用途に応じて屋内において発生が予測される火災による火熱に当該火災が終了するまで耐えること。
(ⅱ) 当該建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱に当該火災が終了するまで耐えること。
ロ (略)
九の三~三十五 (略)
(建築物の建築等に関する申請及び確認)
第6条 建築主は、第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第4号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(以下略)
一~四 (略)
2、3 (略)
4 建築主事は、第1項の申請書を受理した場合においては、同項第1号から第3号までに係るものにあつてはその受理した日から35日以内に、同項第4号に係るものにあつてはその受理した日から7日以内に、申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し、審査の結果に基づいて建築基準関係規定に適合することを確認したときは、当該申請者に確認済証を交付しなければならない。
5~15 (略)
(建築物に関する完了検査)
第7条 建築主は、第6条第1項の規定による工事を完了したときは、国土交通省令で定めるところにより、建築主事の検査を申請しなければならない。
2、3 (略)
4 建築主事が第1項の規定による申請を受理した場合においては、建築主事又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の職員(以下この章において「建築主事等」という。)は、その申請を受理した日から7日以内に、当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査しなければならない。
5 建築主事等は、前項の規定による検査をした場合において、当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは、国土交通省令で定めるところにより、当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない。
(違反建築物に対する措置)
第9条 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。
2~15 (略)
(大規模の建築物の主要構造部)
第21条 高さが13メートル又は軒の高さが9メートルを超える建築物(その主要構造部(床、屋根及び階段を除く。)の政令で定める部分の全部又は一部に木材、プラスチックその他の可燃材料を用いたものに限る。)は、第2条第9号の2イに掲げる基準に適合するものとしなければならない。ただし、構造方法、主要構造部の防火の措置その他の事項について防火上必要な政令で定める技術的基準に適合する建築物(政令で定める用途に供するものを除く。)は、この限りでない。2 延べ面積が3000平方メートルを超える建築物(その主要構造部(床、屋根及び階段を除く。)の前項の政令で定める部分の全部又は一部に木材、プラスチックその他の可燃材料を用いたものに限る。)は、第2条第9号の2イに掲げる基準に適合するものとしなければならない。
(道路の定義)
第42条 この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員4メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、6メートル。次項及び第3項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。
一 道路法(昭和27年法律第180号)による道路
二~四 (略)
五 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法(中略)によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの
2~6 (略)
(敷地等と道路との関係)
第43条 建築物の敷地は、道路(中略)に2メートル以上接しなければならない。(以下略)
一、二 (略)
2 地方公共団体は、特殊建築物、階数が3以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(中略)が1000平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。
(容積率)
第52条 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値以下でなければならない。(以下略)
一 (略)
二 第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内の建築物又は第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域若しくは準工業地域内の建築物(中略) 10分の10、10分の15、10分の20、10分の30、10分の40又は10分の50のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
三~六 (略)
2~15 (略)
(建築物の各部分の高さ)
第56条 建築物の各部分の高さは、次に掲げるもの以下としなければならない。
一、二 (略)
