(〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は、7:3)
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】
Xは、Yに対して貸付債権を有していた(以下「本件貸付債権」という。)が、Xの本件貸付債権の回収に資すると思われるのは、Yがその母親から相続によって取得したと思われる一筆の土地(以下「本件不動産」という。)のみであった。不動産登記記録上、本件不動産は、相続を登記原因とし、Yとその兄であるZの、法定相続分である2分の1ずつの共有とされていたが、Xは、YとZが遺産分割協議を行い、本件不動産をYの単独所有とすることに合意したとの情報を得ていた。
そこで、Xは、本件不動産のZの持分となっている部分について、その所有者はZではなくYであると主張し、本件貸付債権を保全するため、Yに代位して、Zを被告として、本件不動産のZの持分2分の1について、ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める訴えを提起した(以下「本件訴訟」という。)。
〔設問1〕((1)と(2)は、独立した問題である。)
(1) Yとしては、Xの主張する本件貸付債権は既に弁済しており、XY間には債権債務関係はないと考えている。他方、本件不動産のZの持分の登記については、遺産分割協議に基づいて、自己に登記名義を移転してほしいと考えている。
この場合に、Yが本件訴訟に共同訴訟参加をすることはできるか、訴訟上考え得る問題点を挙げて、検討しなさい。
答案作成手順
1.共同訴訟参加(民訴法52条1)の可否
Yが本件訴訟に共同訴訟参加するためには、「訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一に確定すべき場合」にあたることが必要である。
(1) 「合一確定」の意義 ここにいう「合一確定すべき場合」とは、訴訟物たる権利関係が法律上、当事者間だけでなく第三者に対しても拡張される場合(類似必要的共同訴訟)を指す。
(2) 本件における判決効の拡張(115条1項2号2) 債権者代位訴訟において、債権者(X)が提起した訴訟の判決の効力は、債務者(Y)が代位訴訟の提起を知ったときは、Yに対しても及ぶ(115条1項2号、民法423条の53)。 したがって、本件不動産の持分移転登記請求権という訴訟の目的は、X・Z間のみならず、Y・Z間においても合一に確定される必要があり、原則としてYには共同訴訟参加の適格が認められる。
2.被保全債権の存否をめぐる論点
しかし、本件においてYは、Xが主張する本件貸付債権(被保全債権)の存在を否定している。この点が共同訴訟参加においていかなる問題を生じさせるか。
(1) 参加形態と主張の矛盾 共同訴訟参加は、既存の当事者(X)と「共同訴訟人」として同一の側に立つ形態である。しかし、債権者代位訴訟の適法要件である「被保全債権の存在」について、Xは肯定し、Yは否定している。 Yが「Xに代位権はない(被保全債権は消滅した)」と主張することは、自らが参加しようとする訴えそのものを不適法(却下)に導く主張であり、共同訴訟人としての歩調を合わせることができない。
(2) 訴訟要件の審理への影響 代位訴訟において被保全債権の存否は訴訟要件(原告適格の基礎)である。 Yが参加後に被保全債権の不存在を立証した場合、裁判所はXの訴えを原告適格欠如により却下しなければならない。このとき、共同訴訟参加したYの請求(Zに対する登記請求)がどのように取り扱われるかが問題となる。
3.独立当事者参加(47条4)との関係
実務・学説上、債務者Yが「被保全債権の存在」を争いつつ、自ら第三債務者Zに対して権利を行使したい場合は、独立当事者参加(権利主張参加または詐害防止参加)によるべきとされる。
理由: 独立当事者参加であれば、YはXに対しては「被保全債権の不存在(代位権の否定)」を主張し、Zに対しては「所有権(持分)の帰属」を主張するという、三面的な争いを一挙に解決できるからである。
これに対し、共同訴訟参加(52条)は、あくまで「Xの代位訴訟が適法であること」を前提に、その帰結(登記の移転)を確実にするための協力的な参加形態に適している。
結論
Yは共同訴訟参加の適格(合一確定の要請)自体は有する。しかし、被保全債権の存否についてXと対立している本件では、共同訴訟人としてXの側に立つことは主張の構造上困難であり、独立当事者参加によって自己の権利を主張すべきである。
