勾留における罪証隠滅のおそれは、被疑者が事件に関する証拠を隠したり、偽造・変造したり、証人を脅したりする具体的な危険性があるかどうかを指します。裁判官が勾留を決定する上で、逃亡のおそれと並んで最も重要な要件の一つです。

その判断は、単に「可能性がある」というだけでは足りず、客観的な状況主観的な事情を総合的に考慮して、罪証隠滅の現実的・具体的な可能性があるかどうかが慎重に判断されます。


主な判断要素

客観的要素

事件や証拠の状況など、外部から客観的に判断できる事情です。

  • 事件の性質: 組織的な犯罪や共犯者がいる事件では、口裏合わせや関係者への働きかけが懸念されるため、罪証隠滅のおそれが高いと判断されやすい傾向にあります。
  • 証拠の性質と所在:
    • 物的証拠: 凶器や契約書など、客観的な証拠が警察に押収されていれば、隠滅の対象となる証拠が少ないと判断されることがあります。
    • 供述証拠: 目撃者や被害者の証言など、人の記憶に頼る証拠が中心の場合、その人たちへ働きかける(脅迫、懐柔など)危険性が高まります。
  • 共犯者・関係者の存在: 共犯者や事件関係者がまだ見つかっていない場合や、被疑者と密接な関係にある場合、連絡を取って証拠隠滅を図る可能性が考慮されます。

主観的要素

被疑者自身の態度や状況に関する事情です。

  • 被疑者の供述態度:
    • 否認・黙秘: 容疑を全面的に否認したり、黙秘したりしている場合、自分に不利益な証拠を隠そうとする動機が強いと判断されやすいです。
    • 不合理な弁解: 事実と矛盾する説明を繰り返す場合も同様です。
  • 事件後の行動: 事件発覚後、被害者や目撃者と接触しようとしたり、関係者に口裏合わせを頼んだりした事実があれば、罪証隠滅のおそれが強く推認されます。
  • 被疑者の経歴や性格: 前科(特に同種の前科)の有無や、反社会的な性格、社会的影響力の大きさなども考慮されることがあります。

判断の具体例

罪証隠滅のおそれが肯定されやすいケース罪証隠滅のおそれが否定されやすいケース
組織犯罪の幹部で、部下に指示して証拠を隠す可能性がある。単独犯で、凶器などの主要な証拠は全て押収済み。
共犯者がまだ逃走中である。目撃者がおらず、客観的な物的証拠のみが争点。
容疑を全面的に否認し、関係者への接触を試みている。早期に容疑を認め、反省の態度を示している。
被害者や目撃者を脅迫したことがある。被疑者と証人との間に面識や接点がない。

最終的には、これらの要素を個別の事件ごとに裁判官が総合的に評価し、被疑者の身柄を拘束して捜査を進める必要性が、それによって被る被疑者の不利益を上回る場合にのみ、勾留が認められます。

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