〔第1問〕(配点:50)
A男(甲国籍)とB女(日本国籍)は20年前に日本で適法に婚姻し、その後も日本で婚姻生活を営んでいた。婚姻から5年後にAB間に生まれた子C(出生時は甲国と日本の重国籍者であったが、既に甲国籍を選択した。)は、現在14歳である。Aは、5年前に日本で交通事故に遭って重傷を負い、頭部への受傷に起因する精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況となって、回復は絶望的な状態に陥った。この時点におけるAの所有財産として、日本国内には不動産、動産、預金債権及び有価証券が、甲国内には不動産があった。
以上の事実に加え、甲国民法は年齢18歳をもって成年とする旨の規定を有していることを前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各問は独立した問いであり、全ての問いにおいて、反致については検討を要しない。
〔設問1〕
Bは、日本の家庭裁判所にAの後見開始の審判の申立てをすると同時に、Aの後見人の選任を申し立てた。この場合において、後見開始の審判と後見人の選任の審判のそれぞれにつき、日本の家庭裁判所の国際裁判管轄権は認められるか。また、日本の家庭裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定した場合には、Aの後見開始の審判及びAの後見人の選任の審判について、それぞれいずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
〔設問2〕
交通事故後のAの容態は一進一退を繰り返していたが、結果的に臓器の損傷が原因となって日本の病院で死亡した。Aの死後、Bは日本でCを監護養育していたが、Bもまた重篤な病を得て死亡した。Bの死後、Bの母であるD(日本国籍)がCを引き取り、Dは継続してCを日本で監護養育している。Dは、日本の家庭裁判所にCの後見人の選任を申し立てた。Dは、自らになついているCの後見人になることを希望しており、後見人となる能力にも問題はない。
Cの後見人選任の審判事件について、日本の家庭裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定する。
この場合において、Cの後見人としてDを選任することができるか否かについて、準拠法の決定過程を示しつつ、答えなさい。
なお、甲国民法は、次の①〜③の趣旨の規定を有している。
① 成年に達しない子は、父母の親権に服する。親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
② 後見は、次に掲げる場合に開始する。
未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
③ 未成年者の父若しくは母が死亡しているか又は親権を喪失したときは、次に掲げる者が、第1号から第3号の順序で、特別の手続を要することなく当然に後見人となる。
第1号:祖父母
第2号:兄、姉
第3号:その他の親族
〔設問3〕
交通事故後のAの容態は一進一退を繰り返していたが、結果的に臓器の損傷が原因となって日本の病院で死亡した。Aは幼少期に甲国の社会福祉施設で育ち、その施設を運営する社会福祉法人Eにいつか恩返しをしたいと考えていた。Eは、甲国にのみ事務所を有する甲国法人である。
Aが7年前に日本において作成した遺言書には、「甲国所在の不動産をEに遺贈する。」旨が記載されている。また、当該遺言書の作成に当たり、Aは、その全文、日付及び氏名を自書した上で、これに押印をした。B及びCは、Aの死後に遺言書の存在を知ったところ、甲国における近年の不動産価値の高騰を踏まえてAの遺産を適正に評価すれば、Eに対する本件遺贈により自分たちの遺留分が侵害されていることとなる旨主張して、Eを被告として、日本の裁判所に、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する訴えを提起した。なお、Aの遺言の成立時点及び死亡時点におけるその所有財産の所在地及び種類は、Aが交通事故に遭った時点と同じである。もっとも、Aが遺言を作成した後、交通事故に遭ってから死亡するまでの間に、Aの治療のために多額の費用を要し、その支払の原資にはAの所有する日本国内の財産が充てられたことから、Aの所有する日本国内の財産の合計額は大きく減少していた。
〔小問1〕
日本の裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定する。この場合において、本件遺言は有効に成立しているか。仮に、本件遺言が有効に成立しているとした場合には、本件遺言による贈与は有効に成立しているか。いずれの問いについても準拠法の決定過程を示しつつ、答えなさい。
なお、甲国民法は、次の④〜⑦の趣旨の規定を有している。
④ 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
⑤ 15歳に達した者は、遺言をすることができる。遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
⑥ 自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