(2) Xの得ていた情報とは異なり、YZ間の遺産分割協議は途中で頓挫していた。そのため、Yとしては、Zに対して登記名義の移転を求めるつもりはない。他方、YがXY間には債権債務関係はないと考えている点は、(1)と同様である。
この場合に、Yが本件訴訟に独立当事者参加をすることはできるか、訴訟上考え得る問題点を挙げて、検討しなさい。
答案作成手順
1.独立当事者参加(47条1項)の可否
Yが本件訴訟に独立当事者参加するためには、「訴訟の結果によって自己の権利が害されることを主張する」(詐害防止参加)、または「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する」(権利主張参加)のいずれかの要件を満たす必要がある。
2.権利主張参加の適否
権利主張参加(47条1項後段)は、本案の訴訟物について参加人が自己の権利を主張する形態である。 本件において、Xの訴訟物は「遺産分割を原因とするYのZに対する持分移転登記請求権」である。しかし、YはYZ間の遺産分割協議が頓挫したと主張しており、当該権利の存在自体を否定している。 したがって、存在しない権利について自己の権利であることを主張することはできず、権利主張参加の要件は満たさない。
3.詐害防止参加の適否
そこで、Yが「訴訟の結果によって自己の権利が害される」と主張して詐害防止参加(47条1項前段)することが考えられる。
(1) 「権利が害される」ことの意義 詐害防止参加における「権利が害される」とは、既存の当事者(XとZ)が共謀して参加人を害する判決を得ようとする場合に限られず、不当な判決が出されることによって参加人の法的地位が論理的に否定されるなど、判決が参加人の権利に直接的な影響を及ぼす場合をいう。
(2) 本件における影響 債権者代位訴訟の判決効は、債務者Yに及ぶ(115条1項2号)。もしXが勝訴すれば、実際には成立していない遺産分割協議が「成立した」ものとして確定し、Yの本件不動産に対する共有持分権(法定相続分2分の1)という法的地位が失われ、単独所有へと一方的に変更されることになる。 これは、遺産分割をやり直す機会を奪われるなど、Yの相続人としての法的利益を著しく害するものである。したがって、詐害防止参加の要件を満たす。
4.訴訟上の問題点:三面訴訟の構成
独立当事者参加は、原告・被告・参加人の三者を一挙に解決する三面訴訟である。Yはいかなる請求を立てるべきか。
対X(債権者): 被保全債権(貸付債権)の不存在を理由とする、代位権行使の差し止め、または代位権不存在の確認。
対Z(第三債務者): 遺産分割協議が成立していないことを前提とした、当該登記請求権の不存在の確認(または共有持分権の確認)。
このように、YがX・Z双方に対して「Xの主張する法的構成は誤りである」という独自の請求を立てることで、矛盾した判決を避けることが可能となる。
結論
Yは、本件不動産に対する自身の共有持分権が不当な判決によって侵害されることを防ぐため、詐害防止参加として独立当事者参加をすることができる。
〔設問2〕
〔設問1〕の場合と異なり、本件訴訟係属中に、XからYに対して訴訟告知がされたものの、Yが本件訴訟に参加することはなく、XとZのみを当事者として訴訟手続が進行し、その審理の結果、Xの請求を棄却する旨の判決がされ(以下「本件判決」という。)、同判決は確定した。
本件判決の確定後、Yの債権者であるAは、その債権の回収を図ろうとし、Yの唯一の資産と思われる本件不動産の調査を行う過程で、既にXから本件訴訟が提起され、Xの請求を棄却する本件判決が確定している事実を初めて知った。
Aとしては、本件不動産についてYの単独所有と考えており、Yに代位して、Zを被告として、本件不動産のZの持分2分の1について、ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続を求める訴えを提起することを検討しているが、確定した本件判決の効力がAに及ぶのではないか、という疑問を持った。
本件判決の効力はAに及ぶか、本件判決の既判力がYに及ぶか否かの検討を踏まえて答えなさい。
答案作成手順
1.本件判決の既判力が債務者Yに及ぶか
本件判決(X・Z間の判決)の効力が、当事者ではないYに及ぶかがまず問題となる。
