民事訴訟における共同訴訟の3つの主要な形態、「単純併合(通常共同訴訟)」「同時審判申出共同訴訟」「主観的予備的併合」について、それぞれの違いが明確になるよう、特徴や具体例を交えて解説します。
はじめに:共同訴訟とは?
共同訴訟とは、一つの訴訟手続きで、複数人が原告または被告となって裁判を進める形態のことです。これにより、関連する紛争を一度に解決でき、当事者や裁判所の労力・費用を節約できます(訴訟経済)。
ここでご紹介する3つの制度は、訴訟の目的である請求が、共同被告(または共同原告)の間でどのような関係にあるかによって使い分けられます。
違いが一目でわかる比較表
まず、3つの制度の最も重要な違いを比較表で示します。特に「合一確定の要否」が最大のポイントです。
| 制度名 | 単純併合(通常共同訴訟) | 同時審判申出共同訴訟 | 主観的予備的併合 |
| 法的根拠 | 民事訴訟法 第38条 | 民事訴訟法 第41条 | 民事訴訟法 第40条 |
| 制度の目的 | 関連紛争の単純な一括解決 | 矛盾した判決が出るのを事実上防ぐ | 矛盾した判決を絶対に許さず、原告の権利を保護する |
| 請求の関係 | 関連性があればOK(同種・共通など) | 法律上両立しない関係 | 法律上両立しない関係(かつ、請求に順位をつける) |
| 合一確定の要否 | 不要(バラバラの判決OK) | 不要(理論上は矛盾判決もあり得る) | 必須(必ず統一的な判決) |
| 審理の原則 | 共同訴訟人独立の原則 | 共同訴訟人独立の原則(+弁論分離の禁止) | 必要的共同訴訟の規律(上訴不可分など) |
| 具体例 | 複数人の乗客が事故を起こしたバス会社を訴える | 契約の当事者がAかBか不明な場合に両者を訴える | 契約の相手はA(主位)だと思うが、Aが代理人と主張した場合に備え本人B(予備)も訴える |
1. 単純併合(通常共同訴訟)
最もシンプルで原則的な共同訴訟の形です。
特徴:「共同訴訟人独立の原則」(民事訴訟法39条)
各共同訴訟人は、他の共同訴訟人とは関係なく、独立して訴訟を進めます。
ある人の主張や提出した証拠は、原則として他の人には影響しません。
その結果、判決が共同訴訟人の間でバラバラになることがあります。
例:原告Aは勝訴、原告Bは敗訴という判決があり得ます。
具体例
1台のバスが事故を起こし、乗客していたAさん、Bさん、Cさんがそれぞれケガをした。
A・B・Cさんが共同原告となり、バス会社(被告)に対して損害賠償を請求する。
この場合、ケガの程度や治療費は各人異なるため、裁判所はAさんには100万円、Bさんには50万円の支払いを命じ、Cさんの請求は証拠不十分で棄却する、といった別々の結論を出すことができます。
2. 同時審判申出共同訴訟
単純併合の一種ですが、「法律上両立しない請求」について、裁判所に特別な申出をして利用する制度です。
特徴:矛盾判決の回避を目指すが、義務ではない
目的は、原告の請求に対して、被告Aへの請求は認められるのに、それとは両立しないはずの被告Bへの請求も認められる、といった「矛盾した判決」が出るのを防ぐことです。
そのため、審理を分離することが禁止され、証拠は共通で使われます。
しかし、あくまで合一確定は要求されていないため、裁判所が法解釈などを誤り、矛盾した判決を出してしまう可能性は理論上残ります。
具体例
XさんがYさんから絵画を購入したが、Yさんは「自分はZさんの代理人として売っただけだ」と主張し、Zさんは「Yさんには代理権を与えていない」と主張している。
買主Xさんは、売買代金の支払いをYさんとZさんのどちらにすべきか分かりません。
そこでXさんは、YさんとZさんを共同被告として「売主はYまたはZである」と主張し、代金の支払いを求める訴訟を提起します。売主はYかZのどちらか一方であり、法律上両立しません。この場合に、同時審判の申出をすることができます。
3. 主観的予備的併合
原告が負けるリスクを減らすための、より強力な制度です。被告に対する請求に「主位的」「予備的」という順位をつけます。
特徴:「合一確定」が絶対に必要
共同訴訟人の間で判決内容が食い違うことは絶対に許されません(必要的共同訴訟に関する規律が準用)。
裁判所はまず、主位的請求について審理します。
主位的請求が認められれば(原告勝訴)、予備的請求については判断せずに判決となります。
主位的請求が認められない場合(原告敗訴)に限り、予備的請求について審理・判断します。
これにより、原告は「少なくともどちらか一方には勝てる(または両方敗訴する)」という統一的な判断を得ることができ、権利関係が明確になります。
一人が上訴すれば、全員にとって判決全体が未確定となり、上級審に移ります(上訴不可分の原則)。
具体例
貸主Xさんが、Yさんにお金を貸したと主張し、Yさんを被告として貸金の返還を求める(主位的請求)。
これに対し、Yさんが「自分はZさんの代理人として借りただけで、自分に返済義務はない」と主張する可能性があります。
そこでXさんは、もしYさんへの請求が認められなかった場合に備えて、本人であるZさんを被告として貸金の返還を求める請求を併合します(予備的請求)。
これにより、裁判所はまずYさんへの請求を審理し、これが通らなければZさんへの請求を審理するため、Xさんとしては「貸主としての権利」の実現をより確実に図ることができます。
まとめ
これらの制度は、原告がどのような解決を望むかによって使い分けられます。
単純併合:関連する複数の請求を、とりあえずまとめて審理してほしい場合に利用する最も基本的な形。
同時審判申出共同訴訟:被告たちの言い分が食い違っており、矛盾した判決を避けたいが、審理は柔軟に進めてほしい場合に利用。
主観的予備的併合:被告たちの責任の所在が不明確で、絶対に矛盾のない統一的な判決を得て、権利を実現したい場合に利用する最も強力な形。
どの制度を選択するかは、訴訟戦略上、非常に重要な判断となります。