⑦ 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
〔小問2〕
B及びCが主張する遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が認められるかどうかの問題について、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
〔第2問〕(配点:50)
Xは、日本に住所を有する日本人であり、陶磁器製の食器の収集を趣味としている。Xは、30年ほど前から毎年、陶磁器の生産が盛んな甲国に赴いて1週間ほど滞在し、甲国内の複数の陶磁器製造・販売業者(後出のY社、Z社を含む。)の営業所を訪れて、気に入った食器の購入を行っている。Xは、10年ほど前からは、自身の趣味としての収集だけでなく、事業として、甲国内で仕入れた食器を日本国内の顧客向けに販売している(この事業を行うに当たっては、日本の自宅建物の一部を営業所として使用している。)。
Y社は、食器を中心とする陶磁器製品の製造・販売を業とする、甲国に本店を有する甲国の会社であり、甲国以外には営業所も財産も有していない。Y社は、創業から長い歴史を有する老舗であり、Y社製の食器は、世界的なブランドになっている。Y社は、自社製の食器を他社には卸さず、
甲国内の自社の営業所でのみこれを販売するとの経営方針を採っており、世界各国のバイヤーは、甲国内のY社の営業所に赴いてY社製の食器を仕入れた上で、それぞれ自国内の顧客向けにこれを販売している。Y社とY社製の食器の買主との間で締結される売買契約においては、後述のとおり、商品引渡地は定められていないものの、Y社は、買主から依頼があれば、買主の費用負担により、買主の指定場所に宛てて商品を発送することとしている。Y社製の商品の中でも、磁器製の皿の表面に甲国伝統の模様を顔料で描いた絵皿が特に有名であり、Y社は、毎年、模様を変えた新たな絵皿を発売している。
Z社も、食器を中心とする陶磁器製品の製造・販売を業とする、甲国に本店を有する甲国の会社であり、Z社製の食器も、Y社製の食器と同様に世界的なブランドになっている。Z社は、Y社とは異なり、自社製の食器を他社に卸しているほか、甲国以外の国にも営業所を展開するなどしており、世界各国のバイヤーは、様々な経路を通じてZ社製の食器を仕入れることができる。
Y社では、一定金額以上の商品を販売する際には、Y社が用意した売買契約書2通にY社と買主の双方が署名した上で、それぞれが1通ずつを保管するという方法を採っている。これは、甲国法上、一定金額以上の物品の売買については、当事者全員が署名した書面による契約書を作成していなければ、当該売買契約は効力を生じないとされていることによるものである(後掲の甲国契約法P条を参照。)。Y社の売買契約書には、甲国法を契約準拠法とする旨の条項が置かれているが、商品引渡地や代金支払地などの債務の履行地を定める条項、債務不履行による損害賠償債務の履行地を定める条項、裁判管轄や仲裁などの紛争解決方法に関する条項は、いずれも置かれていない。
Y社は、新商品を含むY社の取扱商品の一覧表カタログを毎年発行し、それを優良顧客に宛てて送付しており、数年前からは、Xに対しても当該カタログを送付していた。
新型コロナウイルス感染症が世界的にまん延拡大していた令和3年において、Xは、Y社の営業所に赴くことなくY社の商品を購入したいと考え、Y社に対して、インターネットを利用した映像と音声を送受信する方法によるオンライン会合を開催して商談を行うことを提案した。Y社は、Xが優良顧客であったことから、特別にこの提案に応じることとした。オンライン会合において、Xは、購入を希望するY社製の新商品である絵皿(以下「本件商品」という。)のカタログ番号をY社に伝え、これを受けてY社が示した本件商品のカタログ写真の映像を確認した上で、Y社との間で、本件商品を500セット購入する内容の売買契約(以下「本件契約」という。)を口頭で締結した。本件契約の締結に際して、XとY社の間で、Xが本件商品のカタログ記載の価格にXの住所までの送付費用を加えた売買代金全額をY社名義の甲国所在の銀行口座に振り込んで支払うこと
が合意されたが、それ以外の事項については、従前からの取引を通じて、XにおいてもY社の売買契約書の記載内容を十分に承知していることを踏まえ、Y社の売買契約書の記載内容と同様の扱いをすること(本件契約の準拠法を甲国法と定めることのほか、本件商品の引渡地や紛争解決方法に
ついては特段の定めをしないことなどが含まれる。)が合意された。なお、この時点では、XとY社は、本件契約に関する契約書を作成していない。
XがY社から本件商品500セットを購入したのは、日本有数の百貨店チェーンであるA社からの依頼に基づくものであった。A社は、日本全国に展開する百貨店の各店舗において「甲国物産展」を行うことを予定しており、その目玉商品として甲国製の食器皿を販売することとし、その仕入れ
をXに依頼していた。Xは、本件契約の締結後、直ちにA社との間で本件商品500セットの売買契約(以下「転売契約」という。)を締結していた。
しかし、その後、本件商品について、使用されている顔料が人体の健康に重大な被害を及ぼすおそれがあるとの報道が世界各国でなされた。この報道を受けて、A社は、本件商品を「甲国物産展」の目玉商品とすることを断念し、品質に関する契約不適合を理由として、Xに転売契約の解除を通
