司法試験予備試験用法文を適宜参照して、以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは、Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「1 私は、母であるAと父であるBとの一人息子です。Aは令和6年3月25日に亡くなり、Bは平成25年10月1日に亡くなりました。Yは、Aの弟です。
私は、大学に進学してから実家を出ています。Aは、Bが亡くなった後、A宅のある土地(以下「甲土地」という。)とその東側に隣接する土地(以下「本件土地」という。)を相続し、一人暮らしをしていました。
Aが所有していた本件土地の東隣には、Y宅のある土地(以下「乙土地」という。)があります。本件土地は、甲土地と乙土地の間に挟まれており、位置関係としては、本件土地の西隣に甲土地が、本件土地の東隣に乙土地があります。本件土地は、東西に約5m、南北に約50mの細長い土地で、甲土地や乙土地の通路として使用することができます。
Yは、Y宅でYの妻と生活していましたが、令和5年7月25日からはYの息子であるCともY宅で同居しています。AとYは、家族ぐるみで親戚付き合いをしていました。
2 私は、令和6年4月になって、Yから、本件土地を代物弁済によってAから譲渡されたと聞き、本件土地の登記を確認したところ、別紙登記目録(省略)記載の代物弁済を原因とするYへの所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がなされており、また、Yが本件土地の西側(甲土地との境界上)に柵(以下「本件柵」という。)を設置し、本件土地を乙土地の通路として占有使用していることを知りました。
3 私は、Yに抗議しましたが、Yは、Aとの間で、令和5年1月26日にYのAに対する貸金20万円の弁済に代えてYが本件土地を取得する合意をし(以下「本件代物弁済契約」という。)、別紙の代物弁済契約書(以下「本件契約書」という。)を作成したとしてこれに応じません。また、Yは、将来の相続を考慮し、令和7年中には、Cに対し、乙土地と本件土地を生前贈与すると述べています。
そこで、私は、Yに対し、本件登記の抹消と本件土地の明渡しを求めたいと思います。」弁護士Pは、令和7年4月5日、【Xの相談内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対し、Xの希望する本件登記の抹消と本件土地の返還を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとした。
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい(なお、本件訴訟において、Yが【Xの相談内容】3項に記載された事前交渉時のYの言い分のとおり主張をしたことを前提とすること。)。
⑴ 弁護士Pが、本件訴訟において、Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物及びその個数を記載しなさい。なお、訴訟物が複数ある場合は、併合態様についても記載しなさい。
⑵ 弁護士Pが、本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第134条第2項第2号1)を記載しなさい。なお、付随的申立てについては、考慮する必要がない。
⑶ 弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項2。以下同じ。)を記載しなさい。なお、訴訟物が複数ある場合は、【見出しの例】のとおり、訴訟物ごとに分けて記載し、対応する訴訟物を明示すること。
また、いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとして、訴訟物を明示するとともに、請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。
【見出しの例】:「請求原因1(消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)」「請求原因2:(準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)」など

⑷ 弁護士Pは、本件訴訟に先立って、XのYに対する請求権の実現を保全するために民事保全命令の申立てを行うこととした。弁護士Pが申立てを検討すべき民事保全命令を全て挙げ、その保全の必要性の要件について記載した上で、本件で保全の必要性が認められることについてどのような主張をすべきかを簡潔に記載しなさい。

答案作成手順

第1 設問1(1)
1.訴訟物  ①所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権:1個  ②所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権:1個