三 第一種低層住居専用地域若しくは第二種低層住居専用地域内又は第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域(中略)内においては、当該部分から前面道路の反対側の境界線又は隣地境界線までの真北方向の水平距離に1.25を乗じて得たものに、第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内の建築物にあつては5メートルを、第一種中高層住居専用地域又は第二種中高層住居専用地域内の建築物にあつては10メートルを加えたもの
2~7 (略)
○ B県建築安全条例(昭和25年B県条例第11号)(抜粋)
(趣旨)
第1条 建築基準法(以下「法」という。)(中略)第43条第2項による建築物の敷地及び建築物と道路との関係についての制限の付加(中略)については、この条例の定めるところによる。
(建築物の敷地と道路との関係)
第4条 延べ面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合は、その延べ面積の合計とする。)が1000平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて、次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。
延べ面積 長さ
1000平方メートルを超え、2000平方メートル以下のもの 6メートル
2000平方メートルを超え、3000平方メートル以下のもの 8メートル
3000平方メートルを超えるもの 10メートル
2 延べ面積が3000平方メートルを超え、かつ、建築物の高さが15メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については、同項中「道路」とあるのは、「幅員6メートル以上の道路」とする。
3 前二項の規定は、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては、適用しない。
(敷地から道路への自動車の出入口)
第27条 自動車車庫等の用途に供する建築物の敷地には、自動車の出入口を次に掲げる道路のいずれかに面して設けてはならない。ただし、交通の安全上支障がない場合は、第5号を除き、この限りでない。
一 道路の交差点若しくは曲がり角、横断歩道又は横断歩道橋(地下横断歩道を含む。)の昇降口から5メートル以内の道路13 –
二 勾配が8分の1を超える道路
三 道路上に設ける電車停留場、安全地帯、橋詰め又は踏切から10メートル以内の道路
四 児童公園、小学校、幼稚園、盲学校、ろう学校、養護学校、児童福祉施設、老人ホームその他これらに類するものの出入口から20メートル以内の道路
五 前各号に掲げるもののほか、知事が交通上支障があると認めて指定した道路
○ B県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(昭和53年B県条例第64号)
(抜粋)
(目的)
第1条 この条例は、中高層建築物の建築に係る計画の事前公開並びに紛争のあつせん及び調停に関し必要な事項を定めることにより、良好な近隣関係を保持し、もつて地域における健全な生活環境の維持及び向上に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 中高層建築物 高さが10メートルを超える建築物(第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域(都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項第1号に掲げる第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域をいう。)にあつては、軒の高さが7メートルを超える建築物又は地階を除く階数が3以上の建築物)をいう。
二 紛争 中高層建築物の建築に伴つて生ずる日照、通風及び採光の阻害、風害、電波障害等並びに工事中の騒音、振動等の周辺の生活環境に及ぼす影響に関する近隣関係住民と建築主との間の紛争をいう。
三 建築主 中高層建築物に関する工事の請負契約の注文者又は請負契約によらないで自らその工事をする者をいう。
四 近隣関係住民 次のイ又はロに掲げる者をいう。
イ 中高層建築物の敷地境界線からその高さの2倍の水平距離の範囲内にある土地又は建築物に関して権利を有する者及び当該範囲内に居住する者
ロ 中高層建築物による電波障害の影響を著しく受けると認められる者
(知事の責務)
第3条 知事は、紛争を未然に防止するよう努めるとともに、紛争が生じたときは、迅速かつ適正に調整するよう努めなければならない。
(当事者の責務)
第4条 建築主は、紛争を未然に防止するため、中高層建築物の建築を計画するに当たつては、周辺の生活環境に及ぼす影響に十分配慮するとともに、良好な近隣関係を損なわないよう努めなければならない。
2 建築主及び近隣関係住民は、紛争が生じたときは、相互の立場を尊重し、互譲の精神をもつて、自主的に解決するよう努めなければならない。
(説明会の開催等)
第6条 建築主は、中高層建築物を建築しようとする場合において、近隣関係住民からの申出があつたときは、建築に係る計画の内容について、説明会等の方法により、近隣関係住民に説明しなければならない。
2 知事は、必要があると認めるときは、建築主に対し、前項の規定により行つた説明会等の内容について報告を求めることができる。
出題趣旨
