〔第1問〕(配点:50)
日本に常居所を有する60歳の甲国人男Aは、事理を弁識する能力を欠く常況にあったため、日本の裁判所により後見開始の審判を受け、嫡出子である甲国人Xが、Aの後見人として選任された。
Aには認知をしていなかった甲国人の非嫡出子Yがいた。一時的に事理を弁識する能力を回復したAは、日本において、遺言書に「Yを自己の子として認知する。」旨、日付及び氏名を自署し、これに押印した。遺言書作成に当たっては、医師1名が立ち会い、Aに事理を弁識する能力のあることを確認する旨を遺言書に付記し、署名押印している。その後、Aは、日本国籍を取得し、日本において死亡した。Yは、日本において、Aの遺産の分割をXに対して求めている。
この事例について、甲国の国際私法からの反致はないものとして、以下の設問に答えなさい。
なお、設問の各問いは、いずれも独立したものである。また、甲国の民法は、その要件・効果とも、日本の民法が定める後見制度と同視することができる後見制度を有しており、認知と遺言については次の規定があること及び本件事例には法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)が適用されることを前提とする。
【甲国の民法】
第P条 父が被後見人であるときは、後見人の同意を得て認知をすることができる。
第Q条 認知は、遺言によっても、することができる。
第R条 認知には、子の承諾を要しない。
第S条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押さなければならない。
第T条 被後見人は、その事理を弁識する能力が回復したときに限り、遺言をすることができる。
2 前項の場合には、医師1名以上が事理を弁識する能力のあることを遺言書に付記し、署名押印しなければならない。
第U条 遺言は、遺言者の死亡した時からその効力を生ずる。
〔設 問〕
1. Aは遺言能力を有しているか。
2. Aの遺言は方式に関して有効に成立しているか。
3. Aの遺言が有効に成立しているとした場合、Yの認知は有効に成立しているか。
なお、A死亡の時点においてYは20歳であり、Xは、AによるYの認知を容認しない態度をとっているとする。
〔第2問〕(配点:50)
日本のX会社は、乙国のA会社から所定の大きさの箱に詰めた冷凍エビを輸入することとし、Aとの間で、「Xが船舶の手配をし、運送賃を支払う。Aが冷凍エビを詰めた約定の数量の箱を乙国の港で運送人に引き渡すことによって商品の引渡しとする。売買代金はXが日本の銀行に開設する信用状による決済とする。」旨の約定で契約した。その後、Xは、海上運送業者Y会社に乙国の港から日本の港までの海上運送を依頼し、Aは、Yが提供した冷凍貨物用のコンテナー1個に自ら冷凍エビを詰めた約定の数の箱を積み込んで施錠し、運送中の温度管理についてYに指示をして、当該コンテナーを乙国の港にあるYのコンテナー・ヤードで引き渡した。
Yがコンテナーの船積後にAに交付した船荷証券上の運送品の種類、運送品の容積、重量、包・個品の数、運送品の記号を記載する欄には、当該コンテナーを特定する記号及び番号の記載と、その内容は冷凍エビを詰めた一定数の箱であるとの記載がある。
日本の港での陸揚後、Xが、船荷証券を呈示してYからコンテナーの引渡しを受け、直ちにその中を検査したところ、コンテナー内の温度が適当でなかったため、冷凍エビの鮮度が落ちており、Xは当該冷凍エビを市価の3割程度で売却せざるを得なかった。そこで、Xは、コンテナーの受取から引渡しまでの間のYの措置が適切でなかったとして、Yに対する損害賠償請求の訴えを日本の裁判所に提起した。
この事例について、以下の設問に答えなさい。
なお、設問の各問いは、いずれも独立したものである。また、この事例及び設問における日本の会社、乙国の会社、丙国の会社とは、それぞれ、日本、乙国、丙国で設立され、設立された国に主たる営業所を有する会社をいうものとする。
〔設 問〕
1. Yが丙国の会社であるとし、YがAに交付した船荷証券には「本件運送契約から生ずる運送人の責任についての争いは、Yの主たる営業所の所在地である丙国のM市の裁判所においてのみ解決する。」との条項が記載されているものとする。
Yは、この条項に基づいて、日本の裁判所は本件訴訟について管轄権を有しないと主張している。これに対して、Xは、この条項はXとYの双方が署名した書面によるものではないとの理由で、本件訴訟については丙国の裁判所には管轄権がなく、日本の裁判所に管轄権があると主張している。
このYの主張は認められるか。
なお、丙国では、被告の住所又は主たる営業所の所在地の裁判所は被告に対する訴えについて管轄権を有するとしている。また、日本と丙国は、いずれも、「1968年2月23日の議定書によって改正された1924年8月25日の船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約を改正する議定書」の締約国である。
2. Yが日本の会社であり、YがAに交付した船荷証券には「本件運送契約から生ずる運送人の責任についての争いは、日本のN市の裁判所において、日本法によって解決する。」との条項が記載されているものとする。
⑴ XがYに対して冷凍エビの商品価値の下落についての損害賠償責任を追及することができるのは、どのような場合か。
⑵ XがYに対して損害賠償責任を追及することができるとした場合、冷凍エビに関する損害賠償の金額は、どのようにして算定されるか。