2.併合態様  単純併合
第2 設問1(2)
1.被告は、原告に対し、本件土地を明け渡せ。

2.被告は、原告に対し、本件土地について、令和5年1月26日代物弁済を原因として、〇〇地方法務局(※1)令和○年○月○日受付第○号(※2)をもってなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。 (※1:管轄は法務局の名称を特定するのが望ましいが、「法務局」等でも可。※2:受付番号が問題文にない場合は空欄または○で示す)
第3 設問1(3)
1.請求原因1(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)
(1)Aは、本件土地を元々所有していた。
(2)Aは、令和6年3月25日、死亡した。
(3)Xは、Aの唯一の子であり、Aを単独相続した。
(4)Yは、本件土地を占有している。
2.請求原因2(所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権)
(1)上記請求原因1の(1)ないし(3)記載の事実。
(2)本件土地について、Y名義の所有権移転登記(令和5年1月26日代物弁済を原因とするもの)が存在する。
第4 設問1(4)
1.検討すべき命令  ①占有移転禁止の仮処分命令(民事保全法25条の2第1項3)  ②処分禁止の仮処分命令(同法23条1項4
2.保全の必要性の要件  ①については、占有を移転されることにより、本案判決を執行することができなくなるおそれがあること(25条の2第1項)。  ②については、目的物の現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあること(23条1項)。
3.具体的主張  Yは、将来の相続を考慮し、令和7年中には第三者であるCに対して本件土地及び乙土地を生前贈与すると述べている。このままでは、本案訴訟中に占有が移転し、あるいは登記名義が変更される蓋然性が高く、Xが本案判決を得ても執行が不能、あるいは著しく困難になるおそれがあるため、保全の必要性が認められる。


〔設問2〕
弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
「私の息子であるCがY宅に戻ってくることになりました。私は、乙土地の西側にある、雑草の生えた空き地である本件土地を通路として使用するため、取得しようと考え、令和4年11月、Aに相談しました。
Aは、本件土地を日常的に通路として使用しているが、値段にはこだわらないと述べました。私は、Cが、令和2年5月1日、Aに対し、生活費として20万円を貸し付けていたこと(以下「本件貸金債権」という。)を思い出し、Cから本件貸金債権を譲り受け、その弁済に代えて本件土地をAから譲り受けることにしました。そこで、私は、令和5年1月25日、Cから本件貸金債権を無償で譲り受けました。また、Cは、同日、Aに電話し、Cが私に本件貸金債権を譲渡したことを通知しました。
その上で、私は、令和5年1月26日、Aとの間で、本件貸金債権の弁済に関し本件代物弁済契約を締結しました。私は、本件土地の所有権移転登記を了し、また、本件土地の西側に本件柵を設置して乙土地の通路として使用し始め、現在、本件土地を占有しています。
Cは、令和5年7月25日にY宅に戻って、私と私の妻と同居しています。
令和5年2月13日に本件土地について代物弁済を原因とする所有権移転登記手続を経ており、本件土地の所有者は私です。本件登記は、本件代物弁済契約に基づくものであり、私には本件登記を保持する権原があります。」
弁護士Qは、【Yの相談内容】を前提に、Yの訴訟代理人として、本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。その際、弁護士Qは、【Yの相談内容】を踏まえて、抗弁を主張することとした。
【Yの相談内容】について、抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載しなさい。なお、【見出しの例】のとおり、主張内容を簡潔に示した見出し(他の主張との違いが分かるような具体的なもの)を付け、請求原因が複数ある場合は攻撃防御の対象となる主張を明記すること。また、【見出しの例】のとおり、抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)が共通する場合、まとめて記載してよい。
【見出しの例】:「抗弁1:免除(請求原因1・2に対し)」「抗弁2:消滅時効(請求原因1に対し)」など

答案作成手順

抗弁1:代物弁済による所有権取得(請求原因1・2に対し)
1.Cは、Aに対し、令和2年5月1日、弁済期を定めず
(※1)、生活費として20万円を貸し付けた。
2.Cは、Yに対し、令和5年1月25日、上記1の貸金債権(以下「本件貸金債権」という。)を譲渡した。
3.Cは、Aに対し、令和5年1月25日、上記2の債権譲渡の通知をした。
4.Yは、Aとの間で、令和5年1月26日、本件貸金債権の弁済に代えて、AがYに対し、本件土地を譲渡するとの合意(以下「本件代物弁済契約」という。)をした。
5.Aは、Yに対し、令和5年2月13日、本件土地について、本件代物弁済契約を原因とする所有権移転登記手続を経た
(※2)
(※1:問題文に弁済期の定めがないため、期限の定めのない消費貸借として記載します。なお、この事実は「債務の存在」を基礎付けるものです。) (※2:代物弁済による所有権移転の効力は、原則として登記等の給付完了時に生じます(最判昭39.11.26等)。そのため、登記完了の事実は抗弁として必須です。)

