国際私法は、国境を越える法律問題(渉外的法律関係)に、どの国の法律を適用すべきかを決定するためのルールです。その構造は、主に「抵触規定」と呼ばれるルールを通じて、最終的に適用されるべき法律、すなわち「準拠法」を導き出す仕組みになっています。
国際私法の基本的な構造
国際私法の構造は、大きく分けて以下の3つのステップで成り立っています。
- 法律関係の性質決定: 問題となっている法律関係が、契約、不法行為、婚姻、相続など、どのカテゴリーに属するのかを判断します。
- 連結点の特定: 次に、その法律関係と最も密接な関係を持つ国や地域(法域)を特定するための「目印」となる事実(連結点)を探します。
- 準拠法の決定: 最後に、特定された連結点が指し示す国の法律を、その法律関係に適用されるべき準拠法として決定します。
この「法律関係 → 連結点 → 準拠法」という一連の流れが、国際私法の基本的な枠組みです。これを定めているのが抵触規定であり、日本では主に「法の適用に関する通則法」(通称:通則法)に規定されています。
準拠法とは?
準拠法とは、具体的な渉外的法律関係に適用されるべき実質法(権利や義務の内容を定める法律)のことです。例えば、以下のようなケースで問題になります。
- 日本在住のフランス人が、アメリカ・カリフォルニア州の会社とオンラインで売買契約を結んだが、トラブルになった。
- 日本人がハワイで運転中に、韓国人観光客に怪我をさせてしまった。
- 日本人と中国人がタイで結婚したが、その後日本で離婚することになった。
これらのケースでは、どの国の民法や商法を適用して問題を解決するのかを決めなければなりません。その際に、国際私法の手続きを経て選ばれるのが準拠法です。
準拠法を決定する「連結点」
準拠法を導き出すための鍵となるのが連結点(連結要素)です。これは、法律関係と特定の国を結びつける客観的な事実を指します。主な連結点には以下のようなものがあります。
| 連結点の種類 | 説明 | 主な適用分野 |
| 当事者の国籍 | 関係者の国籍がどの国にあるか。 | 親子関係、相続など |
| 当事者の住所・居所 | 関係者がどこに住んでいるか。 | 法律行為の能力、失踪宣告など |
| 法律行為地 | 契約の締結地など、法律行為が行われた場所。 | 法律行為の方式 |
| 目的物の所在地 | 不動産や動産など、問題となる物がどこにあるか。 | 物権 |
| 不法行為地 | 損害を与える行為が行われた場所。 | 不法行為 |
| 当事者による選択 | 契約の当事者が、どの国の法律を適用するかを合意で選ぶこと。 | 契約(当事者自治の原則) |
具体例:契約の場合
例えば、契約の準拠法は、当事者自治の原則により、まず当事者が自由に選択できます(通則法第7条)。もし当事者が準拠法を選択していない場合は、その契約に「最も密接な関係がある地」の法律が適用されます(通則法第8条)。この「最も密接な関係がある地」は、通常、契約の特色を決定づける義務を負う当事者(例えば、売買契約なら売主)の常居所地などが考慮されます。
このように、国際私法は、直接的に権利や義務を定めるのではなく、どの国の法律を適用すべきかという「ルールを選択するルール」としての役割を担っており、その核心的な概念が準拠法なのです。