出題趣旨

〔第1問〕
本問は、遺言能力、遺言の方式及び遺言による認知という、家族法上の基本的事項についての準拠法の理解を問う問題である。
設問1は、成年被後見人の遺言能力の有無を問うものである。遺言能力の準拠法を定める規定は法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第4条、第5条か、第37条か、同条の「遺言の成立当時」とはいかなる時点かを検討して準拠法を決定し、実質法の本件事案へのあてはめの結果を説明することが求められている。
設問2は、遺言の方式の有効性を問うものである。まず、遺言は、遺言の方式の準拠法に関する法律(以下「方式法」という。)第2条が掲げるいずれかの法の定める要件に合致しているときは方式上有効とされること、方式法第5条の規定により、遺言の際の証人の立会いや、被後見人が遺言能力を回復している時に遺言がされたことの証明の方式も「遺言の方式」の中に含まれることを指摘し、その上で、本件事案への方式法第2条の適用の結果を丁寧に述べ、本件遺言は日本民法の要求する方式は満たしていないが、甲国民法が要求する方式は満たしていることを説明する必要がある。そして、証人を1名で足りるとしている甲国民法第T条第2項の規定の適用が方式法第8条の「明らかに公の秩序に反するとき」に該当する
かどうかを検討することになる。

設問3は、本件遺言による認知の有効性を問うものである。認知の有効性を定める規定は通則法第37条か、第29条か、同条第1項後段及び第2項前段の「認知の当時」とはいかなる時点か、甲国民法第P条が要求する後見人の同意は通則法第29条第1項後段の「第三者の承諾又は同意」に該当するか、準拠実質法上Yが本件遺言を承諾しているかを検討することが求められている。
〔第2問〕
本問は、貿易取引における荷為替の知識を前提にして、船荷証券中の裁判管轄条項の有効性と、運送品の損傷による運送人の責任について問う問題である。
設問1は、我が国において渉外的民事訴訟事件についての国際裁判管轄権はどのような基準によって判断すべきか、運送人の主たる営業所所在地の裁判所の専属的管轄とする船荷証券中の裁判管轄条項はいかなる場合に有効とされるかを問うものである。本件設例と類似の事案について外国の裁判所を管轄裁判所とする船荷証券中の専属的管轄条項の有効性について判示した最高裁判所の判決(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1554頁)を踏まえつつ、国際裁判管轄の合意における当事者双方の署名の必要性についての論述を中心に、いかなる場合に専属的裁判管轄の合意が有効とされるか、本件において丙国に専属的国際裁判管轄権を認めて我が国の裁判管轄権を否定することが我が国の公序に反しないか等についても論ずることが求められている。
設問2は、運送品に損傷が生じた場合における運送人の損害賠償責任について問うものである。その小問(1)においては、船荷証券中に、運送人の主たる営業所の所在地である我が国の裁判所の管轄を合意した条項と日本法によって解決する旨の条項がある場合に、我が国においては本契約の準拠法が日本法になり、国際海上物品運送法が適用されることを説明した上で、荷受人による運送品の検査の結果についての通知、運送人の注意義務とそれについての証明責任について、どのような規定が適用され、本件におけるその適用結果がどのようになるのかの論述が求められている。また、小問(2)においては、損害賠償額の算定についてどのような規定が適用され、その適用結果がどのようになるのかの論述が求められている。

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