〔設問3〕
本件答弁書を受け取った弁護士Pは、Xに事実関係を確認した。Xから聴取した内容は以下のとおりである。
【Xからの聴取内容】
「1 Aがわずか20万円の本件貸金債権の弁済に代えて時価50万円の本件土地を譲渡するはずがありません。
2 AがCから令和2年5月1日に20万円を借りたことは間違いありません。私は、令和3年4月にそのことをCから聞いた際、同年1月15日に、私が所有していたパソコン1台をCに対して代金20万円で売却して引き渡したものの、代金をCから受領していないことを思い出しました。そこで、私は、Aには伝えないまま、Cに対し、令和3年4月10日、上記代金債権をもって、CのAに対する20万円の本件貸金債権と相殺する旨を電子メールで伝えました。したがって、本件代物弁済契約締結当時、上記のとおり相殺したことで本件貸金債権は存在していなかったことになります。
3 その後、Cは、令和4年3月になって、私に対し、パソコンは無償で譲り受けたものなのだから、上記の相殺は納得ができないと言い始めました。私は、言いがかりだと思いましたが、従兄弟であるCと事を荒立てたくはありませんでした。そこで、私は、Aには内密にAに代わって、令和4年3月7日、Cに対して20万円を弁済しました(以下「本件弁済」という。)。弁済することは、Aの意思にもCの意思にも反しなかったはずです。
私が有効な弁済をしたことは、Yも知っていたはずです。そうすると、本件弁済によって本件貸金債権は消滅していたことから、本件代物弁済契約は無効となるはずです。また、Yは、実際には本件弁済によって本件貸金債権は存在していないにもかかわらず、これがあるかのように装って、Aを騙して本件代物弁済契約を締結させたのですから、詐欺に当たり、私は、仮に本件代物弁済契約が締結されていたとしても、本件代物弁済契約を取り消したいと思いました。そこで、私は、令和6年4月10日、Yに電話し、本件弁済によって本件貸金債権は消滅していたにもかかわらず、Aを欺罔して本件代物弁済契約を締結させたことは詐欺に当たることから、本件代物弁済契約を取り消す旨を伝えました。
4 さらに、仮に本件代物弁済契約が有効であるとしても、Aは、Cが実家に戻ってYと同居することから本件土地を手放したと思います。そこで、AとYは、Cが令和5年中にYとY宅で同居を開始することを、本件土地を譲渡する条件とする合意をしていたと思います。」
弁護士Pは、【Xからの聴取内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、本件訴訟の準備書面(以下「本件準備書面」という。)を作成した。
その際、弁護士Pは、【Xからの聴取内容】を踏まえて、再抗弁を主張することとした。
⑴ 【Xからの聴取内容】2項の下線部について、再抗弁として主張するか否かの結論を記載しなさい。その上で、再抗弁として主張する場合には、再抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載し、主張しない場合はその理由を記載しなさい。
⑵ 【Xからの聴取内容】4項について、再抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載しなさい。なお、後記⑶アのとおり、裁判官は、争点整理の結果、上記の具体的事実(要件事実)は審理する必要がないと判断したが、本問の回答に当たっては、この点は考慮する必要はない。
⑶ 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件訴状、本件答弁書及び本件準備書面が陳述された。
ア 裁判官は、設問1【Xの相談内容】を含む本件訴状におけるXの主張を検討し、⑵の事実は審理する必要がないと判断した。攻撃防御方法としての位置付けを踏まえながら、その理由を記載しなさい。
イ Yは、本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件弁済がされたことは否認するが、仮に本件弁済がされたと認められた場合、本件弁済がAの意思やCの意思に反するなどの本件弁済の効力を争う主張はしないと発言した。裁判官は、当該発言を踏まえ、【Xからの聴取内容】3項の下線部について、再抗弁として主張させる必要がないと判断した。攻撃防御方法としての位置付けを踏まえながら、その理由を記載しなさい。