(1) 原則と例外(民訴法115条1項) 既判力は原則として当事者間にのみ生じるが(115条1項1号)、例外として「当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人」にも及ぶ(同項2号)。債権者代位訴訟における債権者は、債務者のために訴訟を遂行する関係にあるため、これに該当し得る。
(2) 「知ったとき」の要件(民法423条の5、民訴法115条1項2号) かつての判例は、債務者が訴訟告知等により代位訴訟の提起を「知ったとき」に判決効が及ぶとしていた。現行法においても、債権者が代位権を行使したときは債務者に通知する義務があり(民法423条の5)、この通知や訴訟告知等により債務者が訴訟提起を知った場合には、民訴法115条1項2号により判決の効力が債務者に及ぶと解される。
(3) 本件への当てはめ 本件では、XからYに対して訴訟告知がなされており、Yは本件訴訟の係属を確実に知っている。したがって、本件判決の既判力はYに及ぶ。
2.本件判決の既判力が債権者Aに及ぶか
次に、Yに対する既判力が、別の債権者であるAにも及ぶかが問題となる。
(1) Aの地位と115条1項の適用 Aは本件訴訟の当事者ではなく、またYの承継人(同項3号)でもない。しかし、Aが代位行使しようとしている「YのZに対する持分移転登記請求権」は、既に本件判決によって(Yに既判力が及ぶ形で)その存否が確定している。
(2) 代位債権者の相互関係 債権者代位訴訟は、債務者の権利を代わりに管理・行使する制度である。複数の債権者が存在しても、行使される権利は「債務者の有する一個の権利」にすぎない。 もしAに既判力が及ばないとすると、Zは同一の権利について、別の債権者から次々と訴訟を提起されることになり、被告の二重応訴の負担や、判決の矛盾という不合理が生じる。
(3) 判例の立場 判例(最判昭48.11.16等)によれば、ある債権者が提起した代位訴訟の判決の効力が債務者に及ぶ場合、その効力は他の債権者に対しても及ぶとされる。これは、他の債権者も債務者の権利を代位行使する以上、債務者が受ける既判力に拘束されるのは、権利の性質上の帰結であるからである。3.結論
本件判決において、Zに対する登記請求を棄却する判決(=Yに権利がないという判断)が確定しており、その既判力は訴訟告知を受けたYに及んでいる。 AがYを代位して請求しようとする権利は、既に既判力によって否定された権利と同一であるため、本件判決の効力はAに及ぶ。 その結果、Aが提起する後訴において、裁判所は本件判決の内容と矛盾する判断をすることはできず、Aの請求は棄却(または訴えの利益を欠くとして却下)されることになる。
出題趣旨
本問は、債権者代位訴訟に関する訴訟法上の論点について、民法改正も踏まえた基本的理解を問うものであり、いずれの設問も、条文上の根拠を明確にし、いかなる要件や効果との関係で問題となるのか、問題の所在を適切に指摘することがまずは求められる。
〔設問1〕では、債務者が本問の事実状況において、当事者として債権者代位訴訟へどのような形で関与し得るかが問われており、その形態として、共同訴訟参加と独立当事者参加の検討を求めている。設問1(1)は、まずYがXに共同訴訟参加する場合の一般的要件として、当事者適格の存在や合一確定の必要を論じた上で、次に本問の事実状況からはYの主張によればXとYが共同訴訟人としての協力関係にないことがうかがわれるため、その点を踏まえてなお共同訴訟参加を認めることが適当か、合一確定の要請等も踏まえ、分析する論述が求められる。設問1(2)では、債権者代位訴訟における債権者の被保全債権の存否を争っているため、独立当事者参加として片面的な権利主張参加の可否が問題となる。
Yの主張するところをXに対する本件貸付債権に係る債務の不存在確認請求と法律構成した上で、権利主張参加の可否に関し、例えば、請求の非両立性といった規範を定立し、XとYの各請求内容やそれを基礎付ける主張事実を比較した場合はどうかにつき、Yにとって本件訴訟を牽制する必要性が高いという実質的観点も踏まえ、本件事案に即して具体的に検討されているかが問われている。
〔設問2〕は、債権者代位訴訟の判決効に関する問題である。まず債権者代位訴訟における既判力が債務者(Y)に及ぶかについて、改正後の民法下での理論構成を論じることが求められる。その上で、本件訴訟の判決効を代位債権者以外の債権者(A)に拡張することが肯定されるかを、第三債務者(Z)の保護等の観点も勘案しつつ、その理論構成と合わせて検討されているかを問うものである。