知した。
以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各問は独立した問いである。
また、甲国契約法には次の条文が置かれており、本件契約は、甲国契約法P条の「政令で定める一定金額以上の物品売買契約」に該当するものであった。
【甲国契約法】
P条(一定金額以上の売買契約の方式)
政令で定める一定金額以上の物品売買契約は、当事者全員が署名した書面でしなければ、その効力を生じない。
Q条(債務の履行の場所)
契約上の債務の履行をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない。
[設問1]
A社から転売契約の解除の通知を受けて、Xは、Y社に対し、Y社の債務不履行を理由に本件契約を解除する旨を通知した(この時点で、Y社は、Xに売却する予定の本件商品500セットについて特定をしていなかった。)。そして、Xは、転売契約に係る自らの債務不履行責任の追及を避けるとともに、A社を取引先としてつなぎとめるため、本件商品に代わる「甲国物産展」の目玉商品となり得るものとして、急きょ、Z社製の食器皿500セットをZ社から購入し、転売契約と同一価格でA社に提供することとした。このZ社製の食器皿は、本件商品と比べると高額であったが、A社との間の転売契約で定められていた納期までに入手できる甲国製の食器皿は、Z社製の食器皿しかなかった。A社は、このようなXの対応に満足し、XからZ社製の食器皿500セットを購入することにしたが、Xは、結果的に多額の赤字を計上することとなった。
そこで、Xは、Y社を被告として、本件契約に関するYの債務不履行によって被った損害の賠償を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。本件訴えについて、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。
なお、甲国は、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下「ウィーン売買条約」という。)の締約国ではない。また、本件契約は、解除されるまで有効に成立していたものとする。
[設問2]
XとY社が口頭で本件契約を締結した当日に、Y社は、自らが署名した契約書2通をXの住所宛てに発送し、Xが署名した上で1通を返送するよう依頼した。その翌日に、Xは、カタログ記載価格に送付費用を加えた売買代金全額を、X名義の日本所在の銀行口座からY社名義の甲国所在の銀行口座に振り込んで支払った。その後、Y社の署名がされた契約書2通がXの住所に届いた。しかし、その翌日に、本件商品に関する報道がなされ、A社は、直ちにXに転売契約の解除を通知した。
そこで、Xは、届いた契約書には署名をしないまま、本件契約は甲国契約法P条の方式要件を満たしていないから当初から効力を生じていないと主張し、Y社を被告として、支払済みの売買代金全額の返還を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。
甲国がウィーン売買条約の締約国ではないとして、次の〔小問1〕及び〔小問2〕に答えなさい。なお、日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。
〔小問1〕
XがY社にオンライン会合を求めたのは、Xが甲国に入国した直後に甲国内で外出禁止令が出されたことが理由であった。Xは、甲国内で滞在していたホテルからY社とオンライン会合を行っていた。この場合に、本件契約が当初から効力を生じていないとのXの主張が認められるかどうかについて論じなさい。
また、甲国において外国人の入国を全面的に制限する措置が採られていたために、甲国に渡航することができなかったXが、自宅からY社とオンライン会合を行っていた場合はどうか、論じなさい。
〔小問2〕
Xが主張する支払済みの売買代金全額の返還請求が認められるかどうかの問題について、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
なお、本件訴えにおいて、本件契約が当初から効力を生じていないとのXの主張が認められることを前提とする。
[設問3]
甲国は、ウィーン売買条約の締約国であり、同条約で認められる留保宣言を一切行っていない。Xは、本件契約とは別途、自宅からY社とのオンライン会合を行い、Y社製の最高級ティーカップ・セットを1セット購入する内容の売買契約を口頭で締結していた。Xが、日本の裁判所に係属する民事訴訟において、この契約は方式要件を満たしていないため当初から効力を生じていないとの主張をしている場合に、日本の裁判所は、Xの当該主張が認められるかどうかの問題について、ウィーン売買条約を適用して判断すべきか。日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとして、同条約第1条及び第2条の規定に触れつつ論じなさい(同条約のその他の条文について論じる必要はない。)。なお、この契約を締結する際、Xは、配偶者へのプレゼントとしてティーカップ・セットを購入するものである旨をY社に伝えていた。

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