答案作成手順

第1 設問3(1)
1.結論  主張しない。

2.理由  相殺(民法505条1項)は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合に、対等額で消滅させるものである。本件において、相殺の自働債権(パソコン代金債権)の債権者はXであり、受働債権(本件貸金債権)の債務者はAである。債務者以外の第三者であるXが、自己の債権をもってAの債務を相殺することは、互益性の欠如から認められない(互いに対立する債権であるという「対立性の要件」を欠く)。したがって、Xのメールによる相殺の意思表示は法的効力を有さず、再抗弁として成立しないため。
第2 設問3(2)
再抗弁:停止条件(抗弁1に対し) 1.AとYは、本件代物弁済契約を締結する際、Cが令和5年中にYとY宅で同居を開始することを、本件土地の譲渡(効力発生)の条件とする合意をした。
第3 設問3(3)ア
Xは相談内容1項において、Cが令和5年7月25日からY宅で同居している事実を認めている。そうすると、仮にXが主張する停止条件(Cが令和5年中に同居すること)の合意が存在したとしても、その条件は既に成就している。
 条件が成就すれば契約の効力は発生するため(民法127条1項)、この主張はYの代物弁済の効力を否定する根拠にはなり得ず、攻撃防御方法として「法律上の利益(主張の必要性)」を欠くからである。
第4 設問3(3)イ
Xの主張によれば、本件弁済(第三者弁済)により本件貸金債権は既に消滅している。弁済によって債権が消滅していれば、その後に締結された代物弁済契約は、消滅した債務を目的とするものであり、客観的に無効となる。
 一方、詐欺取消しは、契約の成立を前提にその効力を否定するものであるが、弁済による消滅が認められれば、取消しを待たずして代物弁済の効力は否定される。Yが弁済の効力(有効性)を争わない以上、Xとしては「弁済の事実」さえ立証すれば目的を達することができ、より立証困難な「詐欺の主観的要件(欺罔行為や錯誤)」を審理する必要がなくなるからである。

