既判力とその人的範囲の原則

まず、既判力(きはんりょく)とは、確定した終局判決に認められる効力の一つで、「その判決で判断された内容(訴訟物)について、後の別の裁判で当事者は蒸し返して争うことができず、裁判所もそれに反する判断をしてはならない」という拘束力のことです。これにより、紛争の蒸し返しを防ぎ、法的安定性を確保します。
この既判力は、原則としてその裁判の当事者間でのみ生じます(相対効の原則)。しかし、この原則を厳格に貫くと、判決の効力を容易に免れることができてしまい、裁判制度が無意味になってしまいます。
そこで、民事訴訟法は、当事者以外にも既判力が及ぶ者(人的範囲の拡張)を定めています。その代表的な例が「口頭弁論終結後の承継人」です。

口頭弁論終結後の承継人とは

これは、判決の基準時である口頭弁論の終結後に、判決内容の対象となった権利や義務(訴訟物)を、当事者から引き継いだ(承継した)人のことを指します。
口頭弁論の終結時: 事実審(第一審や控訴審)の裁判官が「これをもって審理を終えます」と宣言し、判決を下すための事実と証拠の収集を締め切る時点です。既判力が判断する内容の基準時となります。
承継人:
包括承継人: 相続人や合併後の会社など、当事者の権利・義務を包括的に引き継ぐ者
特定承継人: 訴訟の目的となっている物(例:係争中の土地)や権利(例:係争中の債権)を個別に譲り受けた者

なぜ既判力が承継人に及ぶのか(条文と趣旨)

この効力の根拠は、民事訴訟法第115条1項3号に定められています。

民事訴訟法 第115条(確定判決の効力が及ぶ者の範囲)

  1. 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
    1. 当事者
    2. 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
    3. 口頭弁論終結後の当事者の承継人
    4. (省略)

趣旨(なぜこのような規定があるのか)

この規定の趣旨は、判決の効力の潜脱(せんだつ)を防ぎ、実効性を確保することにあります。
もし、この規定がなければ、以下のような不都合が生じます。
【例:土地の所有権を巡る裁判】
AがBに対して「この土地は私のものだ」と主張し、所有権移転登記を求める裁判を起こす。
裁判所がAの主張を認め、「BはAに所有権移転登記をせよ」という判決を下すため、口頭弁論を終結する。
判決が確定する直前に、敗訴しそうなBが、友人のCにその土地を売却し、登記も移してしまう。
判決が確定しても、土地の名義はすでにCに移っているため、AはBに対する判決を使ってCから土地を取り戻すことができない。
Aは、今度はCを相手に再び同じ内容の裁判を起こさなければならなくなり、紛争が無限に繰り返される可能性がある。
このような事態を防ぐため、口頭弁論終結後に係争物を譲り受けた承継人Cには、前の裁判の判決の効力(既判力)が及ぶとされています。これにより、AはBに対する勝訴判決をもって、承継人であるCに対しても権利を主張・執行することが可能となり、裁判制度の目的が達成されるのです。

既判力が及ぶための要件

承継人に既判力が及ぶには、以下の要件を満たす必要があります。
有効な確定判決が存在すること 既判力の大前提です。
承継が「口頭弁論の終結後」であること これが最も重要な要件です。口頭弁論の終結「前」に承継した者には、この規定による既判力は及びません。
終結前の承継人: 訴訟の係属中に目的物を譲り受けた者は、訴訟に参加したり、当事者から訴訟を引き継いだり(訴訟承継)する機会があります。そのような手続き保障があるため、既判力の拡張の対象とはなりません。
終結後の承継人: 訴訟に参加する機会がなく、前の当事者の訴訟追行の結果をそのまま引き受けざるを得ない立場にあります。
「訴訟物たる権利義務」の承継であること 判決で争われた中心的な権利・義務(例えば、土地の所有権、貸金返還請求権など)についての承継である必要があります。

承継人の善意・悪意は問われるか?

承継人(例:上記のC)が、その物が裁判で争われていることを知らなかった(善意であった)としても、既判力は及びます。承継人の主観的な事情は考慮されません。これは、取引の安全よりも、判決の効力を確保し、法的安定性を維持することを優先しているためです。

まとめ

項目内容
対象者口頭弁論終結後に、訴訟の目的となった権利・義務を当事者から引き継いだ者(相続人、譲受人など)。
根拠条文民事訴訟法 第115条1項3号
趣旨判決の効力が、敗訴者による権利譲渡などで骨抜きにされること(効力の潜脱)を防ぎ、裁判制度の実効性を確保するため。
効果前の裁判の確定判決の既判力が及ぶ。承継人は、前の裁判の結果に拘束され、蒸し返して争うことはできない。
ポイント承継の時期が「口頭弁論終結後」であることが絶対的な要件。承継人の善意・悪意は問われない

このように、「口頭弁論終結後の承継人」に対する既判力の拡張は、民事裁判で得られた結果を無意味なものにしないための、極めて重要な制度的保障と言えます。

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