第1問
P株式会社の代表取締役Aは、第三者割当ての方法で、取引先Q株式会社に対し、発行価額50円で大量に新株を発行した。P社株式の株価は、過去1年間1000円前後で推移していたが、この新株発行により、大幅に下落するに至った。ところで、この新株発行は、取締役会の決議を経てはいたが、株主総会の決議を経ないままされたものであった。
P社の株主Bは、商法上どのような手段をとることができるか。新株発行事項の公示(商法第280条ノ3ノ2)がされていなかった場合はどうか。
出題趣旨
本問は、株式会社において違法な新株発行が行われた場合に、不利益を受ける旧株主には、商法上どのような救済手段が存在するかを問う問題である。具体的には、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対し特に有利な価額で新株が発行された場合に、旧株主は、当該新株発行の効力を争うことができるか、関係者の民事責任を追及することができるか、当該新株発行事項の公示がされていなかった場合はどうかについて、判例・学説の状況を理解した上で、整合的に論述することが求められる。
答案作成手順
第1 設問前段
1 募集株式発行無効の訴え(828条1項2号)
(1)Bは、P社の行った募集株式発行の無効を裁判所に提起する手段をとれないか。
(2)P社は公開会社であるが、新株を引受人に有利な金額で発行する場合に必要となる株主総会の特別決議を得ていないため、募集株式発行が無効ではないかが問題となる(199条2項、201条1項、309条2項)。
(3)募集株式発行に関する上記法令違反によって株主に生じた損害は、①既存株式の価値の低下と、②既存株主の持ち株比率の低下である。
(4)①については、株主代表訴訟(847条)で損害の補填が予定されており、②については、公開会社の場合、持ち株比率の低下は予定されている(202条3項3号)ため、違法にならない。
(5)発行した新株の無効化は、資金調達の困難と株取引の安全を損ない、会社経営を煩雑化させる点からも安易には認められない。
(6)以上により、募集株式発行無効の訴えは手段にならない。
2 「差額」の支払請求(212条1項1号)
(1)Aは、第三者割当で取引先Q社に1000円の株を50円で発行していることから、不公正に支払いを免れた金額をQ社に請求できないかが問題となる。
(2)Aは、Q社のみに大量の新株を「著しく不公正な払込金額」で発行していることから、「通じて」いたと認められる。
(3)よって、Q社はP社に対し、払込金額と募集株式の公正な価額との差額を支払う義務を負う。
(4)Aの社内影響力が大きく、P社がQ社に請求しない場合、Bが6カ月以上株式を保有しているなら、Q社に対する支払い請求の訴えを提起するようP社に求めることができる(847条1項)。そして、Bの請求から60日以内にP社が訴えを提起しない場合、Bが上述の訴えを提起できる(847条3項)。
(5)以上により、212条1項、847条1項及び同3項の手段をとることができる。
3 役員の責任追及(429条)
(1)上述の募集株式発行による株価の下落で株主にも金銭的被害が及んでいるため、直接Aら役員に損害賠償請求ができないか問題となる。
(2)株主も「第三者」になり得るが、株主全般に及ぶ損害と特別の株主に及ぶ損害は、会社法上救済制度が異なると考えられ、株主Bが「第三者」となり得るのは、Bに特別に生じた損害がある場合のみと解する。よって、株主全般に発生している本問の損害については、株主全般の救済制度の活用が原則になり、Bは「第三者」にはあたらない。
(3)以上により、役員の責任追及は手段たり得ない。
第2 設問後段
1 募集株式発行の無効の訴え(828条1項2号)
(1)Bは、募集株式発行停止請求(210条2号)の機会を通知(299条2項2号)をせずに奪ったP社に対し、P社が行った募集株式発行の無効の訴えを裁判所に提起できないか。
(2)発行した新株の無効化は、資金調達の重要性と株取引の安全保護及び会社経営を煩雑化から認められないのが原則である。しかし、株式の発行が著しく不公正な方法により行われる場合に、その情報が株主に周知されないということは、会社法が予定している株主保護の制度が機能しないということであるから、制度不全の損失の大きさと原則との比較考量が必要になる。
(3)本問の場合、取引の相手はQ社のみ、得られる資金は著しく低いため、制度不全を犠牲にする有利性が原則にはない。よって、例外的に募集株式発行の無効の訴えを提起できると解する。
(4)以上により、募集株式発行の無効の訴えは手段となり得る。
以上
第2問
A株式会社の取締役である甲は、A社の代表取締役ではないにもかかわらず、代表取締役であった父親が死亡した際に、取締役会の決議を経ることのないまま、議事録を作成して、A社の代表取締役に就任した旨の登記をした。
甲は、振出人を「A株式会社代表取締役甲」とし、受取人をBとする約束手形をBに対して振り出した。さらに、Cは、この手形を裏書によりBから取得した。
Cは、どのような場合に、だれに対して手形金の支払を請求することができるか。
出題趣旨
本問は、自ら代表取締役である旨の虚偽の登記をした取締役がその会社の代表取締役の名称で振り出した約束手形の効力について、不実登記の効力、表見代表取締役等の表見法理による第三者保護規定との関係において整理された論述をすることができるかどうかを見る点に主眼がある。手形行為と表見代理、代理権の瑕疵と手形の転得者の保護等についての基本的理解を踏まえて類似事例を処理する応用力が試されるが、それとともに、裏書人の担保責任、無権代理人の責任についての言及も求められる。