〔設問4〕
第1回口頭弁論期日において、弁護士Qは、本件代物弁済契約の締結を裏付ける証拠として、本件契約書(なお、押印部分以外は全てパソコンで作成されている。)を、「A」作成部分の作成者をAとして提出し、書証(乙第1号証)として取り調べられた。これに対し、弁護士Pは、同期日において、本件契約書のうちA作成部分の成立を否認し、A名下の印影がAの印章によることは認めた。
第2回口頭弁論期日において、XとYの各本人尋問が実施され、Xは【Xの供述内容】のとおり、Yは【Yの供述内容】のとおり、それぞれ供述した(それ以外の者の尋問は実施されていない。)。
なお、【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】のうち下線部については該当する以下の書証が提出されて取り調べられており、その成立に争いがない。
令和6年4月時点で本件土地の時価が50万円である旨が記載された不動産鑑定士作成の不動産鑑定書(甲第1号証)
令和5年2月10日にAとYが立ち会い、AとYが甲土地と本件土地との境界を確認したことが記載された同日付けの土地家屋調査士作成の境界確認書(乙第2号証)
令和5年1月26日付けで発行されたAの印鑑登録証明書(乙第3号証)
令和5年1月20日付けで作成されたAと工事業者である株式会社Dとの間の請負工事契約書(以下「別件請負契約書」という。)(乙第4号証)
【Xの供述内容】
1 Aは、本件土地を北側にある県道への通路として、日常的に使用していました。私がAを相続したことから、甲土地と本件土地を第三者に売却しようと、不動産鑑定士に鑑定を依頼したところ、本件土地の時価は50万円でした。Aがわずか20万円の本件貸金債権の弁済に代えてYに本件土地を譲渡するはずがありません。
2 本件土地の草むしりなどの管理は、Y夫婦が行っていたと聞いています。
3 Yは、Aが自宅を修繕するために工事業者を呼んで契約を締結する際、Aから実印を預かって、Aの代わりに、別件請負契約書に押印しました。Yは、このときAから預かった実印を、Aの許可なく使用して、本件契約書に押印したのだと思います。
4 なお、Aは、令和5年1月当時、手が不自由で署名はできませんでした。
【Yの供述内容】
1 Aと私は、姉弟であり、隣に住んでいました。
2 本件土地は、乙土地の西側に存在する、東西に約5m、南北に約50mの細長い土地で、雑草が生えている空き地です。本件土地は、夏場はすぐに雑草が生えて虫が湧いてくるため、近所から苦情が寄せられないよう、夏場は月に1回は除草などをしなければなりませんが、A一人ではできないため、私や私の妻が手伝っていました。Aは、本件土地の管理に困っていたため、私が本件土地を20万円の対価で取得することに賛成していました。
3 私は、本件契約書のうち押印部分を除いてパソコンで作成し、令和5年1月26日の朝、A宅を訪問してAに書類の内容を説明し、押印した本件契約書を、Aの印鑑登録証明書とともに私の自宅に届けるよう伝えました。
私は、同日の夕方、私の自宅の郵便受けを確認すると、A名下にAの印影がある本件契約書と同日付けで発行されたAの印鑑登録証明書が入っていました。本件契約書のAの印影は、Aの印鑑登録証明書の印影と一致しています。なお、本件契約書にはAの署名はなく、記名がされていますが、これは、当時、Aは手が不自由で字がうまく書けなかったためです。
4 私は、令和5年2月20日、本件土地の西側(甲土地との境界上)に本件柵を設置し、本件土地を通路として日常的に使用し始めました。本件柵を設置するに先立って、令和5年2月10日、土地家屋調査士に依頼し、甲土地と本件土地との境界を確定することにし、私とAが立ち会って、甲土地と本件土地の境界を確認しました。
5 私は、Aが自宅を修繕するために工事業者と請負契約を令和5年1月20日に締結する際、Aに頼まれて、同日、Aの実印を預かり、別件請負契約書に押印したことはありますが、すぐにAへ返却しており、Aの実印を勝手に使用したことなどありません。また、別件請負契約書のA名下のAの印影と、本件契約書のA名下のAの印影とは一致していません。Aは、私に対し、令和5年1月22日に古い実印の印鑑登録を廃止し、新しい実印の印鑑登録をしたと話していました。
以上を前提に、以下の問いに答えなさい。
弁護士Qは、本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、準備書面を提出することを予定している。その準備書面において、弁護士Qは、前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、本件代物弁済契約が締結された事実が認められることにつき、主張を展開したいと考えている(なお、Xが令和3年1月15日、パソコン1台をCに代金20万円で売った事実、Xが令和4年3月7日、Cに対して20万円を弁済した本件弁済の事実はいずれも立証されていないものとする。)。弁護士Qにおいて、上記準備書面に記載すべき内容を、提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて、答案用紙1ページ以内で記載しなさい。なお、記載に際しては、本件契約書のA作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。

答案作成手順

第3回口頭弁論期日における準備書面
1.本件契約書の成立の真正について  本件契約書(乙1)の「A」名下の印影は、Aの印章によるものであることを原告は認めている。これにより、Aの意思に基づき押印されたものと事実上推定され(一段目の推定)、民事訴訟法228条4項5により、本件契約書は真正に成立したものと推定される(二段目の推定)。
2.
原告の反証(実印冒用主張)の不合理性  原告は、被告が1月20日の別件請負契約(乙4)の際に預かったAの実印を冒用した旨主張する。しかし、以下の事実から、当該主張は失当である。
(1)実印の相違: 乙4に使用された印影と、本件契約書(乙1)の印影は一致していない。
(2)改印の事実: Aは、1月20日の契約後、同月22日に旧実印の登録を廃止し、新たな実印を登録している。被告が1月20日に預かったのは「旧実印」であり、1月26日作成の本件契約書に使用された「新実印」を被告が冒用する機会は存在しなかった。
(3)印鑑登録証明書の存在: 被告は、本件契約書とともに、作成日と同日の1月26日発行のAの印鑑登録証明書(乙3)を、A本人から郵便受けへの投函という形で受領している。手が不自由なAが自ら改印手続を行い、さらに当日発行の証明書を被告に交付した事実は、Aが本件代物弁済の意思を確定的に有していたことを強く推認させる。
3.代物弁済合意を推認させる間接事実
(1)
土地管理の負担: 本件土地は夏場の除草等の管理負担が重く、高齢で手が不自由なAにとって単独での維持は困難であった。管理を事実上担っていた被告に、債務(20万円)の弁済として譲渡することは合理的な動機がある。
(2)
契約後の行動(境界確認): 合意後の2月10日、Aは土地家屋調査士による境界確認(乙2)に自ら立ち会っている。これは本件土地を被告へ譲渡することを前提とした行動であり、合意の存在と合致する。
(3)
対価の妥当性: 時価50万円に対し債務20万円での譲渡であるが、親族間の取引であることや、上述の管理負担、将来の相続(Cの同居)を考慮すれば、著しく不当な対価とはいえず、合意の認定を妨げない。
4.結論  以上のとおり、二段の推定が維持されるのみならず、客観的証拠(乙2〜4)及び時系列に照らし、本件代物弁済契約がAの真意に基づき締結された事実は優に認められる。


〔設問5〕
裁判官は、第2回口頭弁論期日において、弁護士Qに対し、準備書面の提出をすべき期間を定めた。その法的根拠と目的を簡潔に記載しなさい。

答案作成手順

1.法的根拠  民事訴訟法162条(期間の定めがある準備書面の提出等)6
2.目的  争点及び証拠の整理を充実させ、審理の計画的な進行を図るため。


(別紙)
(注)押印部分以外は全てパソコンで作成されている。
代物弁済契約書
AとYは、YのAに対する20万円の貸金の弁済
に代えて、AはYに本件土地を譲渡することに合意
致しました。
令和5年1月26日


(出題の趣旨)

設問1は、所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権及び所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権が問題となる訴訟において、原告の希望に応じた訴訟物、その個数と併合態様、請求の趣旨及び請求を理由づける事実の内容を問うものである。また、前記訴訟において、原告代理人が申立てを検討すべき民事保全命令を挙げ、保全の必要性の要件について記載した上で、その当てはめを問うものである。前記訴訟物や請求原因の要件事実、民事保全法などにつき、正確な理解が求められる。
設問2は、被告の主張(代物弁済)に関し、民事実体法の要件・効果を踏まえ、抗弁事実の内容を問うものである。主張の位置付けについて事案に即した正確な分析が求められる。
設問3は、原告の主張(相殺、停止条件、詐欺取消し)に関し、民事実体法の要件・効果を踏まえ、再抗弁事実の内容や主張の当否を問うものである。攻撃防御方法として意味があるか否かといった観点から、主張の位置付けについて事案に即した正確な分析が求められる。
設問4は、被告代理人の立場から、本件代物弁済契約を締結した事実が認められることに関し、準備書面に記載すべき事項を問うものである。要証事実についての証拠構造を正確に捉え、本件契約書に作成名義人の印章により顕出された印影があることを踏まえ、いわゆる二段の推定が働くことを前提として、事案に即して、認定根拠に言及しながら、被告にとって有利又は不利となる重要な事実を適切に分析・評価し、説得的に論述することが求められる。
設問5は、民事訴訟手続に関し、法的根拠(条文)と目的を問うものである。民事訴訟法の正確な理解が求められる。

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