不動産の二重譲渡では、原則として先に登記を備えた買主が所有権を主張できます(民法177条)。しかし、たとえ相手が先に登記を備えていても、特定の状況下では登記なくして所有権を主張できる場合があります。これが「抗弁理由」です。
主な抗弁理由は以下の通りです。
背信的悪意者に対する抗弁
これは最も代表的な抗弁理由です。相手方(第二の買主)が、単に最初の売買があったことを知っている(悪意)だけでなく、第一の買主の権利を害する目的など、信義に反する事情(背信性)をもって不動産を譲り受けた場合、第一の買主は登記がなくても所有権を主張できます。
「背信的悪意者」と判断される具体例
- 第一の買主を困らせる目的で、積極的に売主と共謀して不動産を買い受けた。
- 第一の買主が登記をしていないことに乗じて、不当に安い価格で売主から買い叩いた。
- 不動産を不当な利益を得る目的で転売するために介入した。
- 暴力団関係者などが、その社会的影響力を背景に登記を移転させた。
単に「先に売却された事実を知っていた」だけでは背信的悪意者にはならず、社会的に許されないような悪質な動機や目的が認められて初めて、この抗弁が認められます。
その他の抗弁理由
背信的悪意者以外にも、以下のようなケースで登記に対抗できる可能性があります。
- 無権利者からの譲渡
- そもそも第二の譲渡契約の時点で、売主がすでに完全に所有権を失っており、全くの無権利者であった場合。この場合、第二の買主はたとえ登記を備えても有効に権利を取得することはできません。
- 詐欺・強迫による登記
- 第二の買主が、売主を騙したり脅したりして登記を移転させた場合、その意思表示は取り消される可能性があります(民法96条)。取消しが認められれば、登記の有効性を争うことができます。
- 通謀虚偽表示
- 売主と第二の買主が共謀して、実際には売買の意思がないのに、あたかも売買があったかのように見せかけて登記を移転した場合(民法94条)。このような仮装の契約は無効であり、第一の買主はこの無効を主張できます。
これらの抗弁を主張するには、その事実を客観的な証拠に基づいて裁判で立証する必要があります。