本問は、建築主事がマンションの建築確認を行ったのに対し、当該マンションの建築に反対する周辺住民Fらが採るべき救済手段について論じさせるものである。問題文と資料から基本的な事実関係を把握し、建築基準法や関連条例の趣旨を読み解いた上で、採るべき救済手段の訴訟要件等を検討するとともに、本案における違法事由を論じる力を試すものである。/
設問1は、建築確認に基づく建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)に関して、基本的な理解を問う問題である。資料1において、措置命令や検査済証交付をめぐる行政訴訟は検討の対象から除外されているので、本件確認の取消訴訟を論じることが考えられる。さらに、資料1では、本件確認の処分性、審査請求前置、出訴期間には問題がないとされているので 主として原告適格と狭義の訴えの利益を検討すべきことになる原告適格については、行政事件訴訟法の条文と判例を踏まえ、いかなる判断枠組みにより、いかなる点に着目して判断すべきかを明らかにした上で、建築基準法及び関連条例の趣旨目的や、本件においてFらが主張する利益の内容性質に即して、原告適格の有無を論じることが必要である。取り分け、本件では、Fが本件土地から至近距離にあるマンションに居住し、Gが当該マンションを所有し、Hが本件児童室に毎週通っており、Iがその父親であるなど、それぞれ法的地位が異なっていることから、個別具体的に検討を加えることが求められる。
狭義の訴えの利益については、資料1の指示に従い、建築物が完成した場合の問題点を検討することが要求されている。判例を踏まえた上で説得力のある立論を行うことが期待される。仮の救済措置としては、本件確認の執行停止が考えられる。行政事件訴訟法に定める要件の該当性について、本件事案でFらが主張し得る利益に即し、「重大な損害」の要件を中心に、具体的に論じることが必要である。
設問2は、上記法的手段の本案で主張すべき本件確認の適法性を検討させる問題であり、実体上及び手続上の違法事由が考えられる。
実体上の違法事由として、まず、接道義務違反が問題となる。建築基準法及び本件建築安全条例から、本件建築物についていかなる内容の接道義務が課せられているかを読み取った上で本件道路がこの要件を満たしているかを検討しなければならない。特に、本件道路に遮断ゲートが設置されている点について、接道義務が設けられている趣旨に照らし、適切な解釈を行うことが求められる。
次に、本件建築物の地下駐車場と本件児童室の出入口間の距離が問題となる。本件建築安全条例によっていかなる規制がなされているかを指摘した上で、その趣旨に照らし、本件児童室が規制対象に当たるかを論じなければならない。
手続面では、本件紛争防止条例に定める説明会の開催と、行政手続法に定める公聴会の開催が問題となる。それぞれの根拠規定の趣旨を明らかにした上で、本件において義務違反があると認められるか、認められるとして、それが本件確認にいかなる意味を持つかを検討することが必要である。
最後に、本問では、Fが以上の違法事由をすべて主張できるか検討することも求められている。行政事件訴訟法の条文を踏まえ、違法事由ごとに検討を加える必要がある。
答案作成手順
第1 設問1
1 法的手段
(1)本件確認(建築基準法6条1項)の取消訴訟
本件建築物の建築を止めるために、Fらは本件確認の取消訴訟を提起する法的手段が考えられる(行訴法3条2項)。
(2)執行停止
本件確認の取消訴訟を提起しただけでは、その効力は停止しない(行訴法25条1項)ため、同時に執行停止の申立てをすべきである(同条2項)。
2 取消訴訟
(1)原告適格
ア.訴訟を提起するために、Fらに原告適格(行訴法9条)があるかが問題として残る。
イ.原告適格を有するには「法律上の利益」が必要である。「法律上の利益」とは、処分の根拠となる法律及び関連法規が直接保護すべきとする個人的利益をいう。
(2)関係法令
ア.「B県建築安全条例」(以下、「安全条例」という。)は、建築基準法(以下、「法」という。)43条2項の委任を受けて制定されており、法の関係法令といえる。
イ.本件紛争予防条例(以下、「紛争予防条例」という。)は、良好な近隣関係の保持と健全な生活環境の維持向上が目的であるから、建築物から生じる国民の生命、健康及び財産の保護を図ることを目的とする法とは目的を同じくする。よって、法の関係法令といえる。
(3)「法律上の利益を有する者」
ア.Fは、本件土地から10メートルのマンションに居住しているため、本件建物の火災や倒壊によって自己の生命、身体や財産が直接侵害されるおそれがある。よって、Fには原告適格がある。
イ.Gは、F居住マンションの所有者であるため、当該マンションの財産権を侵害されるおそれがある。よって、Gは原告適格がある。
ウ.Hは、本件児童室を利用しており、その専用出入口が本件建築物の地下駐車場出入口から約10メートル地点にあるため、収容台数135台の利用状況を考えるとHら利用児童の安全に問題がある。よって、Hは原告適格がある。
エ.IはHの父親であり、2人の居住地が本件土地から500メートル離れているため、Hの送迎で本件児童室に通うことはあるかもしれないが、安全条例27条4号は交通弱者を対象にした措置であるため、Iは対象外であり、原告適格があるとはいえない。
第2 設問2
1 実態上の違法事由
(1)接道義務違反
(2)地下駐車場の規制違反
2 手続上の違法事由
(1)説明会の開催義務違反
3 Fが主張できる違法事由
(1)接道義務違反
(2)地下駐車場の規制違反
(3)説明会の開催義務違反