13歳未満の子供の親権者が請求した場合には、国は、子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者で、請求者の居住する市町村内に住むものの氏名、住所及び顔写真を、請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定されたとする。この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。
出題趣旨
前科に関する情報を公表されない個人の利益と子供の安全のためにその情報を得る利益が対抗関係に立つような法律が成立したと仮定して、当該法律の憲法上の問題点につき、それぞれの利益の性質やその重要性等を踏まえながら、その立法目的や具体的な利益調整手段の在り方を論理的に思考する能力を問うものである。
答案作成手順
1 一定の性的犯罪常習者の氏名、住所及び顔写真を、国が一定の請求者に開示しなければならないとする法律が制定された場合、当該法律は違憲ではないかが問題になる。
2 性犯罪の犯歴、氏名、住所及び顔写真は、個人情報として重要なものであり、プライバシー権として憲法上保障されている(憲法13条)。
3 違憲審査基準
(1)性犯罪の常習者は、犯罪を繰り返す傾向が高く、再犯防止が困難な状況にあることから、社会的に大きな問題である。特に13歳未満の子供は、性犯罪に対する自己防衛策を講じにくいため、父母の講じる対策に頼っているのが現状である。よって、性犯罪常習者の情報公開は親権者に必要な情報といえる。
(2)一方、常習性の犯罪歴があるとはいえ、平穏な社会生活を送る権利が前科のある者にも必要なだけでなく、社会全体で円滑な社会復帰の後押しをする必要もあるため、円滑な社会復帰を妨げる法律は個人の尊厳を著しく傷つけるものであり原則許されない。
(3)ただ、当該法律は、開示対象者を子供に対する性犯罪常習者に限定し、開示請求権者を非開示者に居住する13歳未満の親権者に限るとすることで、非開示者の人権制約との均衡を図っている。
(4)よって、目的と手段の適合性や必要最小性から合憲性を判断すべきと考える。
4 目的
子供の性犯罪被害を防止するためには、親権者への情報提供が必要な社会的状況であるため、当該法律の目的は重要といえる。
5 手段
(1)上述のように開示請求者、非開示者の範囲が限定されているため、プライバシー権の制約は必要最小にも思われるが、個々の対象者の被開示期間が一律無期限であることは、再犯のおそれがなくなったと認められる者への過重な制約となる。更生の度合いに応じ、対象者から外す手段が不可欠である。(2)顔写真は、正確な情報を開示請求者に提供するために定期的に更新する必要があり、非開示対象者の更生具合の確認と顔写真情報の更新を定期的に行うのでなければ、手段として不相当なだけでなく、目的との適合性も不充分と判断せざるを得ない。
6 以上により、本件法律は違憲である。