裁判における事実認定は、証拠をパズルのように組み合わせ、論理的に結論を導き出すプロセスです。その核心となるのが「証拠構造の理解」と「証拠の厳選」です。

事実認定を支える証拠の構造

裁判で証明しようとする事実(主要事実)を直接証明する証拠がない場合でも、他の事実を積み重ねて証明していきます。この証拠の結びつきを「証拠構造」といい、主に3つの要素で構成されます。

階層名称説明具体例(「AがBをナイフで刺した」という事実の証明)
頂点主要事実裁判で最終的に証明したい最も重要な事実。法律効果を発生させる要件となる事実。AがBをナイフで刺したこと。
中間間接事実主要事実の存在を推認させる(間接的に推測させる)事実。・AとBに金銭トラブルがあった。
・事件現場近くの防犯カメラにAが映っていた。
・Aの自宅から血の付いたナイフが発見された。
土台補助事実間接事実や証拠そのものの信用性(証明力)を強めたり、弱めたりする事実・防犯カメラの映像が鮮明であること。(証明力を強める)
・目撃者の視力が弱いこと。(証明力を弱める)
・Aがナイフの血痕について嘘の説明をしたこと。(供述の信用性を弱める)

このように、一つ一つの間接事実を補助事実で補強しながら積み上げ、最終的に主要事実を証明するという、ピラミッドのような構造になっています。


証拠の厳選:2つのフィルター

法廷に出されるすべての情報が「証拠」として採用されるわけではありません。証拠は、以下の2つの厳格なフィルターを通して厳選されます。

1. 証拠能力:法廷に入る資格があるか?

まず、証拠として法廷に持ち込むことが法律上許されるかどうかが問われます。これを証拠能力といいます。証拠能力がなければ、どんなに重要な内容でも裁判官は目にすることができません。

  • 違法収集証拠排除法則: 違法な捜査(例:令状なしの家宅捜索)で得られた証拠は、原則として証拠能力が否定されます。
  • 伝聞法則: 「Cさんから『Aが犯人だ』と聞いた」というような、また聞きの証言(伝聞証拠)は、原則として証拠能力がありません。話した本人を法廷で尋問できないため、内容の真偽を確認できないからです。
  • 自白法則: 本人に不利益な唯一の証拠が自白だけの場合は、有罪とすることができません。無理な自白を強要されることを防ぐためです。

2. 証明力:どれだけ信用できるか?

証拠能力という第一関門をクリアした証拠は、次にその証明力(信用性)が吟味されます。これは、その証拠が事実を認定する上で、どの程度の価値や重みを持つかという評価です。

  • 証言の信用性: 証言者の記憶の正確さ、利害関係の有無、態度の自然さなどから判断されます。
  • 物証の価値: DNA鑑定や指紋のように客観性が高く、証明力が高いものもあれば、状況によってはあまり意味をなさないものもあります。
  • 証拠の整合性: 他の証拠と矛盾していないか、全体のストーリーとして合理的かどうかが厳しくチェックされます。

裁判官(または裁判員)は、これらのフィルターを通過した質の高い証拠だけを基に、全ての証拠を総合的に評価し、論理と経験則に従って、最終的な事実認定(心証形成)を行います。このプロセスを自由心証主義と呼びます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA